【学会発表再録】How do sleep cycles affect Cannabidiol users? ~生活スタイルはCBDの用途や効果にどう影響するか?

はじめに

はじめましての方もそうでない方もこんにちは!早稲田大学理工学術院先進理工学部の片隅でカンナビノイドの研究を行っている野崎千尋と申します。これは4月2日日曜日に東京のワテラスコモンホールで開催された日本臨床カンナビノイド学会・春の学術セミナーで私が実際に行った発表の再録です。当日ご覧になった方々も、ご覧になれなかった方々も、「アカデミアでの研究の一端」というものをお楽しみいただければ幸いです!

ただし:いろいろとミもフタもない結論になってしまっているのでそこんとこよろしくお願いします🙇

今回のおはなし

さてわたくし基本的に基礎研究の人間でして、普段ですとマウスを使った研究、ノックアウトなどの遺伝子改変マウスを使って、「我々の身体からカンナビノイドシステムが無くなってしまうと何が起きるのか」というコンテキストで研究を行っているのですが、その傍らで現場の実際、使用者や世間の実際を知りたいというのもあって、こういう応用的なこともやっています。

さて本日のお題、解りやすくいうとこれです「朝型の人と夜型の人でCBDへの反応は変わるのか」。これ今回の調査に使ったポスターそのものなんですが、そもそも何でこういうことをやろうと思ったかというと、去年の10月にCBD企業の1つであるリッチルさんがこういう、自分とこの顧客データを分類したもの、どういう人達が自分とこのCBDプロダクトを購入しているか、を公開したんですね(注:元データは現在残念ながらリンク切れ)。これがなかなか面白くて、眺めている中で「どういう眠りのタイプの人がどういう形でCBDを取ってどう感じているんだろうか、そこに違いは生じるのだろうか」と、まあこんなことを思いついたんです。もう少しサイエンティフィックにいうと、「生体リズムがCBDの生理作用および感覚に及ぼす影響が知りたい」、とこういうわけです。

ということで今日の話は「生体リズムとCBD」なのですが、本題に入る前に、「生体リズム」というものを我々研究者がどう定量化してどう評価しているのか、から始めたいと思います。まあこの生体リズムとは何ぞや、と、これ大きく2つに分けることができまして1つは光によって制御される睡眠のリズム、そしてもう1つは食事によって作られる末梢臓器のリズムがあります。で、今回の話は食事で作られるリズムではなくもちろん睡眠のリズム、サーカディアンリズムの話になります。
さてこの睡眠のリズム、主時計とか中枢時計とかともいわれますけども、朝になったら太陽が出るから目が覚めて、夜になったら暗くなるから眠くなる、というあれですね。こういうと単純に聞こえるんですが、じゃあ身体の何がこのリズムを作っているのか、何で我々は明るくなると覚醒して暗くなると眠くなるのでしょうか。このあたりの話をしだすと脳の視交叉上核がーとか時計遺伝子がーとか大変なことになるので省略しますが、この「何で眠くなるか」「何で目が覚めるか」を追いかけている研究者は世界に実にたくさんいまして、結果2017年のノーベル賞ネタにまでなっているわけです。で、今もちらっと出ましたが時計遺伝子と呼ばれる一連の遺伝子群がありまして、その発現パターンが体内時計の根幹を支えているのです。
でも皆さん御存知の通り遺伝子の発現というのはみんな同じ、ではないのですね。それこそてんかんであるとか、自閉症であるとか、遺伝子の発現異常で生じる疾患は山程あります。であればこの時計遺伝子だって発現異常が起きたって…不思議ではないですよね?実際に睡眠障害を訴える人で、身体的にも精神的にも何ら問題が無いという方は、かなりの確率で時計遺伝子系に異常を持っている可能性が示唆されています。

