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智慧〈ちえ〉で生きる時代(2)

ブディズム〈仏教〉の「智慧べース」を見てみよう

ブディズム智慧ベース智慧海《ちえうみ》です。智慧海経蔵律藏論蔵三蔵〈さんぞう〉から成ります。よく知られている西遊記の主役である玄奨三蔵法師の三蔵はこの三蔵のことです。三蔵法師は三蔵に通じた偉い僧ということです。三蔵はサンスクリットにしても漢字にしても文字で表現されていますから、ぞの限りにおいて知識ですが、内容が圧縮されており解凍しなければなりません。内容を正しく読み取ることは容易ではなないのです。ここでいう解凍の意味は読み手が自分の言語能力を駆使して内容を汲み取ることです。それでようやく本当の智慧を悟ることになりますがその中身は人それぞれでしょう。
 在家のブディスト〈仏教徒〉が唱える三帰依文に「深く三蔵に入りて智慧海のごとくならん」とあります。見てすぐ分かると言うわけではないのです。

経蔵〈きょうぞう〉は、いわゆる「お経」で仏法経典の集合体です、「経典ベース」というのが適当でしょう。釈迦牟尼存命の時代から今日まで、膨大な数のお経が生まれています。しかし、釈迦牟尼が説かれたこの世の道理、ダルマ《法》は一貫して変わること無く伝えられ守られています。アーガマの時代、アビダルマの時代、大乗の時代、日本仏教の時代を通じて変わりははありません。

 釈迦牟尼入寂の時、「自分はこれまで教えたダルマの内にいる」と遺言されたと伝えられています。なぜ2500年もの間、変わり無くダルマが護られたか不思議ですが、それは釈迦牟尼のダルマが科学が開明した自然の摂理に合致していたからだと思います。数学的に言えば、ダルマと科学は同相〈どうそう〉なのでしょう。

律蔵は、釈迦牟尼が始められたサンガという仏法研究グループに加わる比丘、比丘尼が守るべき戒律の集合体です。比丘、比丘尼は出家した時から生業を断ち、仏法研究に専念するわけですから食糧は在家のサポータの布施に頼ります。さらに、釈迦牟尼と同じように煩悩を断つために200から300に及ぶ戒律を守り、修行して悟りを目指すのです。しかもそれらの戒律の遵守状態を確認する会合が満月と新月の日に月2回開催されるのです。
 自分の身体を使い、これほど厳しい条件で「人間の内面のハタラキ」を研究した例は他にないでしよう。釈迦牟尼の導きに従い、「悟りの実証実験」を行うようなものです。それだけに、この研究成果は人類のかけがいのない財産と言わねばなりません。

論蔵は、お経に対する解釈、サンガでの研究成果、それらの集合体です。現代風に言えば仏道研究の研究報告書に当たります。これが途中に紆余曲折があっても時代の変化に対応し、その時々の時代に相応しい仏法のあり方を開発してこれた原因でしょう。わが国では、鎌倉時代の親鸞、日蓮らの仏法の民主化や、明治以降の近代化の波を乗り越える貴重な実績があります。

 この時代の変化に対応する伝統は現代でも発揮されなければ成りません。葬式仏教とまで言われるブディズム〈仏教〉ですが、ブディズム〈仏教〉を宗教として下から見るのではなく、純粋なブディズムとして横から眺め、科学として、哲学として、宗教として捉える必要があるのではないでしょうか。

ブディズムの智慧のいろいろ

分かりやすいブディズムの智慧を眺めて見ましょう。ブディズムの理解に役立てば幸いです。釈迦牟尼は覚醒者である仏陀の世界では最高の五智如来に位置付けられ、その名も観察智如来〈かんさつちにょらい〉です。自然界と人間界をつぶさに観察して凡ゆる存在のハタラキに注目して数々の道理、法則を導き出しています。それらをダルマ(法)と呼んでいます。
 この時代に、凡ゆる存在の「目にも見えないハタラキ」に注目されたことは特筆しなければなりません。いま、全盛の西欧科学がハタラキに目を向けるのは2000年も後の16世紀です、ガリレオ、ニュートン、ライプニッツらが現れてからですから。

  1. 涅槃〈ねはん〉の智慧
    108個あると言う煩悩〈ぼんのう〉の世界を108次元の多様体と仮定します。108個の煩悩軸に沿って一つずつ克服して行くと多様体の原点に向います。例えば、貪欲〈どんよく〉と言う煩悩を考えて見ましょう。貪欲には強い、弱いが有りますから弱い向きに進むと原点に至ります。

     そうやって全ての煩悩を克服すると多様体の原点に到達します。この原点こそが108次元の煩悩世界を見渡せる涅槃だと考えても良いのではないでしょうか。

     ここから一切皆苦〈いっさいかいく〉の世界を展望すれば革新的な智慧を得ても可笑しくありません。高い山に登り見たこともない眺望が開けるのと同じです。釈迦牟尼は精進して全ての煩悩を滅し、この原点に立たれたと思われます。

