見出し画像

ツアー企画は 子育てに似ている

旅行のツアー企画は、どこか子育てに似ています。

私は、2020年のコロナ前まで旅行会社で
海外旅行のツアーを企画していました。

旅行パンフレットで募集している
<添乗員が同行する〇〇の旅 〇日間>
というあれです。

その中で私は 
インド、ミャンマー、スリランカといった
ちょっとディープな方面を担当していました。

自分自身で考えた切り口をテーマに
現地の旅行会社に聞いたり
ガイドブックで調べたりしながら
見学箇所や食事内容を決めていきます。

地図で所要時間やルーティングを考えながら
自分の頭の中でいろんなツアーを作ります。
私は この時間が大好きでした。



どこまで見せるか?
何をさせるか?
こんなことはできないか?など
現地の会社と交渉しながら
ツアーへの組み込みを判断していきます。

私の担当していた方面は
衛生面や参加者の疲労度に注意する必要があるので、
危なくないか、日本人でも耐えられる場所か
レストランの食事内容やトイレの状況、
物乞いや物売りの状況、
道路の状況やバスの設備の安全基準
ドライバーの運転状況など
十分に注意する必要があります。

半年に1回の現地出張では、
訪問箇所の視察だけでなく、
現地のツアーガイドとも
できる限り面談して
日本語のレベルや話し方などを
チェックします。

ツアーが完成したら、
地上手配をしてもらう手配担当のお姉さま方に
プレゼンをします。

ここで却下されると
今までの苦労が水の泡となるので、
どんな厳しい質問が来てもかわせるように
十分に事前準備しながら
ツアーの魅力となぜこのツアーが今必要か
熱い情熱をアピールします。

運よくツアー掲載が了承されたら、
パンフレットを作る一方で
同時に日本人の添乗員への引継書を作ります。

新コースの1本目のツアーは
何が起こるかわからないので特に緊張します。

何が起こってもいいように
様々なケースを想定して、
できる限り詳しく書きます。

出発の2週間前には 
ツアーに同行してくれる添乗員が
決まってきます。

同行してもらう添乗員には
対面して具体的に口頭で細かく説明しながら
資料を渡します。

自分が愛情をこめて作りこんだツアーを
百戦錬磨の添乗員さん =
私的には「ツアーの旅程管理をする先生方」
に預けます。

我が子を
初めて小学校に送りだす親のように・・・。

「初めから思った通りできなくてもいいよ。
でもどうか途中であきらめず、
お客さんを楽しませて
無事に笑顔で帰ってきて」

「添乗員の先生の言うことをよく聞いてね」
心配する親の気持ちです。

添乗員の先生に対して、
「私が大切に育てたこのツアーはこんな子です。こんな点に注意してあげてください」
という気持ちで
引継書にしたためます。

天気がよくて頂上まで20分歩けば、
見たこともないような
素晴らしい景色が見えるけど、
天気が悪くなると
滑りやすくて足場が危険なので、
そんな時は無理せず、
近くの博物館に案内して。

本場の味を楽しんでもらいたいので
このメニューを用意しているけど
辛いのが苦手な参加者には、事前に聞いて
このお金で他の料理を提供して。

ここの道路は非常に悪くてガタガタ道だけど
この道しかないから、
事前に参加者にご案内をして。

まだまだ粗削りで課題の多いツアーですが、
参加者の皆さんを驚かせるような
素晴らしいポテンシャルを
秘めていますので
どうかよろしくお願いします。

心の中でそうつぶやきながら送りだします。

でも、新ツアーの1本目は
たいていコテンパンにやられて帰ってきます。

ベテラン添乗員さんから
私への手厳しいダメ出しが1時間続きます。
だいたい事前に注意してた不安が的中します。

天候や気温などそれ俺の責任じゃないよねっ!
と思う部分もありますが、
じっとこらえて今後の改善策を考えます。

数日後、
参加者の皆様からも
手厳しいご意見が届きます。

「危険な場所を長時間歩かせられた。」
「料理が辛すぎ。毎日カレーが続く。」
「昼食にパスタを入れる工夫が欲しい。」
「バスの運転が荒い。死ぬかと思った。」
「休憩場所のトイレが汚い。」
「見学箇所を詰め込みすぎ、
 企画担当者は現地を見ているのか。」

だいたい新ツアーの8割は
1年目で姿を消します。

自分の目の黒いうちは、
パンフレットに掲載するのですが、
私が異動すると直ちにスクラップされます。

だから企画担当を離れて2~3年後に
久しぶりにパンフレットを見て
自分のツアーがラインナップされていると
ちょっとだけうれしくなります。

見学箇所やルートが変更されていたりすると
なおさら嬉しくなります。

お~久しぶり、
ちょっと見ない間にいいツアーになったね。
手配のお姉様方や添乗員の先生方に怒られ、
愛されながら頑張ってるんだ。よかった。

電車の中で
旅行のパンフレットを見ながら
涙ぐんでいる人を見たらそれは
旅行ツアーの企画担当者かもしれません。