見出し画像

フランス・オーヴェルニュ地方のクレルモン=フェランで、映画散歩

エリック・ロメールの『モード家の一夜』Ma nuit chez Maud(1968)の舞台は、フランスのちょうど中央付近にあるオーヴェルニュ地方の、クレルモン=フェランClermont-Ferrandである。クリスマスの映画なので、本当は雪がしんしんと降る冬に行かなければならなかったのだが、その時期にはそういう気持ちの余裕がなくて、今になってしまった。

主人公(『男と女』で有名なジャン=ルイ・トランティニアン)はミサでブロンドの女の子を見初め、彼女と結婚すると決める。人を見る目には自信がある、というのだ。

その教会は、ノートルダム・デュ・ポール・バジリカ聖堂Basilique Notre-Dame du Port。サンティアゴ・デ・コンポステラの巡礼路の一部として、世界遺産に登録されている、有名な聖堂である。

映画の冒頭付近でミサを執り行っている司祭のバックにあったステンドグラスなどを、そのままみることができた。行った最初の日は実際にお葬式が行われていて、知らずに中に入り、3分くらい参列してしまった。写真を見ると、亡くなったのは18歳くらいの女の子のようだった。

映画でジャン=ルイは昔の友だちにばったり会い、誘われて友だちの女だちの家に泊まり、彼女と微妙な一夜を過ごす。そして次の朝、広場のカフェに座ると、ミサの彼女が、自転車で横切るのが見えた。

かれはあわててカフェを出て、彼女を追いかけて声をかける。その広場はジョード広場Place de Jaudeといって、今もトラム(路面電車)などの駅がある、街の中心の広場である。主人公が昔の友だちとばったり会うカフェも、かれが彼女を見てあわてて出たカフェも、ちゃんとある。

この写真は、そのカフェ側から、撮ったもの。つまりジャン=ルイの目線で、向こう側に彼女が自転車で走っていったので、追いかけるところだ。右側に見えるLa Montagneというのはなんだかわからないのだが、映画にもしっかり映っていたのがそのままあって、びっくりしてしまった。50年間変わらずにある、ということだ。

主人公と昔の友だちが、コンサートを聴きに行くホール。

クレルモン=フェランはパスカルの聖地として有名なところで、映画の中ではパスカルについて議論している場面がある。パスカル通りもしっかり歩いた。

クレルモン=フェランには、ミシュランもある。主人公もミシュランのエンジニア。しかしミシュランは旧市街から少しだけ離れたところにあって、微妙に行く暇がなかった。そこで働いていたというだけの設定だったので、まあいいかと思った、というのもある。

上の写真は映画には出てこないが、旧市街の中心にある、ゴシック様式のカテドラルCathédrale de Notre-Dame de l'Assomption。舞台になった教会は、ロマネスク様式である。

聖堂では一日目はお葬式をやっていたので、三日目にもう一度訪れたあと、電車の時間まで、しばらくあった。どうしようかと思っていると、出てすぐのところに、クリスチャン・カフェというのがある。その前で立ち止まって、看板をしげしげと眺めていると、写真でわたしの右に写っているおばさんがわざわざ中から出てきて、どうぞ、とわたしを中に入れてくれた。

利益を出すためのカフェではなく、地域の人々が集まって話をするための、コミュニティなのである。わたしが飲んだハーブティーinfusionは0.5ユーロで、パイが付いてきた。カードをくれて、名前を書け、というので書いて渡したら、2873と書いて、返してくれた。

このカフェは10年やっているんだけど、あなたは2873番目のゲストなのよ、とおばさん。入ってくる人はボンジュールと言いながら、手を差し出し、握手する。しばらく話をした。パリに住んでいると言ったら、パリの人はツンとしてない?と聞くので、大丈夫ですよ、という。

パリでのシネマライフとカンへのリサーチ・トリップ(voyageというべきか)だけでも、大変なのだけれど、実際の映画や絵画の舞台を訪れることも、大事である。ようやくそんな余裕ができて、フランスがパリだけではなくなってきた。地方にはいうまでもなく、またそれぞれに魅力がある。

#オーヴェルニュ #クレルモンフェラン #Auvergne #ClermontFerrant #フランス #モード家の一夜 #エリックロメール #田中ちはる #ノートルダムデュポールバジリカ聖堂

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?