とはいえ異常があるといってもこれまた程度の大小がありまして、それがいわゆる「朝起きられない」「夜眠れない」に繋がるのですね。で、特に「夜眠れない」人の中で、「むしろ夜になると超目が冴えて仕事とかが捗る」って方。いますよね。これね、ご安心下さい、アナタの身体がそうさせているんです。怠けてるとかじゃないんです身体の、遺伝子によって作られる生物学的なリズムが、朝眠って夜起きる、まさに夜行性になっているのです。そういう自然に眠くなり、自然に目が冴えるという、生物学的なリズムを上手いこと定量化する、ここでは朝型・夜型・中間型の3つに分けていますが、こういう分類をクロノタイプと呼びます。この分類、厳密に行おうとするとMCTQ、ミュンヘンクロノタイプ質問紙という結構重たい調査をしないといけないのですが、簡便に知る方法として、このMSFscという、「休日などに自然に起きることができたときの、睡眠の中央値を、休日および平日の睡眠時間で補正した値」で評価する方法があります。見ての通り値が小さいほど朝型傾向、大きいほど夜型傾向、という評価の仕方をしまして、今回はこの方法でクロノタイプを決めるということをしています。
さてクロノタイプ、これ身体の自然なリズムですね。でも我々社会の歯車なもので、どうしたって社会のルールに縛られがちなわけです。

例えば平日は学校や会社の始業に併せて、起きたくなくても、朝早く起きないといけない。あるいは翌日が休日、よし夜更かししても問題は無いってんで遅く寝る。そうなるとあるあるなのが週末に存分に寝過ごす、またはいわゆる寝溜めをする。でも最近だと寝溜めをするのは良くないと言われますね。何故か。寝溜めをするということは、身体を時差ボケ状態に持って行くことになるからです。どういうことや?って思われた方、シンプルに考えて下さい。要は海外旅行で数時間時差があるところに毎週末行って、また戻ってくるようなものなんです。しんどくないですかこれ。移動の疲労もあるでしょうが、それ以上に時差の違いの影響、時差ボケを毎週食らい続けるわけですよ。この平日と週末のリズムの違いで生じるズレを、Social Jetlag、日本語で社会的時差ボケと呼びまして。これ実際に現代社会におけるいわゆる「取れない疲労」の一因として、今注目されているのです。

ここまで来ると私が何を知りたいと思ったのか大体解ってもらえると思います。要は眠りに良いとかリラックスに良いとか散々いわれるCBD、クロノタイプや社会的時差ボケに対してはどうなのか?自称朝型とか自称夜型とかではなくて、もっときちんと定義したものに乗せてCBDの効果や満足度や用途といったものを解析したら何が見えてくるのか?と、そういうわけです。

さてやったことは比較的単純というか普遍的な方法で、要はウェブベースでアンケートを取って、その回答を平均値比較や相関解析あるいは重回帰分析などで各々の回答で解る様々な要素の関連を中心に解析したというところです。

回答は約6週間弱のうちに382名から得られたのですが、少々おかしい回答だった、例えば8時に起きて8時に寝る、睡眠時間ゼロじゃないか、とか、そういうものを除去して、最終的な有効回答数は342でした。内訳としては男性が少々多く、また回答者のほとんどが20代から40代、面白いことにクロノタイプとしては朝型や夜型に振れる人が意外と少なくほとんどが睡眠の補正中央値が3から5に収まる、まあ寝る時刻も起きる時刻もことさら早くも遅くもない中間型に入るという形で、また社会的時差ボケことSJLが小さい人、中くらいの人、大きい人は大体同じくらい分布している、という感じです。さてこれらの回答を使って…

…まず最初に行ったのは平均値の比較、シンプルに回答者を大きく「性別」あるいは「年代」に属性分けした上で、各属性においてそれぞれの要素に差があるのかを見ました。

まず男女で分けた場合に差が見られた要素がこちらになります。身長体重BMIに差があるのは当たり前なのですが、他にもよく寝ているのは女性だがクロノタイプに性差は無い、SJLにも差はない(だから入ってない)、また感じている体感の強さや満足度にも性差はないということが解ります。
また女性の方が除痛目的で使っている人が多く、さらに自覚している用量は女性の方が低いが定期的な摂取を行っていることが多いことも解ります。
加えて男性はジョイントやベイプを好み、女性はティンクチャーやバームを好む、まあこのあたりはイメージ通りといったところでしょうか。

