無糖の白 佐々木寛子歌集

(前ブログからの転載です)

無糖の白 佐々木寛子歌集

2015/5/27読了。

季節的には逆でした。


白鳥の翼シベリア寒気団 冬は空から降りて来るもの

この歌集の第一首です。寒い曇りの日に白鳥が羽ばたいているのを見上げると、

そのうちにそこから雪が降ってきた、という映像をイメージしました。

全体的に白い世界ですが、少し影が差しているようです。

その広い空間を見つめる視線の上下動が心地よく思えました。

自分は雪の多い地域に住んだことがないので、冬が空から来るという印象が

あまりなく、それではどこから来るのかと考えてみますが、

いまの梅雨空を見上げてもさすがに感覚がつかめません。

次の冬が来たときの宿題にしたいと思います。


一日に何度も受け取る有難う有難うの器となって働く

自分も仕事中は職場の人に何度もありがとうと言い、また言われています。

ちょっとしたことでもできるだけ言うように心がけています。

やって当たり前のことをしていていちいち感謝する(される)必要はない、

という考え方もありますが、

誰しもが当たり前のことを当たり前にできるわけではありません。

それをしてくれるだけで大助かりなのです。


フロマージュケーキのようになめらかな無糖の白が広がる雪野

標題歌に当たるものです。

正直に言ってフロマージュケーキがどういうものなのかよくわかっていませんし、

雪野というものを見たことも数えるほどしかありません。

しかし食べるとおいしくて幸せな気持ちになるんだろうなぁと想像されます。

でも雪野の方は無糖で、はっとさせられます。

そういえばヨーグルトなどでも、無糖のものを食べるとはっとしますね。

あれは何の気付きなのでしょうか。


突き出した誰かの舌を思い出す苺にそっとくちびる触れる

愛情というか、慈しみを感じる歌です。

言われてみれば確かに、いちごの先端の丸みは舌に似ているところが

あるように思います。ただ、色彩的にいえば

いちごの赤と舌の赤はかなり違うような感じがしました。

個人差はあるのでしょうが、いちごほど舌が真っ赤になるのは、

それこそいちごシロップのかき氷を食べた直後くらいではないでしょうか。

かき氷といえば、夏祭り。

だから、夏祭りで突き出された舌、と考えると、

なんとなくそうかもしれない、と勝手に納得できます。


嘘つきのあなたが嘘をつくたびに増えるわたしのなかの狼

人は誰しも自分のなかに狼や悪魔やリヴァイアサンを

飼っているものだと思いますが、それを誰が育て増やしているのかは

微妙なところです。

もちろんうかつにもばれる嘘をつくその人が直接の原因ではあるのですが、

それを消化できずに狼にしてしまうのは自分の問題でもあって、

結局はその望まざる共同作業が狼たちを育成しているのでしょう。

そしてその増えてしまった狼を、望んだものではなくても事実として

認めている冷静な視線がこの歌の魅力であるように思います。


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