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【特別企画】選手インタビュー 山下恵令編|第5回ちはやふる小倉山杯

はじめに

こんにちは。
ちはやふる基金スタッフです。

3人目は過去最多、本大会で3度の優勝を経験されている山下恵令元クイーンです。

前回大会の覇者でもある山下元クイーン。美しさ・強さを共に兼ね揃えたかるたは、見る人を惹きつけます。

山下元クイーンがかるたに向き合う姿に、あなたも背筋が伸びるはず。
競技かるたを愛する全ての方に、ぜひ読んでいただきたい記事です。


❶山下元クイーンにとっての「ちはやふる小倉山杯」

独特な雰囲気・緊張感

—これまで連続出場されている山下さん。ちはやふる小倉山杯にはどんな感想をお持ちですか?

タイトル戦ってそれぞれカラーが違うんですけど、小倉山杯は独特な雰囲気が絶対にあるなっていう印象ですね。

第1回は「どんなもんか」っていう感じで。第4回まで出させていただいてるんですけど、トップ選手8名しかいないし、ものすごい緊張感というのを感じて。

あとは最初から8名ということでトーナメント戦なので、負けたら終わり。なかなか力を出しきれずに緊張だけで終わってる選手も多いのかな。初出場とかになると尚更ですね。なかなか勝つのが難しい大会です。

—おっしゃる通りだと思います。観戦者や中継もいるし、注目もされていて雰囲気に飲まれやすいような感じはするんですけど、その中で山下さんは小倉山杯を制していると言っても過言ではない。

そうですね、たくさん勝ってはいますけど、うーん。

—あの場で、自分の力が発揮できるのはなぜでしょうか?

勝ってはいるんですけど、全然(実力を)発揮できていないなとは思っていて。自分が発揮できて勝ったのって、第2回だけだと思うんです。

本当に気持ちよく、快勝したな、できたなというのは第2回だけで、あとの大会は1枚違ったら危ないなというところで、その1枚が少し運がよかった、たまたまうまく行っただけかなという感じで。やっぱり勝つのは難しいですね。

—山下さんから「難しい」という言葉が出ると思ってなかったのですごく意外です。やっぱり緊張はしますよね?

しますけど、強い心でかるたと向き合ってるつもりなので、場に飲まれるとか、そういう小さなことというか、まずかるたに向き合えてないところでは負けない。

いいところも悪いところも受け入れて、かるたを取ってかるたに負けるというように過ごしたいので。せめて、ちゃんとかるたと向き合って相手と戦って負けたというふうに過ごしたいなと。

ただ、1回戦目はやっぱり緊張しますね。それは小倉山杯に出る全員がそうなのかなと思います。

第3回ちはやふる小倉山杯

年を重ねるハンデ

—ありがとうございます。この姿勢を小倉山杯に出る選手に山下さんと取って感じてもらいたいなと思ったりもしますね。実際お強いですし…。

それがそうでもなくて。私、みんなに強いと思われてるんですけど、本当に大会の時だけ。(本番の)1日にピンポイントでピントを合わせてようやく取れている感じで。それも歳を重ねるごとになかなか合わないというか、出ない。そもそも力がそこまで持っていけないというのがあって、いつも不安と隣り合わせなんです。

去年はうまく行ってなかったんですよね。あんまり完勝ではないですし、自分の調子も全然100%じゃないし。去年はピントが合ってなかったと思うんですけど、その時できる70%ぐらいのことができたのかなあというふうには感じてますね。

あとは自分が出場選手の中では年齢が上の方で、そのハンデは絶対にあるなというのはあるので、あんまり譲れないというか、1枚ずつ休憩していたら負けてしまう。

休憩はしないと息が続かないので、見誤らないように、上手に上手に過ごしたいなあというのは試合中に考えて、うまく畳の上に座ってるつもりではいます。

—若い時は考えなくてよかったことをだんだん考えるようになってきたということでしょうか?

