イベントレポート スージー鈴木のレコード研究室Vol.18 「青山ブギウギ~笠置シヅ子のSP盤を蓄音機で聴く夕べ」(1月24日(火)開催)
会場に入った瞬間、目に飛び込んできた日本最古の蓄音機の優美なフォルム。いつものレコ研とは違ったムードが漂います。これぞまさにレコ研お得意の「タイムスリップ」。
1月24日(水)開催のスージー鈴木のレコード研究室Vol.18は「青山ブギウギ~笠置シヅ子のSP盤を蓄音機で聴く夕べ」と題し、日本コロムビア全面協力のもと、笠置シヅ子の当時のSP盤を日本最古の蓄音機「ニッポノホン」で聴くという、なんとも贅沢な企画。ゲストに日本コロムビアの技術部長・アーカイビング部長=冬木真吾さんをお迎えし、貴重なお話をお聞きしました。
本編終了後には、発売日に先駆けてスージーさんの新刊『弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる~OSAKA MOTHER’S SON 1980』(ブックマン社)
の「世界一早いサイン本手売り会」を、Barスペースでは今回もチカチカのDJタイム「チカチカ・バンビーナの 青山夜曲」を開催しました。
「ニッポノホン」で聴く笠置シヅ子の声に酔いしれた極上な夜を振り返ります。
まずは気になるセットリストから。
前半
■「東京ブギウギ-1GP」
雪村いづみ「東京ブギウギ」
笠置シヅ子「東京ブギウギ」
ユニコーン「東京ブギウギ」
■「買物ブギー-1GP」
笠置シヅ子「買物ブギー」
桑田佳祐「買物ブギー」
■「蘇州夜曲-1GP」
高畑充希「蘇州夜曲」
霧島昇&渡辺はま子「蘇州夜曲」
■「カラーレコードコーナー」
淡谷のり子「別れのブルース」
後半(蓄音機「ニッポノホン35号」「G-241」登場)
■「東京ブギウギ」
笠置シヅ子
福来スズ子
■「アイレ可愛や」
笠置シヅ子
福来スズ子
■「ジャングル・ブギー」笠置シヅ子
■「大空の弟」福来スズ子
■「センチメンタル・ダイナ」
福来スズ子
笠置シヅ子
■「ラッパと娘」
福来スズ子
笠置シヅ子
チカチカの部屋(エンディング)
■Rhapsody in Blue/George Gershwin
笠置シヅ子・服部良一コンビのオリジナル音源をBAROOMの最高音質で聴けるなんて、本当に贅沢の極みです。そして何より特筆すべきは、蓄音機で聴いた笠置シヅ子のボーカル。バンドの音量に負けない圧倒的な声量と、どこまでも伸びる艶やかな声。そして溢れ出る「スウィング」は、時代を越えて聴く人を虜にします。
イベント後半、ゲストの冬木真吾さんの登場とともに、日本最古の蓄音機で笠置シヅ子のSP盤を聴きました。この日は2台の蓄音機をお持ちくださいました。
スージーさん:蓄音機が2つありますけれども、どちらが古いんでしょうか?
冬木さん:向かって右側が、日本コロムビアが前身の日本蓄音機商会として、1910年に日本で最初に作っていたモデルです。左側は日本コロムビアが最後に作っていたモデルで1951年製です。
スージーさん:いつ頃からいつ頃までが蓄音機の時代なんですか?
冬木さん:蓄音機が出てきたのが1800年代後半で、日本では1910年から国内で製造が始まりました。その後1951年から日本コロムビアがSP盤ではなくて、LPを日本で作り始めました。ここからどんどんLPの時代になっていきますので、1960年くらいまでが蓄音機が使われていた時代です。
スージーさん:ちょうど笠置シヅ子が「スウィングの女王」として活躍し、一世を風靡した時期と重なるわけですね。
笠置シヅ子と蓄音機は同じ時期に、音楽を聴衆に届けていたのです。スージーさんと冬木さんのトークも「スウィング」します。
スージーさん:音質とか、音の特徴はどんな感じなのですか?
冬木さん:実際に出る音の周波数の幅、よくCDは何Hzから何Hzとか言われますが、数字の上ではCDの約半分ぐらいです。アナログレコードはデジタルに比べて柔らかいと言われますが、SP盤を蓄音機で聴くと、それ以上に温かみがあり肉声に近いという感想をよく聞きます。
笠置シヅ子の声量は言うまでもなく、まさに「スウィング」する旋律に驚くばかり。特に私が好きなのは「甘いメロディ ララララララ」の部分です。バンドはブレイク、そこで笠置シヅ子がちょっと抜いた感じで歌っているのがたまらなくセクシー。この時代にこれだけの演奏をしたミュージシャンがいたなんて。これを形にした服部良一の才能たるや。
スージーさん:これ、レコーディングってどうやってるんですか?ダイレクトカッティング?
冬木さん:はい。ダイレクトカッティング。一発録りです。
チカチカ:えー!バンドも全員ですか!?
冬木さん:演奏をそのままレコードに刻んで、レコードの原盤を作ってたんですよ。
スージーさん:当時はテープが無かったわけですから、そうなりますよね。録り直しもできないですもんね。
冬木さん:スタジオにマイクを何本か立てている写真も残っていますが、基本的に一本のメインマイクで録ってます。マイクからの距離を考えてバンドメンバーを配置して録っていたそうです。
なんと、全員が「せーの!」で演奏した一発録りだったとは・・・。考えてみれば当然なのですが。でも、一発録りだからこそ、あの「スウィング」が出るのでしょうし、得も言われぬスリリングなムードを感じるのだと思うのです。
スージーさんのアイディアで、急遽アンコールとして「買物ブギー」のSP盤をニッポノホンで“マイクを通さずに”聴き、終演となりました。力強いのに艶やかで、どこまでも伸びる笠置シヅ子の声は圧巻でした。スージーさんは感動のあまり涙・・・。
生まれて初めて聴いた蓄音機の温かい音。日本最古の蓄音機から聞こえる笠置シヅ子の歌声とバンドの演奏は、情熱的な中にも品があり、当時の日本のミュージシャンたちの素晴らしさを2024年の私たちに届けてくれました。
限られた情報・リソースの中でこれほどまでに素晴らしい作品を遺した先人たちの情熱に触れたような気がしました。笠置シヅ子と服部良一。出会ってくれて、ほんまによかった!
最後に、スージー鈴木のレコード研究室vol.20は7月3日(水)。詳細は追って告知いたします。
おまけ
DJチカチカ・バンビーナ:DJタイム「チカチカ・バンビーナ青山夜曲」セットリスト
今回は「夜」にちなんだ曲を中心にお届けしました。
・ハイケンスのセレナーデ/J.ハイケンス(ピアノ・編曲:中村八大)ジャズ・クラシック~G線上のアリア~より
・セレナーデ/渡辺貞夫
・Arthur's Theme (Best That You Can Do) 邦題「ニューヨーク・シティ・セレナーデ」/Christopher Cross
・Life/Mime
・A Night to Remember / Shalamar
・And The Melody Still Lingers On (A Night in Tunisia)/Chaka Khan
・Funky Tamborim/Tania Maria
・Papillon (aka Hot Butterfly)/Chaka Khan
・Tell Me A Bedtime Story/Quincy Jones
・2 A.M./Tania Maria
・Aire De Tango/Michel Camilo & Tomatito
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