ゆきちか

ゆきちか日々の書簡 06 * マルチタスク

コンポーザー二人の毎日のやり取りを切り取ったもの。きほん何気ない話です。そういや男性はシングルタスク、女性はマルチタスク傾向があるとは聞きますね(でもわたしはシングルタスク型)。
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わたなべゆきこ
作曲家、ケルン在住、四歳児の母。8月中旬から約1ヶ月帰国。
森下周子

作曲家、ベルリン在住。毎日30度超えでしんどい。
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森下:さいきん好きなものってなあに?

わたなべ:これ読んでる。数年前からミニマリズムにはまってたけど、今はエッセンシャリズム!

森下:これレビューに「マルチタスクの非合理性」って書いてあるけど、ゆきこちゃん完全にマルチタスク型人間じゃん?

わたなべ:いまマルチタスクからの脱却を目指している途中。

森下:え?そうなの???なぜに?そんな姿見たことないわ〜!!

わたなべ:一音を聞く、は結構前からやってるんだよ。音のエッセンシャリズム。初見とかトレーニングしてるとどんどん先に音楽読んじゃうし、解決を伸ばしたり、って楽しんでたけど、エッセンシャリズムは今それだけを楽しみの。今鳴ってる音だけ。期待も予想も記憶もなしに。

森下:あーなるほどね、そういえばJürg Frey(ユルク・フレイ)好きだと思うんよ!

わたなべ夏にヴァイオリンソロやる人ね。スイスだっけ?

森下:うん、そう。一番はじめに感動したのがピアノソロだったの。ピアノソロって次の音への期待が出ちゃう感じが好きじゃないんよね、先に行くこと前提。でもフレイのその曲はそれがなくって。

わたなべ:先に行く感じ出したくないってすごいわかる!ジェットコースターの落ちる前みたいな音楽苦手なんだよな〜、そもそも推理小説とかホラーとか読めないし見れないタイプ。ほらほら、来るよ来るよ〜が苦手。

森下:そうじゃない音楽ってたとえば?フレイ以外だとだれ??

わたなべ:それがAlvin Lucier(アルヴィン・ルシエ)じゃない?あとは、Dmitri Kourliandski(ディミトリ・クルリャンスキ)はそれを応用してるよね、Hypermusic。それかさ、ハイドンわたし好きなんだけど、ハイドンは凄く分解して弾くのが好きで、それはかなり瞬間的に音楽掴んでる気はする。

間宮(芳生)先生のピアノのレッスンで一番衝撃だったのがハイドンの弾き方で、凄く分解して弾くんだよね。この音は前の音と後の音と、どういう関係で、だから、こう弾く、みたいな。もう一音ずつ。それが凄く良くて。一音ずつ弾きながら、もちろん流れも作っていくんだけど、一音を弾くっていうことの大事さ、みたいなものを体感したんだよね。ロマン派以降はもう少し流れが大事じゃない、流れるから弾けちゃうけど、実はロマン派以降も一音ずつ、分解して弾けると思う。もっと言うと、現代音楽も同じで、だから一音をちゃんと聞いて、弾いてほしいな、って思う。

森下:うわあハイドンとか弾けなかったなあ。わたしひたすらロマン派ばっかだった、横のラインで弾けるんだもん。KourliandskiはHypermusicっていうのが特徴というか売りな感じなの?

わたなべ:彼は変換期によって曲調がだいぶ変わってるね。凄く頭の良い作曲家で、彼こそ限界を超えていくことにチャレンジしてる気がする。ロシアの人って概してスケールでかい。

森下:ゆきこちゃん割とよくロシアについて言うよね。ドイツやフランスと比べやすいとか、ケルン近辺にロシア人が多いとかなのかな?私まわりに誰一人としていないわ〜。ああマミノヴァ・シスターズくらい(笑)

わたなべ:ロシアは規模違うよね、なんか。あそこは別格な気がする。芸術全般。

森下:んーあんまり想像できん。作品のスケール感みたいなこと?

わたなべ:わたしも具体的にはわかんない(笑)、一回行って体験してみたいなと。結局欧米文化の只中にいるじゃん、きっとカイロ行ったときみたいに、新しい視点持てそうだなって。

森下:うーんやっぱりよく分かんない...(*_*)

【これまで】
ゆきちか日々の書簡 01 * チルテレ
ゆきちか日々の書簡 02 * カイロの音楽祭
ゆきちか日々の書簡 03 * 日本エキス
ゆきちか日々の書簡 04 *「個人的」なもの
ゆきちか日々の書簡 05 * ゆきこの屈辱

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ふたりが講師をつとめるProject PPPの三日間のコンポジションアカデミーは2019年は9月2〜4日に開催予定。オンナ作曲家の部屋vol.2、稲森安太己によるゲストレクチャー、Vln&Vcコンサート、グループディスカッションなど。

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