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【選挙ウォッチャー】 ALPS処理水の海洋放出の問題点。

 今、ネットを中心に、全国の「おっきいおともだち」の皆さんが、福島第一原発の「ALPS処理水」と名付けられた水を海洋放出することは安全なんだと必死に訴えておられます。そして、「ALPS処理水」の海洋放出に反対することを「風評加害」という言葉を使って、まるで悪いことをしているかのように扱い、これを「イデオロギーの話」にしようとしています。
 しかし、今回の海洋放出をめぐる一番の問題は、「トリチウムが海にばら撒かれたら大変だぁ!」という単純な話ではなく、とてつもなく大きな問題として横たわるのは「経済」の話だと思います。

 全国の「おっきいおともだち」は、「汚染水」という言葉を極端に嫌っていて、これはあくまで「処理水」なんだと言っています。変態に真顔で「これは小便ではありません、聖水です!」と言われている気分ですが、呼び方をどう変えたところで、ここにトリチウムをはじめ、セシウム、ストロンチウム、ヨウ素、コバルト、ルテニウム、テクネチウムなど、完全に取り除くことが難しい物質が含まれていることは事実で、僕はこの中で特に「ヨウ素129」が十分に取り切れない状態で海洋放出することには反対ですが、今の「おっきいおともだち」の学習レベルは、「スポーツドリンクにもカリウムが入っているんだぞ!」とか「海の水には大量のウランが溶けているんだぞ!」なので、2011年3月から12年間、何一つ勉強してこなかった子たちに基礎知識から教えるのは大変です。もし需要があるようならば、改めて「ヨウ素129」の話をしたいと思います。


■ おっきいおともだち、大発狂

 福島第一原発の汚染水を海洋放出することは、どうして問題なのか。
 いつもだったら記事にするところですが、「おっきいおともだち」は文字を読むのが苦手なので、あえて動画を作ったところ、狙い通り、「おっきいおともだち」の間でしっかりとバズり、とりあえず見てもらうことには成功しました。
 今のところ、「おっきいおともだち」の反応は、「お風呂に対する入浴剤の比率がおかしい」「放射性物質には色がついてないのに、色のついた入浴剤で説明するのは間違えている」といったメカニズムを説明するための演出に引っかかり、「ALPS処理水、絶対安全、IAEAのお墨付き」のスタンスを崩しません。「おっきいおともだち」に本質を捉える能力はほとんどないので、動画の意図も理解できません。なので、今度は「ALPS処理水が『本当にただの水』だとして、どこに問題があるのか」という動画を作りたいと思います。「おっきいおともだち」のみんなが、どんなリアクションをするのか、今から楽しみです。


■ 海洋放出における最大の問題点

 全国の「おっきいおともだち」「ALPS処理水は安全!」と声高を叫ぶことによって、実は、めちゃくちゃ大事なことから人々の視線を逸らしています。
 今回の「ALPS処理水の海洋放出」における最大の問題点は、トリチウムが安全かどうか、あるいは、汚染水を「処理水」と呼ぶべきかという話ではありません。
 まず、日本政府はこれまで地元の漁師の方々に「皆さんが海洋放出をしても良いと言うまで、海洋放出をしません」と約束してきました。約束したからには、地元の方々に「ALPS処理水は、こんなに安全ですよ!」と説明しなければなりませんが、どのような説明がされてきたのかと言えば、こんな感じになっています。