  2. 一切皆苦〈いっさいかいく〉の智慧
    これは「人生はすべて苦である」と言う悟りの智慧です。最近は「安心で楽がいい」と言う人が多いいようですが、もともと「生を全うする」ことは容易なことではないと言うのです。

    現代の生物学が教えるところでは、一つの細胞が環境から独立し自己を確立した時から、生存のためのが始まります。環境の温度、浸透圧の変化に耐え、ウイルスの攻撃を防ぎ、内部の生理的条件を一定に保たねばなりません、生きている限り止められない仕事です。これがということでしょう。このは生存するための戦いで、生きている限り続きます。心理学的には「生存欲」と言います。

    また、細胞は繁殖しなければなりません。こちらは「繁殖欲」と言われます。
    ブディズムでは、現代の科学に先んじてを分類し、四苦八苦に纏めています。誠に驚嘆すべき分析力と洞察力です。顕微鏡が無くても、人間界の注意深い観察からこれほどの成果を挙げているのです。釈迦牟尼の「観察智」が科学の「分析智」に劣らないことを示しています。

  3. 輪廻〈りんね〉の智慧
    ブディズムの輪廻は天道、人道、修羅道、餓鬼道、畜生道、地獄道の六道輪廻です。この道〈どう〉は現世における境涯〈きょうがい〉を意味します.人間のいのちは過去、現在、未来と生まれ変わる循環系の中にあり、現世でどの境崖にいても、生まれ変わる先は「現世の生きざま」で決まると言う思想です。.現在では、輪廻は因果応報〈いんがおうぼう〉、悪因悪果<あくいんあっか〉などマイナスイメージが強いですが、いのちの循環を説く輪廻の現代的な価値は変わらないと思いますので、敢えてここで紹介しました。

    前記の1項で煩悩の多様体モデルを紹介しましたが、これをもう一度参照してください.108個ある煩悩のうち最も重要な貪慾〈どんよく〉、瞋恚〈しんい〉、愚痴〈ぐち〉の3つに絞った3次元の煩悩多様体を考えますと、これは現時点での煩悩世界の有様を、3つの煩悩を要素とする前述の六道に区分して表します.ここまでは誰でも考えられると思います.

    ブディズムの輪廻の凄いところは、これに時間軸を加えて4次元時空とし、六道が過去、現在、未来にどう変化するかを見えるようにしたことです.こうなると飛躍するようですが、この世の因果構造を表すミンコフスキー4次元時空と重なり、因縁生起〈いんねんしょうき〉の因果律〈いんがりつ〉を明瞭に理解できるようになります.

  4. 色即是空〈しきそくぜくう〉の空〈くう〉の智慧
    大乗経典の代表である般若経〈はんにやきょうに説かれているとても有名な言葉です。
    色即是空は我々が目にする「森羅万象〈しんらばんしょう〉は空〈くう〉である」と宣言しているのです。は生ぜず、滅せず、垢れず、浄からず、減らず、増さずと言いますが、理解することは容易ではありません。しかし、は釈迦牟尼が示唆し、龍樹がその存在を証明したブディズムの根本概念です。

  5. を現代的に捉える「空仮説〈うかせつ〉」を建てましたので紹介します。
    ・自然界は質量系の位相空間と考えられ、質量、ハタラキ、化合物、元素
     素粒子、エネルギー
    などの位相がある。

    ・釈迦牟尼は自然観察からハタラキの存在に気付き、それを統括する
     上位概念としてダルマ〈法)を考案した。

    ・般若経では、ダルマ此岸〈しがん〉のみならず彼岸〈ひがん〉にまで
     拡張し、この世とあの世を統合する概念としてとした。

    このように、の存在が立証されるとブディスムの諸法無我色即是空諸行無常輪廻転生が分かりやすくなり、さらにはブディズムのハイライトである阿弥陀仏〈あみだぶつ〉や極楽浄土〈ごくらくじょうど〉の存在などが明確になりす。

  6. 空仮説〈くうかせつ〉により輪廻〈りんね〉を再考する

    此岸〈
    しがん彼岸〈ひがんをエネルギー位相で捉えると輪廻〈りんね〉の説明も容易になります。
    良い行いをすればエネルギーが増大し、悪い行いをすれば減少することになり、死亡したときのエネルギーの総量により行き先が決まることになります。六道はそれぞれ順にエネルギーが多くなる固有のエネルギーをもち、それが現世の生き方で増減するのです。

    生き方の方向付けがとても分かりやすくなり、善因善果〈ぜんいんぜんか〉悪因悪果〈あくいんあっくか〉がすなおに理解されます。輪廻は倫理の源ですからとても重要な智慧です。

今回はこれまでとし次回はブディズム実践の智慧を紹介します。お付き合い有難うございました。

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