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その便箋は分厚くて、読むのに苦労するな、とほんのちょっと思ったことは秘密だね

貴方に手紙を書くのは2度目ですね、という書き出しだった。
君はいつもあだ名で呼ぶくせに手紙となると貴方と僕を呼ぶ。

その理由を聞いたことは無かったけれど、おおかた昔の文体が好きだから、そんなところだろう。君はとても影響されやすくて、でもそれを直ぐに自分のものにしてしまうから怖いなと思ったことがあった。

僕のことを愛しいと思う気持ちを、惜しげも無く認めた長い長い手紙は、恐怖のようであってそこはかとない愛で満たされていた。
何度も読み返してはいないけれど、特徴的な文体が目に焼き付いている。

その手紙を書く君を想像する。
夜更かしばかりしているから、きっといつも深夜3時頃までかかったに違いない。
長い髪を乾かしてタバコを2本吸った後。
書き出しが決まってしまえばそこからは筆が速い。
ただ、そこまでにかなりの時間がかかってることを僕は容易に想像出来る。

紙を斜めに置いて書いてはまっすぐ書けないことにイライラしている。
1度だけ、真っ直ぐに置けば書きやすいのに、といったことがあるけれど、ただ睨まれただけだった。そして、少しそのまま書き進めたところで、素知らぬふりで紙を真っ直ぐに置き直す。
僕の視線に気づくと得意げに笑う。
そんな君だった。


貴方は私に色々なものを気づかせて呉れました。
余分な感情を削ぎ落とせたなら幾らか楽に成れるのでしょう。
でも私たちには無駄が何よりも必要なことを、互いで知って居る。
あの夜、星空の下にいた事も、堤防の上の怪しげな、私の足元を危ぶんでいたことも。
それでもその時に私がどんなに気持ちで居たかを、貴方は知らないんですね。
きっとずっと分からない。でも其れでいいんです。感情は、心は自分だけのもの。だから二人だったのです。
私は其の心と此れからも生きて往くのです。
だから大丈夫、独りでは無いのです。


今まで僕は、心の底からそれぞれの歩む道のために、なんて信じていなかった。
雄弁に語るのは正当化したいからだからだと、お互いを守る為にだと。

私を1番にして欲しい。
そんなこと言われなくたって当たり前だ。
滲んでいく紙の上は海のように見えた。
手紙に書いていた海の話を僕は知らない。
夕暮れに歩く君しか覚えていない。
夜中抜け出して駆け出した君の姿を僕は知らない。
大好きだった青いインクが目に染みる。

僕のイヤホンから、君が聴かないGOING STEADYが爆音で流れた。
例えそれが平行だとして、大切なことに代わりがないから。
歩く練習をしていたとあの映画では言っていたけど、僕は立ち上がる練習をしていた。
自分の足で立ち上がった時、そこに見えた景色を信じていたい。
そう思えたのも全部君のお陰だ。
愛しい人よ、永遠にそばにいて欲しい。
その形は確実に変わるけれど、それでも大切なものに変わりはないんだ。
君もそう思うだろ。
そうであって欲しいと僕は願うよ。

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