息がほんとに続かないので。息というか、いい札をずっと連取するのが難しくなってくる。歳を重ねると。

若い時は結構続けられるんですよ。若い時はやっぱり過ごし方があんまり上手じゃなくて、少し連取してると気持ちが浮ついたりするので、そういうところを年を重ねている側がちょっと拾っていけたらという。若い子と同じように過ごすなんてそもそも無理なので。聴力も落ちてますし。

この札が出そうだというインスピレーションとかも、やっぱり若い人の方がひらめきが正確だと思うんですよね。「この札が出そう」というのが、(若い人の方が)序中盤から感性に優れてると思うんですね。

歳を重ねてる私が今までの経験とかを生かして、「こういう流れだから、この札はこう」というのはもちろん若い選手よりはあると思うんです。

でも、ひらめきとかそういった部分では負けてるので、相手の考えと自分の考えを重ね合わせた時に、「じゃあどうやって勝つの?」っていうのを試合中に考えながら…というよりは、試合中にやることはたくさんあるので、試合が始まる時にはすでに終わらせとかないといけないなと思っていて。

反射神経的にすーっと出るように、トレーニングを重ねていて、当日を迎えたいという感じではあるんですよね。

古き良き、正しいかるた

—とても冷静にご自身の力量を見ていらっしゃいますね。ご自身で「小倉山杯では私のこういうところをみてほしい!」と思うところはありますか?

自分のかるたでみていただきたいなと思うのは、割と昭和の古い先輩から教わってきた古き良きかるたを、自分はまだ取れてないんですけど、今の選手たちよりはできてると思うので、そこを見ていただきたいです。所作であったりとか、札を払った後のアフターフォームであったりとか。

あとはちゃんと読まれた札に対して手を出す・反応するというのはすごく心がけています。私のかるたはただ「綺麗」って一言で片付けられてしまう場合が本当に多いんですけど、昭和の先輩に習った洗練された感性でいると自分では思いたいんですね。それを次の世代に伝えたかったんですけど…。

そもそも読まれた札なんて関係なくて、手を出して邪魔して取るみたいなのが結構流行ってる気がするんです。手を相手に当てて妨害してから取るとか。それってちょっとかるたではないんじゃないかなっていうふうに私は思ってるんですけど、今のルール上、それでも取ったら取りになってしまう。

「でもそうじゃなかったよね、かるた界って。」というところはあるので、せめて小倉山杯に出るようなメンバーは模範となってほしい。

今、インターネットで誰でも見られる時代なので、(かるたを教える)先生がいない子どもたちもこういうかるたの大会を見て真似してみるとかできると思う。

全員が全員同じかるたを取る必要はないと思うんですけど、いろんなかるたがあっていいとは思うんですけど、ちゃんとした「正しいかるた」、いろいろな種類の「正しいかるた」を取る選手が出てほしい大会ではあるなと思っています。

第2回ちはやふる小倉山杯

❷今の練習環境・練習相手は?

取るといいところをもらえる方

—最近の練習環境はいかがですか?よく練習する方はいますか?

小倉山杯に向けて三島の門を叩いて、西郷永世名人富田光さんという昭和の選手と取っていただきました。なんとなく感覚を思い出して。あとはA級選手と取らせていただいてます。

西郷さんとは一勝一敗でした(笑)富田さんとは去年も対戦していただいて、調子が上がりました。優勝したら10万くれよとか言われます(笑)

—(笑)優勝したらご馳走しないとですね。

結構みんなにたかられるんです(笑)冗談だとは思うんですけど。

—富田さんは取ると調子が上がるタイプの方でしょうか?

そうですね。調子が上がるというよりは、相手の感じと交わる感じで。いいところをもらえるという感じなんですよね。(富田さんは)私と練習するにあたり、その緊張感とかを作ってくれているはずなので、そういった気持ちとかもすごく受け取れるというか。私も「頑張るね!」という気持ちで取ります。

—すでにインタビューを終えた山添さんが、山下さんのかるたを「自分のいいところを引き出してくれるようなかるた」と同じようにおっしゃっていました。

初耳です。ありがとうございます。

—「自分の良さを引き出してくれるかるた」はあるんですね。

そうですね。

相手が1番強いところで私は勝負しようとは思っていないので。山添さんも年下ですが、その差って結構大きいなと思っていて。そこで山添さんの強いところに被せて試合をするとかもできるんですけど、それって私にとって不利ですし、私の方がお姉さんなので、山添さんのいいところを受け流さず受け止めて私が勝つわね、みたいに取れたらベストですね。

山添さんもそうだと思うんですけど、勝負事なので負けたくはないと思う。いい試合をしつつ、そのうえで勝ちましょう、みたいな感じだと思います。


❸ポジティブスイッチは?