次に40歳を境に、40代以上とそれ未満という形で分けて比較してみました。
まあそうですね、40代以上は睡眠時間が短くなると同時に朝型になります(まあ解りますよね)が、SJLに差はありません。また疼痛や不調を訴える人が増えます(これまた想像つきますね)し、だからなのか、40代以上ではティンクチャーやバーム類の使用が多く、何よりも週あたりの使用頻度がかなり高くなる、それこそ丸1日分違うということが解りました。
このように意外と属性が違うと何らかの傾向が見られて差が出たりする、と。正直差が出なくても驚きではないと思っていたのですが、意外と違いがある、これはもう少し深掘りしようということで……

今度は2変量の相関解析を使って、注目したい要素が他の要素とどこまで相関があるのかを見てみました。要するに例えば身長体重BMI、そういったものが睡眠のタイプや使用頻度、あるいは体感や満足度に関連するかという感じですね。
さて見ての通り調べた要素があまりにも多いので2つに分けて紹介します

とはいえ強く相関があったといえる要素って実はほとんど無くて、まあよくてこの黄色で示した部分、それにしてもこういう相関係数の目安と比べるとほぼ相関がないに入ってしまうんですが。ただまぁ他の要素より多少強めに相関が出た部分で面白い部分としてはまずここ、休日の起床時間やSJLの有無がCBDの体感だったり満足度だったりに関与する、かも、しれない、というところがあります。

またもう1つ、CBDは基本的にどういう取り方をしていても睡眠特性(クロノタイプやSJL)に寄与することはほとんど無いのですが…

…CBDの取り方、すなわち使用頻度の高さであったり定期的な摂取であったりは満足感や体感に、他の要素と比べても明らかに強く寄与します。ただし用量であったりとか、あるいは他のカンナビノイドの摂取量とか、そういったものは関係しない、と。つまり量をたくさん取っている人が必ずしも強い体感を得たり満足できていたりするわけではないんですね。というわけでどうやらむしろSocial Jetlagや使用頻度が、満足度だったり体感だったりに寄与するようだ、ということで…

…今度は逆にそういった「SJLや使用頻度が変わると、体感や満足度は変わり得るのか」という考え方を元に解析を行う、いわゆる重回帰分析を行いました。
重回帰分析とかいうと「うわあ難しそう」ってなる人いると思うんですが、これ要するにある結果に寄与し得る様々な要素がある中で、「結局どの要素が動くと最終結果が一番動くのか」を見る解析です。
ここまでの解析でなーんとなくこいつら相関あるんじゃないかなーというのがこのあたりの要素、年齢性別BMI、あとクロノタイプとSJLと使用頻度と1日あたり用量ですね。体感とか満足度というのはこういう様々な要素、ここでいうこの説明変数が組み合わさってできた最終結果、すなわち目的変数なわけです。じゃあこの中で特に体感や満足度に寄与する要素はどれなのか、というのを見る、すなわちどの説明変数でもって、最終的な目的変数である体感や満足度を説明できるか、を解析しています。

さてこれをやってみると見事に週あたりの摂取頻度が体感や満足度と比例することが解ります。つまりたまにしか摂取してない人より毎日摂取している人のほうが体感や満足感を得られているということですね。他にも社会的時差ボケが無い人のほうが満足感を得られているということが解ります。さらには女性の方が体感を強く感じているということも判明したので…

ここはちょっと分けて考えてみましょう、と。まずは男性です。見てみると週あたりの摂取頻度が高いほうが体感や満足度が上がっています。また社会的時差ボケが少ない、すなわち平日と週末の起床時刻と就寝時刻に差が無い方がこれまた強い体感と満足感を得られているということが解ります。

一方こちら女性です。何と社会的時差ボケは寄与しなくなり、週あたりの摂取頻度こそが、体感や、あと満足感にも若干、コミットする要素であることが解ります。また興味深いことに満足度に強く寄与する因子として、男性では見られなかったBMIという要素が入ってきます。要するにBMIが低い、痩せている人のほうが高い満足感を得ているという結果ですね。ということは体質であったり食生活であったりが、CBDの効果効能に強い影響を及ぼす可能性がある、ということも考えられます。

