死を見る

★古宮九時『死を見る僕と、明日死ぬ君の事件録』(メディアワークス文庫)

今回紹介するのは、「人の死を予告する幻影」を見る“僕”が主人公の物語です。古宮九時先生の、メディアワークス文庫における初作品ですね。

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主人公が【彼ら】と呼ぶ幻影は、やがて訪れる死の瞬間を繰り返す亡霊のようなもの。時が近づくほどその姿は濃くなり、時を迎えれば見えなくなる。運命を回避すべく本人に話そうとしても、不審がられたり嫌悪感を抱かれたり。挙句、記憶に穴が空くほどの事件に巻き込まれた経験もあって、“僕”は【彼ら】から目を背けて生きています。

鈴子も【彼ら】が現れているひとり。つまり遠くない未来に死ぬ運命にあるんだけど、そう告げられても動じず話を聞いてくれ、【彼ら】が現れている別の人を救うべく行動さえ起こしてしまう。
それから“僕”と鈴子は【彼ら】の運命を変えるために行動を共にしていきます。やがて思い出されてくる“僕”の空白の記憶、不可思議な末路を辿る【彼ら】の登場、そして近づく鈴子の「運命の日」――。

帯にある、「二度読み必至!!」という文言。これはまさにその通り。
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、真相にはあっと驚かされました。たしかに奇妙だなと感じる部分はあったものの、それよりも鈴子の突拍子もない言動が勝っていたりしていて。
改めて読み返したときには納得がいったし、これ本当はこういうことだったんだなと、気づく場面もあったりした。小説だからこその作品、小説として読めて良かった作品でした。

鈴子がとる言動の予想外さには驚かされもするし、笑ってしまうこともあったんだけど、ここに“僕”の突っ込みが加わることで成立する絶妙な会話も好きなんです。漫才のような愉快さがある。名コンビ。
同時に、鈴子の存在にとても救われるようでした。【彼ら】を見る力と空白だらけの記憶、苦しさを抱え込み思い悩んできた“僕”にとって、寄り添い向き合ってくれる鈴子がいかに大事か。その明るさや優しさ、なにより「大丈夫。一人にしないから」という言葉がどれほど希望だったか。

鈴子と出会って、“僕”が自分と、過去と向き合い、歩き出すまで。その過程には惹きつけられるばかり。結末を迎えて本を閉じたとき、しばし余韻に浸っていたほどです。ラストシーン素敵だったなあ……。