 ベータ線を出すトリチウムのボトルに、日立アロカ製のガンマ線サーベイメーターを押し当てて、「数値に変化がないので安全です!」と言ってきました。「おっきいおともだち」は、こうした問題を指摘している僕に「オマエみたいな素人がガタガタ言うな!」と言ってきますが、これが科学的に正しいことを証明できる人が、この世のどこかに存在するでしょうか。
 政府や東京電力は、こうした嘘やデタラメを交えながら、地元の人たちを納得させようと試みてきました。しかし、少しでも知識がある人なら、すぐに「こんなのデタラメじゃないか!」と気づいてしまうので、全然納得してもらえません。むしろ不信感が募るばかりです。
 それでも、地元の漁協の皆さんは「海洋放出によって、自分たちの漁業にちゃんとダメージがないようにしてくれるなら、政府の話を聞かないことはない」というところまで歩み寄っていました。が、今回の海洋放出は、地元の漁師の方々がまったく了承していないのに、約束を破って、勝手に海洋放出を決めてしまったのです。
 しかも、その結果は、実に最悪です。
 日本の漁業にとって最大のお得意様であった中国・香港が、まさかの「禁輸」を決めてしまいました。直近2022年のデータでは、日本の水産物の総輸出額は3873億円になりますが、中国が871億円、香港が755億円なので、その合計は1626億円。中国・香港だけで42%を占めていた計算になります。
 しかも、中国で需要の高いホタテやフカヒレといった海産物を生業としている漁師の方々は、売上の9割が中国向けであることも珍しくなく、東京電力と日本政府は漁師の方々の約束を破ったばかりか、生活をぶっ壊しかねないレベルの大損害を与えているのです。
 もはや頸動脈を思いっきり切られ、首から血しぶきを上げながら「おいしい福島県産の魚を食べられないなんて、中国がかわいそう!」と言っているわけですが、約束を破って一番のお得意様を失わせておきながら「中国は非科学的だ!」と叫んでいるのですから、頭が悪いとしか言いようがありません。地元の漁師にすら説明をしないのですから、中国に説明なんてするはずもなく、ろくすっぽコミュニケーションができずに地元漁師の方々との約束まで破ってしまう日本政府が、中国の判断をとやかく言える立場にあるのでしょうか。


■ お得意先を失った穴埋めは「増税」で

庶民から「増税メガネ」というあだ名をつけられた岸田文雄総理

 百歩譲って、「ALPS処理水」と名付けた水を海に捨てるにしても、タイミングというものがあるはずです。地元漁師の了解を得て、中国にもしっかり説明をした上で、それでも中国が納得してくれないのなら、事前に他の国々に輸出できるような体制を整え、経済的な損失を最小限に抑える動きをした上で、それを海に流すというのなら、水が安全かどうかの議論を置いて理解できるものがあります。
 しかし、円安になり、ガソリン代が上がり、食料や生活必需品の価格まで上がり、物価高で庶民が苦しむ中で、あえてこのタイミングで海洋放出をすることで、売上の42%を失って帰ってくる。これほどの無能を見たことがありません。
 まだ漁師の方々が納得していたのなら、「そんなものに納得した漁師も悪いがな!」と言えたかもしれませんが、約束を破って、売上の42%を失って、全国の「おっきいおともだち」が何を言い出すかと思えば、「放射性物質には色がないのに、色のついた入浴剤で説明するのはおかしい!」です。気が狂っとんのかいな!
 政府は、売上が減った時に備え、300億円の基金を用意していたそうですが、いきなり1626億円が失われているので、全然足りません。中国以外に販路を拡大するために数百億円の予備費を用意するそうですが、これらはすべて税金です。ただでも税金が足りないと言って、インボイス制度を導入し、売上の少ない事業者から強引に消費税10%を召し上げ、増税をして人々の生活をさらに苦しいものに追い込もうというのに、これまで12年かけてコツコツと積み重ねてきた漁師の努力を、約束を破って水の泡にしたあげく、召し上げた税金で補填しようと言っています。そりゃ、ここまでバカだったら『増税メガネ』というあだ名がつきますわ!


■ 「海洋放出反対」は、誰のためか

 福島第一原発の後、少しずつ信頼を取り戻し、中国への販路も少しずつ拡大し、売上を取り戻してきた漁師の努力をぶち壊し、漁師との約束を破ったあげく、1626億円の経済損失を生み出し、それを補填するために我々の血税を使わなければならないアホアホ政策。
 海洋放出を中止しなくても、せめて「延期」をするだけで、地元の漁師の方々との話し合いはもちろん、中国とも交渉し、しっかりと理解をしてもらった上で、改めてダメージの少ない状態で海洋放出に踏み切れたかもしれません。延期をするだけで、セシウム134の半減期は2年、トリチウムの半減期は12年ですから、環境的な負荷を抑えることにもつながります。
 だから、一言に「海洋放出反対」と言っても、全員が「未来永劫ずっと反対し続ける」というわけではなく、「今はまだ反対」「このタイミングでは反対」という話もあったはずですが、「おっきいおともだち」は0か100でしか物事を考えられないため、「反対する人=パヨク」となり、「海洋放出に反対する人は、中国共産党を支持している!(キリッ」です。
 しかも、海洋放出によって収入を失い、血しぶきを上げているのは誰かと言えば、これまでコツコツと売上回復に努めてきた漁師の方々です。「海洋放出反対」と言っている人たちを「イデオロギーの問題=パヨク」として扱い、「バーカ、バーカ、非科学バーカ!」と罵っている間に、誰より守るべきはずの漁師の方々が首から血しぶきを上げているのです。これは、僕に嫌がらせをしたくて大量のパンフレットや代引商品を送っているが、実は、本当にダメージを受けているのは僕ではなく、一生懸命商売をしている会社の方々であるという「アホのカルト政党『NHK党』」と同じ構図です。


