空を飛びたかったペンギンの話

あるところに、小さなペンギンがいました。
小さなペンギンは、みあげる空が大好きでした。

「あの中を飛ぶことができたら、きっときもちいいだろうなあ」

小さなペンギンは、そこで一生けんめいジャンプしてみました。
けれど小さなペンギンは小さいので、小石を飛びこえることさえできません。
「どうしたら空を飛べるんだろう?」

小さなペンギンは、坂の上から走ってジャンプしてみました。
けれど小さなペンギンは小さいので、そのままころころと下まで転がってしまいました。
「どうしたら空を飛べるんだろう?」

「ペンギンは空を飛べないのよ」
母さんペンギンがいいました。
「ペンギンは海で泳ぐものなんだ」
父さんペンギンがいいました。

それでも小さなペンギンは、空を飛んでみたくてたまりません。
「どうしたら空を飛べるんだろう?」
小さなペンギンは、思いついたことを片っぱしからためしました。

高いがけの上からすべりおりてみたり。
泳ぐよりすばやくつばさを動かしてみたり。
海の中からいきおいよく飛びだしてみたり。

けれども、どれもこれもうまくいきませんでした。
「どうしたら空を飛べるんだろう?」

ある日、ペンギンたちのくらすところに、一羽の鳥がおりたちました。
うすよごれた白い大きなつばさに、あわいべにいろがまざっています。
かぼそい足ですっくと立つそれは、ひどく年よりのフラミンゴでした。

「近づいてはいけないよ」
おとなのペンギンが口々にいいました。
「あたまからぱくりとたべられちゃうかも!」
こどものペンギンはきゃあきゃあさわぎました。

けれども、小さなペンギンは、年よりフラミンゴがきになってなりませんでした。

つぎの日も、またつぎの日も、年よりフラミンゴはそこに立っていました。

その夜。
小さなペンギンは、父さんと母さんからかくれて、そっと家を飛びだしました。

そして、小さな足を一生けんめい動かして、年よりフラミンゴにかけよりました。

年よりフラミンゴが、小さなペンギンをぎょろりとにらみます。
小さなペンギンはゆうきをだしていいました。

「どうしたら空を飛べますか?」


「どうして空を飛びたいのかね」
年よりフラミンゴがしゃがれた声でききました。

「だって、きもちよさそうだから」
小さなペンギンはむねをはって答えました。

年よりフラミンゴは、小さくわらったようでした。

「ペンギンに空を飛ぶつばさはない。あきらめなさい」

その言葉に、小さなペンギンはかっとなってさけびました。

「そんなことは知ってるよ!
 それでも空を飛びたいんだ!」

とても、とても大きな音が、よぞらいっぱいにひびきました。
年よりフラミンゴの、わらい声でした。

「そうとも、そうでなければな」

年よりフラミンゴは、しゃがれた声でいいました。

「小さいの、朝がくるまでまちなさい。
 明日、わたしは世界のはてへのたびにもどる。
 その前に、この背にのせて飛んでやろう」

小さなペンギンはぽかん、としたあと、声を上げてよろこびました。


ゆっくりと朝がやってきました。

「さあ、行くぞ。しっかりつかまっているんだ」
「はい!」

年寄りフラミンゴの背中で、小さなペンギンは大きく返事しました。

朝の空によくにた、うすべにいろのつばさが、ばさん、ばさんと音をたてます。
朝日が差した瞬間、フラミンゴは水面を駆けました。




あるところに、年よりペンギンと、たくさんのこどものペンギンがいました。

こどものペンギンたちは、年よりペンギンのはなしをきくのがすきでした。
年よりペンギンは、たくさんのぼうけんをしてきたペンギンだったからです。
そして、こどものペンギンがわくわくするような、すばらしいぼうけん話をいくらでもしてくれるからでした。

たくさんのこどものペンギンにかこまれて、年よりペンギンはじつにさまざまなぼうけんを話しました。

そして、かならずさいごに、こうつけくわえるのでした。

「いいかい、ペンギンも空を飛べるんだ」


2010年に書いたものです。
絵本の公募に出そうって話をしていたのですが、私が規定文字数に収められず、自然消滅してしまいました。
絵の担当のはずだったあの方、元気かなあ。

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