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ブックホテルの魅力と心に響いた本5選

コロナも落ち着いて旅行に行きたくなるこの季節。
数年前から憧れていたブックホテル「箱根本箱」に行ってみた。

こちらで出会った本がとても良かったのと、施設が快適で純粋にリピートしたいと思ったので、特に心に響いた本5冊と、ブックホテルの魅力を記録しておく。

心に響いた本

1.傘のさし方がわからない(岸田奈美著)


敬愛する岸田奈美さんの新刊。
彼女のnoteメルマガを購読しているため、ほとんどのエピソードは読んでいるはずと思って手に取ったら、初見のエピソードもたくさんあった。
岸田さんがすごいのは、自分を客観視できることと、相手がどんなにヤバい人、あるいは敵でも、その人の気持ちや背景を想像し、理解しようと行動するところ。
極論、岸田さんが世界のリーダーになったら、戦争がなくなると思うんです。ほんとうに。



2.世界のかわいい本の街(アレックス・ジョンソン著、 井上 舞訳)

ジャケットとタイトルにやられて手に取る。
本のフェスなどで活性化している欧州のかわいい都市たち。
欧州のジブリ映画に出てきそうな素敵な街並みの写真が並ぶ中、ひときわ気になったのが、韓国のパジュという街。
北朝鮮と韓国の国境近く、非武装地帯付近で開墾され、書店、ブックカフェ、出版社しかない街らしい。
なぜここに街を作ったのか深い意味がありそうだし、この街には幸せな空気が流れているのか、行って確かめたい。

ところで、登場する街はみんな、本によって人々のコミュニケーションが生まれ、街自体が潤っているように見える。でも、本当に本で町おこしができるのだろうか?本で経済を回すのってなんだかとっても難しい気がするのだけれど。



3.町の未来をこの手でつくる(猪谷 千香 著)

官民連携で、駅前の空き地に複合施設を作った岩手県紫波町のオガールプロジェクトの話。オガールはおがる(成長する)という方言から来ているらしい。
補助金も使わず、民間が事業計画段階で入り、地域で資金が回るように工夫設計されている。そして、なんと図書館を稼ぐインフラにしたのがすごいところ。

本で町おこしってできるの?の問いに対する一つの解となる事例が見つかった気持ち。

4.ちゃぶ台Vol.4 「発酵×経済」号(ミシマ社)


私は発酵にとても興味がある人間なので、そのまま購入。
ホテルの夕食で発酵マッシュルーム、発酵トマト、発酵キャベツを食し、全部美味しかったので、ますます発酵菌の魅力にとりつかれてしまった。
この本は、発酵というミクロな切り口から、マクロ経済について語られているのが面白い。書いた小倉ヒラクさんの、発酵を通して、経済を、社会を本気で変えたいという気概を感じるからだ。
消費社会は、自然の資源を収奪して経済を発展させてきた。自然が枯渇する前に、自然から乖離したITや金融でもっと経済は成長した。だけど、経済が成長して資本が蓄積した結果、資本の使い道がわからなくなってない?
人が減って、消費も伸びず、地域の共同体も衰退している。ならば、その資本を自然やローカル資源に投下させて、経済発展と地域共同体衰退のギャップを埋めようよ。酒や味噌などの発酵食品は、原材料を加工することで付加価値を作り出すことができる一方、発酵できる環境は容易に他の土地に移せないのだから、みたいな話。

私の中には、田舎で生まれ育ったのに都会で消費することしかしていない、地元に何も還元していないという後ろめたさのようなものが根底にあって、だから地方創生の話は読むだけでとても嬉しい気持ちになるのです。




5.読んでいない本について堂々と語る方法(ピエール バイヤール著、大浦 康介訳)

タイトル見た瞬間笑った。とても読みたかったのだけれど、読んでしまうと本が言うことと矛盾する気がしたので、ここは眺めるに留めておく。
開いたページにはこう記されていた。

大事なのは、しかじかの本を読むことではなく(それは時間の浪費である)、すべての書物について、ムージルの作中人物がいう「全体の見晴らし」をつかんでいることである

名言である。
ムージルが何かはわからんけれども。
細部なんてどうせ忘れるのに、全部読み終わらないと読んだって言えない気がして、本を全章律儀に読んでいたのはこの私である。
全部読まなくていい、大事なのはキュレーションする力だというのをこの一節だけでわからせてくれた。
そして、読まずに読んだって言う勇気を頂いたので、この本には感謝したいと思う。ありがとう。

最後に、ブックホテルの魅力について

今回初めてブックホテルを利用して、良かった点が二つある。一つは、本を売る気がないこと、もう一つは、本を愛する時間と空間をくれることだ。


・本を売る気がないこと
ホテルなので、宿泊料がメインであって、本の販売は副次的なものである(どの本も買うことはできるが)。
だから、本屋のような営業色の強いベストセラーのラインナップはなく、かと言って図書館のような網羅性や合理性もない。
オーナーのセンスで選ばれた本が独特のカテゴリーで並ぶ。なんというか、私のような素人読書アンテナが受信しやすいように工夫してくれているみたいだった。
それもあって、普段出会えない本に出会え、非日常を味わえた。

・本を愛する時間と空間をくれること
立ち読みの時間が長いと、手元にある本に愛着がわく。人の手垢がついてるとか細かいことが気にならなくなり、多少端っこが折れてても気に入ったから買おうという気になる。本を消費するんじゃなくて、本を消化して栄養にしかけている感じ。
今回、ひとつの本を読んで浮かんだ問いに対して、全然違うジャンルの別の本から解みたいなものが見つけられたのは新感覚の体験だった。
これは、沢山の本をザッピングするだけでなく、咀嚼する時間的余裕がないと出来なかっただろう。箱根本箱は、本を部屋に持ち込めるし、部屋には露天風呂がついていて読み疲れたらいつでも入れる。本とゆっくり過ごす時間と快適な空間が揃っていて寛げたのが良かった。





個人的には近所の本屋さんに10回行くより、ブックホテルに一泊する方が有意義だと思う。頻繁に行くのは難しいけれども、また行きたい。

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