緊張、それはとてもありがたいこと

—ポジティブになるためのスイッチはご自身の中にありますか?

試合前ってやっぱり不安になったりとか緊張とかするんですけど、少し考え方を変えれば、すごくありがたいお話だと思ってるんです。

食べるものにも困ってないですし、毎日ふつうに暮らせてますし、何にも困ることはないんですけど、勝負に打ち込んで不安になれることとか、こんなに悩めることって幸せなことなので、そもそも落ち込みスイッチとか思わないようにしていて。

かるたの調子が結構大会前に落ちるんですけど、落ちても、「私は強いから、弱い私でもきっと(試合を)組み立ててやれば大丈夫だよ」と思ってるんです。

自分のことを弱いと思って大会に取り組むとあんまりよくないと思うので、弱いなりに何とか組み立てて過ごしたら行けるんじゃないか、と思ってますし、何より全員不安だと思うんです

時の運は大きい

試合の前とかは景色を見たりしますね。外の景色とか。遠くの山を見たりだとか川を見たりだとか。音を聞いたりして。空を見たりとか。自然系に行きますね。

そういうことをしても調子が上がらない日は全然ダメな感じで負ける日もあるので。(ポジティブスイッチとして)何がおすすめかっていうのは時の運なので、何も答えはないのかなって。

始まっていないことに対してビクビクしなくてもいい。試合中に考えたら最悪なので、試合が始まる前に終わらせますね。終わらせておきたい。

—時の運…。これだけ勝負を重ねてきた山下さんに言われると「やっぱりそうなんだな」って思います。

そうですね、本当に時の運だと思います。自分がなかなかクイーンになれなかったこととか、たまたまなれたこととか。他の方もそうです。

ちょっとした時間とかがイタズラして、勝てなかったり勝ったりしているので、本当に強くて勝つという人ももちろんいるんですけど、時の運の要素ってものすごくあるのではないかなと思います。


❹小倉山杯、どんな戦いをしたい?

目の前の一枚に集中

—小倉山杯に向けての意気込みを聞かせてください。

相手が強いので、目の前の1枚に集中できたらって思います。小倉山杯は「魅せる」がテーマの大会なんですけど、悪い取りをしてしまった時に、「魅せなきゃいけない大会なのに、自分は弱いな」とか思うと全然取れなくなると思うので、それは運命だというふうに受け入れて、次の1枚でどうできるかに集中したいですね。

とにかく目の前の1枚に集中して過ごすのは、かるた選手としてどんな大会でも全員心がけるべきことなのかな、とは思います。


❺誰と対戦したい?

勝ち上がってくる選手と

—対戦してみたい選手はいますか?

トーナメント制で勝負事なので、勝ち上がってくる人と取りたいというのはあります。

1回戦が鬼門だなあとは思いますね。立ち上がりがやっぱり悪いので。去年もちょっと手こずって運命戦まで行ってしまったので。立ち上がりが悪いので軽くウォーミングアップはして行くんですけど、それでも移動とかで時間が開いて状態がよくなくなるので。

しかも相手が山添元クイーン。失冠されたばかりですけど、悔しさをバネに頑張るのではないかなとは思うの、私も頑張ります。

—ありがとうございます。今年も無双していただきたいです。

頑張りますよ!小倉山杯には愛情があります。1回負けちゃったのがすごく悔やまれる大会なので。

3連覇したら永世位をもらえるので、狙っていたのは事実なんですけど、第3回目で落として、第4回目で勝って。でも、3連覇じゃないともらえないので、「なんて不器用なんだ〜去年勝てばいいのに。残念な人だなあ」というふうには思いましたね(笑)一昨年勝っとけば!

—(笑)永世位を目指して、小倉山杯に出続けていただきたいです。長時間のインタビューありがとうございました!

第4回ちはやふる小倉山杯

おわりに

いかがでしたか?運命・流れを受け入れて、かるたと真摯に向き合う山下元クイーン。美しくて強い所以がここにあるのかもしれません。

インタビューの最後には小倉山杯への愛を語っていただき、基金スタッフとして大変うれしく感じました。

さて、次回も選手インタビューが続きます。
記事の更新は基金のSNS(XInstagramFacebook)でお知らせします。
楽しみにお待ちください。

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