ではジェンダーの違いで差があるなら年代でも何らかの違いがあってもおかしくなかろう、ということで今度は最初と同じく40代未満と40代以降で何か変わるのかを見てみたのがこちらです。まずは40代未満、大体最初の結果と同じで週あたりの摂取頻度が体感や満足感に寄与するし、社会的時差ボケが少ないほうが高い満足感を得られていることが解りました。

が、これを40代以上で見ると何とほぼ完全に消失するのですね。ここに挙がっているどの要素も体感や満足度には繋がらない、また別の要素がある可能性がある、という結論です。もしかしたらもっと調査の対象を増やせばまた変わるかも知れませんが、とはいえ40代以上って全体の32%を占めていて、少なくはない。ということは20代30代40代と、もう少し各年代で細かく割って見たらまた違う結果になるのかもしれません。

さて最後に、質問として「どういうCBD製品を使っているか」あと「どういう用途で使っているか」ということも聞いていたので。で、これらの要素も、全ての要素ではなかったのですが、一部が結構強く満足度に寄与していて、なかなか面白い結果が出たので紹介して終わります。まずは不安をどうにかしたくて摂取している人たちは満足感が低く出ていました。これ何となく想像できると思います。あとジョイントとかリキッドといった喫煙系の摂取をしている人は、なかなか満足できていない、という結果が出ています。

その一方で満足度が高く出た人、まずもう少しで有意差が出るところに行く、というところで睡眠目的で用いている人たち。あとは錠剤を用いている人、こちらはしっかり有意に高い満足感を得ているということが解りました。

で、面白いことにここでもう1つ説明変数として定期的な摂取というのを盛り込むと、「睡眠目的」という要素の寄与が弱まるんですね。むしろ定期的な摂取こそが満足度へ寄与しているという形にまた戻って来る。これ、でも考えてみたら睡眠目的で摂取している人は例えば寝る前とかに毎日習慣的に摂取している、とかいうことなのかなと、で、また錠剤というのは「定期的に取る」には適している剤形であることを考えると、最終的にはその「定期的に取る」という行為そのものが満足感につながっているのかなと、そういう解釈もできるかなと思っています

というわけで今回の結果をまとめるとこういうことになります、CBDの効果や満足度に寄与するのは摂取頻度、あとは社会的時差ボケの有無ですね。なので物凄く雑にまとめると…

CBDの効果や恩恵を最大に受けたいのなら規則正しい生活をしましょうと、こういうことになります。驚くべきことにクロノタイプ、要は遺伝的・生物学的な睡眠リズムは関係なかったことから別に夜型生活でも構わないということになります、とにかく同じ時刻に起きて同じ時刻に起きろと、それが一番大事だと、そういう結論です。

ただ今回の結果だけだと、「規則正しい摂取そのもの」がCBDの効果を上げているのか、「定期的に摂取する」という「規則正しさ」が生活に導入された結果、生活のリズムが整って満足度や効果が上がったのか、そこがちょっと不明なので、その当たりをもう少し掘り下げていけたら面白いのかなと思っています。あともう1つ、女性はBMIがかなり強く寄与するが男性には関係ない、あと40代以降で切ると有効な説明変数が無くなってしまうなど、予想外な解析結果もちらほらあって、これすなわち「CBDの効果や満足度に寄与する要素は人によってかなり違う」ということでもあると思うので、こういった方面でももう少し掘り下げられたらと思っています。

最後にこの仕事はうちの学生だったPan君の卒論の仕事で、まぁ賞味2ヶ月程度しか無かった中だいぶ頑張ってくれたなと思っています。本当にお疲れ様でした、そして有り難うございました。また統計解析を手伝って下さったTabelの新田さん、それからそもそもクロノタイプがどうのSJLがどうのというアイディアが生まれるきっかけになった柴田先生および研究室の皆さんに深く御礼申し上げます。ここまで見ていただき有り難うございました!

最後に

この再録はCBD部主催のCBDアドベントカレンダーの参加企画でもあります!他にもいろんな「CBDやカンナビノイドを愛する人たち」の渾身のコンテンツがありますので是非そちらもどうぞ。
そして当研究室では一緒に研究を行なってくれる方を学生さん社会人その他問わず広く募集しております!是非カンナビノイド研究を盛り上げて行きましょう。
ではここまでお読みいただきありがとうございました、またどこかで会いましょう!

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