女子校という地獄的な楽園

異性を呼び捨てしたことがない、と言うとギョッとされる。でも、一度もない。

大学のときはどうしてたの? と聞かれるけれど、そもそも大学で異性を呼び捨てするコミュニティに入ったことがない。サークル? ない。組んでいたバンドに男の子はひとりだけいたけれど終始あだ名で呼んでたし、そもそも一対一で喋ったことがたぶんない。


大学に入ったときにカルチャーショックを受けたことがふたつあって、ひとつは男の子の背が高いことだった。
オリエンテーションで隣になった男子が筆記用具を忘れたと言うので鉛筆を渡したとき、おそらくほぼ初めて正面から18歳の男子を見た。「うわ、なんでこんな背高いんだよ」と思って周りを見渡すと、半分くらいはその(平均して)背の高い人たちだった。自分のなかの「男子」のイメージが小6以降アップデートされていなかったことに気づいたとき、くらくらした。

1週間後に行った新歓では、もうすでにグループみたいなものの基盤ができており、顔見知りの女の子が同級生の男子を指して「◯◯ん家、WOWOW見れるんだよ」と喋っているのが聞こえて、端的に言って最悪だった。


端の席でボソボソとコーラを飲んでいると、「私酔うと耳めっちゃ赤くなるの」と髪をかきあげている女の子が視界に飛び込んできた。都市伝説だと思っていた、“男子の前でだけ態度が180度変わる女の子”を見た瞬間だった。鳥肌が立った。
その子はごく自然に男子のグラスに口をつけ、自分の飲み物と交換してもらっていた。私は他人のグラスに勝手に手を伸ばすことすらためらう人間だったから、これがふたつめのカルチャーショックだった。


中高6年間を女子校で過ごし、同世代の男子のいる場(予備校や合コンや文化祭)にすべて行きそこねて18歳を迎えると最悪の場合、人はこうなる。

女子校の「ふつうに生活していたら異性と一切の関わりを持たなくていい」という状況の異常さに気づいて(あるいは気づかなくても、自分から興味を持って)男子の友達や彼氏を作れる子というのもちゃんといて、もちろん彼女たちは大学に入ってもなんらショックなど受けない。
問題はそうでない側の鈍感な我々で、「はいじゃあこれからは男女共学です、みんなで自然に仲良くしてね」と6年のあいだ閉じていたゲートを突如放たれたところで、こちらは18歳の男子に対するイメージなんてりぼんか別マかビバリーヒルズ青春白書でしか与えられていないのだ。

対応のしようがなくて、男女の自然な距離感という、本来なら18歳までに貯めてこなければいけないポイントカードのポイントを焦って貯めようとする。その結果ぶりっ子をして女子に嫌われたり、妙に露出の多い格好をしたり、おかしな挙動で男子にあざ笑われたりしてしまう。

自然な距離感ポイントを貯めることを放棄するケースもある。そのケースはもっと重篤で、男子と関わるイベントをことごとく避け、関わらなきゃいけない場合も極力最小のコミュニケーションで済ませ、女子とばかりつるむことになる。


……これは完全に偏った自論だけど、女子校というのは「なんでもひとりでできる女」と「なんにもひとりでできない女」を一定の割合を保ちながら排出し続ける恐ろしいマシーンみたいなものだ。
この割合が5:5なのか4:6なのか9:1なのかがいわゆる「校風」にあたる。進学校には前者が多いし、お嬢様学校、とか呼ばれるようなところだと比較的後者が多い。
男子に対する免疫ゼロな女子校出身者にこのふたつの要素を掛け合わせると、

・男子に対する免疫ゼロ×なんでもひとりでできる女=ヒモと付き合う
・男子に対する免疫ゼロ×なんにもできない女=彼氏に依存する

みたいな感じになる(極端な例だけど、近いケースは恐らくすごく多いです)。


私の場合は、男子と関わることのハードルを大学4年間かけて(アルコールに手伝ってもらいながら)徐々に徐々に下げていった。
LGBTの友達もできて、女子/男子ばかりが性別ではないことも知った。それでも、いまだに見た目が男性的な人と話すときは、すごく緊張する。目が見られない。


女子校は、楽園だった。
馬の合わない子も自分を嫌う子もたくさんいたけれど、重いものを持とうとすれば誰かが絶対に半分持ってくれて、バレンタインには手作りのガトーショコラやマフィンが飛び交い、合唱コンクールのハーモニーは映画みたいに美しかった。あれは間違いなく、ひとつの楽園だった。

それに気づけなかった私たちに、6年分かそれ以上のペナルティが与えられるのは仕方ないことなのだ。
泥臭く、社会に順応できているフリをしながら、なかなか合わないチューニングをし続けなきゃいけない。そうしないと私たちはきっと、いつまでたってもぎこちない。

#エッセイ
#コラム



この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

サポートほんとうにありがたいです。いただいたお金は、本を買うのに使わせてもらっています。

221

生湯葉 シホ

おきに

3つのマガジンに含まれています

コメント13件

>ユリさん あああ!すごく、すごくわかります……私もいまだに、女兄弟がいて物腰の柔らかい人としか仲良くなれないです……。笑 女子校育ち、根深いですよね……。笑
とても共感します。女子校で得たものも失ったものもきっと両方たくさんあるのでしょうが、たまに得たものが正しいのかすらわからなくなる時があります。鈍感に女子校で育つと変な歪みが生じますが、そもそも鈍感な時点で歪んでいるのかもしれません。
高校3年間男子校でした。中高一貫だったので周りは6年男子校なんて人がいました。小学校くらいから女子に対する無理無理感がすごく、男子校に望んで入りました。周りはそれこそ女子に飢えている男子ばかりで、ああ現実とは違うなあという妄想憧れが広がっていて羨ましさを感じずにはいられませんでした。いまそんなこんなで浪人して予備校にいるのですが、まわりに自分の感覚から3年間アップデートされた女子たちがいるのを見ると、ほんとに「あれ」って感覚です。寄るな近寄るなオーラを放つ習性があるので友達はできませんでしたが、一度だけ女子校の子に話しかけられ、そんなに異性に対する畏敬感?…自分的には無理無理感なんですけど…を感じずに話しかけられるのって、ほんとにすごいなあと感心しました。まとまりのない話ですみません。なんとなく、女子校も男子校も、そんなにかわらない気がしたので。ほんとはすごく異様なことで、その汁を吸った代償を払わされる気分、少しわかります。きっと来年はもっと身をもって知るのでしょうか…。
生湯葉さん
とても楽しく読ませていただきました!私は男女が逆のパターンで6年間男子校に通い、全く女性と接点がないまま大学を迎えました。。
それこそ入学式後のオリエンテーションの時に『女子がお化粧してる。。良い香りする。。』とか衝撃を受けた記憶があります。
その後漏れなく女性との距離感に戸惑う時期が続きました。。
ただ今考えると男子校にいたことは全く後悔していないですし、『個性が伸びた』という点では男子校選んでよかった!とも思います。
一長一短ですね笑
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。