■ 極限のアホは福島の海で泳ぐ

海洋放出を受け入れ、自民党の応援に回ってしまう野党第一党の代表(引用元リンク

 岸田政権の愚策を批判するのは、野党の仕事です。
 ところが、今こそ存在感を示せるはずのタイミングで、全国の「おっきいおともだち」の声に押され、批判でもしようものなら、党の支持率が下がってしまうのではないかと心配する立憲民主党の泉健太代表をはじめ、国民民主党、日本維新の会は足並みを揃え、漁師の方々にまったく寄り添わず、焼け石に水でしかない「福島県産の魚を食べよう」をかましました。特にダメージを受けているのは、北海道、岩手県、宮城県などの漁師なのに、「福島の魚を食べて応援」です。問題の本質をまったく理解できていません。
 これだけでも十分にアホなのですが、この世には「極限のアホ」が濃縮している超アホアホ政党が存在します。それが皆さんご存知、「NHKから国民を守る党」です。脳味噌にアホのデブリが詰まっているのではないかと思うほどの「極限のアホ」は、先日の記者会見でこう述べました。

福島の海で泳ぐことを宣言した餃子屋潰しの参議院議員・齊藤健一郎(引用元リンク

「福島の海に6日に泳ぎに行こうかなというふうに思っております。まあそれで国会議員としてですね、福島の海は安全だということで少しでも風評被害が防げたらなぁというところで、(中略)そういったところの、やはりこういう日本の産業というものを守っていくというところで、国会議員としてできる一つの行動として、私がスポーツ得意ということもあって、トライアスロンのレースの練習がてら、福島の海に6日、泳ぎに行ってまいりますので、ぜひ皆さん、そのへん一緒に拡散していただけて、あの海が安全だということを一緒にアピールできたらいいんじゃないかなというふうに思っております」

 海外では普通に「Radioactive Water」と呼ばれているものを、日本国内では必死に「これは『汚染水』じゃない、『処理水』だ!」などと言いながら、全力で血しぶきを上げているドM国家・ニッポン。
 もう少し極めれば、「これは『小便』ではない、『聖水』だ!」と言いながら、女王様のおしっこをゴクゴク飲みながら四つん這いになれる境地に辿り着くと思いますが、もっと極限まで行くと、「国会議員の自分にできることは何か。ピコーン! そうだ! トライアスロンの練習を兼ねて、福島の海で泳ごう!」になります。マジで今のニッポンが、激烈ヤバいところまで来ているということを、一人でも多くの方に知っていただけたらと思います。


■ 選挙ウォッチャーの分析&考察

 このたび「おっきいおともだち」のみんなが、「バーカ、バーカ、非科学バーカ!」と叫ぶ中で、一般の方々が「えっ? ちだいって昔、食品のセシウムの測定をしていた人なの?」となり、10年前に出版された本にもかかわらず、今になって読んでみようと思う方が増えた結果、新刊であるはずのアホアホ政党の本より、10年前のセシウム測定データブックの方が売れるという現象が起こってしまいました。
 さすがに10年経った今は、あらゆる食べ物の汚染がかなりマシになっていて、それなりに多くの食品が「あまり心配しなくても良い」というレベルにまで落ちてきていますが、それでも魚も含め、「汚染されないわけではない」ということは理解していただけるのではないかと思います。個人的には「『NHKから国民を守る党』とは何だったのか?」を読んでいただきたいところですが、ぜひ「食べる?」も読んでみてください。

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