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特別展 Venezia500 (Alte Pinakothek München) Jan. 2024 美術の記録:ミュンヘン・アルテピナコテーク特別展『ヴェネツィア500、ソフトな革命』

ミュンヘン・アルテピナコテークの特別展『ヴェネツィア500』(23年10月27日〜24年2月4日)を大変興味深く見ました。

駅や街中に架けられたポスター


アルテ・ピナコテーク

今から500年前『チンクエチェント』のヴェネツィアでどんな美術運動が起きていたか、「ソフトな革命」として、16世紀前半の肖像画と風景画を中心に、アルテ・ピナコテークの所蔵から15作品、世界各地の美術館から70作品を借りて展示されました。

展示されている作品の画家は以下のとおり。

年表。

これは付随プログラムの案内です。

ミュンヘン・フィル、ゲルトナープラッツテアターが協力したコンサートも。
2月4日には打ち上げパーティーもあります。


私が個人的に強い印象を受けたのはこの作品とこれにまつわるエピソードです。

この作品は作者もモデルも不明とされて、長い間、アルテ・ピナコテークの保管庫に眠っていたそうです。調査が始まったのは近年でした。

手がかりになったのは中央壁に描かれた文字。
ANT:MAG:/NOBILISSIM/CIVIS VENET:
(アントニオ・マッジ/高貴/ヴェネツィア市民)

そしてレントゲンや超音波での調査を重ね、文献などを調べ、ヤコポ・ティントレット作《マッジ家3代の肖像》だとわかりました。

左からジョヴァンニ・フランチェスコ、カルロ、アントニオ。

カルロはキプロスでオスマン・トルコに捕まります。
スパイとされたカルロは奴隷として売られますが、カルロを買ったのはキリスト教徒で、カルロはヴェネチアに戻ることができました。

息子アントニオを守るように肩に手をかけたカルロは、父親から紙を受け取っています。これは相続人を示す書類だそうです。
実はカルロの妻ジャコミーナがアントニオを妊娠し、産んだ時はカルロはヴェネチアに不在でした。
アントニオの父親は不明ですが、カルロはアントニオを世継ぎと認めました。
これに関する文書はヴェネチアに残っているそうです。

この絵はカルロがティントレットに依頼して描かせたものです。
単なる肖像画ではなく、世間に後継を公表し、相続争いを起こさせない強い意志を表明したものです。
絵画の意味を考えさせられました。

絵の隣に架けられた以下の説明(ドイツ語と英語)をご覧ください(大筋は上記に説明しました)。

さて、ヴェネチア派は肖像画に緻密な風景を加えました。風景の緻密な描写を加えることで、その人物のキャラクターと雰囲気を際立たせたそうです。

また、聖母子像に聖人を加えるのもヴェネチア派の特色だったそうです。

例えばこれ、パルマ・イル・ヴェッキオ作《聖母子と聖ロクスと聖ルチア》。
ロクスとルチアは守護聖人です。
ロクスはペストから人々を守ったとされており、彼が活動したローマが右後ろに書かれているそうです。ロクス自身もペストにかかったので、右足の付け根にペストの痕がみえています(ロクス像では典型的)。

女性の肖像画もたくさんありました。
その中で、女性たちが指でV字を作っています(現在ならピース)。
これはラテン語の

Virtus(美徳)
Virginitus(処女性)
Venus(女性『美』)

の象徴です。

それぞれの絵画がどの意味を持っているのか???

この絵は指にダブル・リングを嵌めているので、婚約したばかり。Virginitusの象徴でしょう。

また謎の多い画家ジョルジョーネについても興味深い展示がありました。
ジョルジョーネの作品は《嵐》がもっとも有名で、後世に大きな影響を与えた巨匠とされています。巨匠とはいえ、彼は33歳で亡くなっています。

上記の作品は1505/10年頃とされています。
下記の「ヴェネツィア派《十字架をかつぐキリスト》1515年」、よく似ていますよね。

2つとも振り向いた際の首の皺が細かく描かれています。

ただ、このキリスト像からはイバラの冠の痛みも、十字架の重さも感じられない。

キリストの口は半開きで、何か言葉を発しているようです。

私はフェルメールの《真珠の耳飾りの少女》(1665/1666)を思い出しました。

ジョルジョーネはこの『ショルダー・ポートレート』(肩越しの肖像画、とでも言えば良いでしょうか?)を確立したと言われています。『一瞬』を捉えたと。

それまではプロフィール(横顔)、3/4ポートレートが普通でした。

また真正面を向いた肖像画もこの時代には珍しくヴェネチア派の特徴だそうです。

余談ですが、パスポート写真、日本は真正面ですが、ドイツの身分証明書写真は
最近まで3/4ポートレートでした。

またジョルジョーネはリュートの名手でした。
音楽との関係で言えば、この『ショルダー・ポートレート』の視線はワーグナー《トリスタンとイゾルデ》、《パルジファル》を思い出します。

他にも興味深い絵画と説明がたくさんありましたが、もう一つ、私が興味を持った、謎に満ちた作品をここに挙げておきます。

ジョヴァンニ・ベッリーニ《4つのアレゴリー》。
どなたか専門家がいらっしゃったら、どうぞ教えてください。



上記の絵画の説明は美術館の音声ガイドで聞いたことと、私がこれまで読んだものを基本にしました。
もしかしたら聞き違いや読み違いがあるかもしれません。その時にはコメント欄でどうぞご連絡、ご教示ください。

下部に説明(ドイツ語と英語)の一部の写真を掲載しておきます。

FOTO:(c)Kishi

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