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憧れの中銀カプセルタワービルに行ってみた

古いビルが好きだ。
明治、大正、昭和に建築されて、現存する建物を見ると嬉しくなる。
時代を渡ってきた独特の垢みたいなものを感じて心地いい。
コンピュータのない時代に知恵を絞って設計し、建設した人類はマジで尊いと思うし、その建物を利用してきた人々の姿を想像すると愛おしい。

銀座の一角に、明らかにおかしな形の建物が唐突に現れる。
中銀カプセルタワービルだ。

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一目見たら素通りできない。
オフィスなのか、ホテルなのか、マンションなのかわからない。でっかいコインランドリーの集合体のようにも見える。
誰が何のためにこのビルを建てたのか…気になってしょうがない。

調べたら見学ツアーをやっていたので、参加することにした。結構人気があるようで1ヶ月先まで予約が埋まっていた。
https://www.nakagincapsuletower.com/

当日、到着してまず気になったのがこの1階のネームプレート。

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おいおい、濁点どこいった?
この細かいことは気にしない感じ、期待を裏切らない。

ビルに入った瞬間、懐かしい匂いがした。
どこかで嗅いだことのある古いビル独特の匂い。そこはかとなく漂う昭和の残り香を感じて嬉しくなってしまった。

一歩踏み入れるとずしっと揺れてちょっと心配になる古いエレベーターに乗り、上層階へ上がる。

降りるとさらに緊張感の高まる渡り廊下があった。

ここから上層階のカプセル(丸窓のついたキューブ型の部屋)を眺めることができる。カプセルの結合している様子や、経年劣化で配管むき出しになっている様子なんかが伺える。

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プライバシー保護用目隠しのついたカプセルもあり、行き届いた配慮に驚く。


このビルは、建築家黒川紀章が設計したもので、竣工から50年経過しているそうだ。新陳代謝を意味するメタボリズム建築と呼ばれ、カプセルは定期的に交換する構想だったのだとか。それが、50年、カプセルは一度も交換されることなく、大規模修繕もなく今に至っている。現在はいつ解体されてもおかしくない状況だという説明を受けた。

現在、カプセルには、人が住んでいたり、住んでいなかったりする。140個あるカプセルのうち、今利用されているのは20個くらいだとか。
説明を受けていると可愛らしい2人の女性が挨拶をして通り過ぎていった。カプセル住人らしい。うらやましい。


ビルの中に戻り、らせん状に作られた階段を下りていく。
次はいよいよカプセルの中に入れてもらう。
カプセルはぎりぎり一人暮らせるくらいのコンパクトな作りで。

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でも、壁に埋め込まれたSONY製のTVやテープ、ラジオ、電話等があり、ホテルライクでとても機能的に見える。
壁のフックを引っ張ると、テーブルまで出現し、劇的ビフォーアフターもびっくりの匠の技である。

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50年前からこんなに立派な壁面収納ってあったのか。ああ、ここでリモートワークがしたい。


ツアー参加者は、パンフレットを購入できる。このパンフレット、複数人のカプセルオーナーが切れ端をもちよって復元させた代物らしく、レプリカだけれどもめちゃめちゃ味わいがある。

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漏れなく私も購入し、中身を読んでみたところ建築コンセプトが書かれていてとても興味深かった。

時代は高度経済成長期。情報化社会、超技術社会、高度選択社会といった未来社会のイメージが議論されている。
その中で、特に頭を使う仕事が中心になる情報化社会においては、自分らしい個人の空間の確保が必要で、カプセル住宅は自分を取り戻すための休憩の場であり、情報拠点であり、都心をこよなく愛する都市人の生活の基地になるだろう、そして、カプセル住宅は、選択によって、ミニ・オフィス、アトリエ、ホテル、住宅、会議室、都心の別荘等無限の用途に使用できるだろうという旨が書かれていた

わたしは、オフィスなのか、マンションなのか、ホテルなのかわからないと思っていたが、なんとどれにも活用できるように設計されていた。桃源郷か。
それに、カプセルは、そのまま移動できる想定で、公道を移動できるギリギリの大きさに作られているらしい。別の都市にもカプセルタワーを作って、その棟にはめ込むという発想もあったとか。大胆すぎる。
もし、カプセル引っ越しを依頼されたら、サカイは対応するのだろうか、余計な妄想をしてしまう。

とはいえ、このカプセルは一度も交換されていない。
それは、構造上、カプセルがジェンガを組み立てるように下から積上げられており、上のカプセルから取りはずさなければ、実際は危険だということ。
また、分譲で販売されているため、各オーナーの同意がなければカプセルの取り外しが困難だということに起因している。

各カプセルオーナーの想いや懐事情が千差万別であると考えると一筋縄にはいかなそうである。
そんなわけで、このビルは、構想がどんなに素晴らしくても、構造と運用がいかに難しいかという社会のテーマを物語っているように感じた。

例え、カプセル自体の新陳代謝はなされていなくても、カプセル内では新陳代謝が繰り返されている。ツアーで紹介されたこの本も思わずamazonで買ってしまった。


20人の住人のカプセル生活が描かれており、生活している人もいれば、オフィスとして利用している人もいる。茶室や別荘にしている人もいて、インテリアはどれもカプセルという性質を存分に生かして個性的で魅力的だ。
全ての人に共通しているのは、カプセルを面白がって、愛していること。

とても創造的で、素敵で、憧れる。
この建物は歴史的な時代背景を物語り、芸術的な魅力の塊だと思う。
サグラダファミリアやタージマハルも素敵だけれど、日本にもこんな面白い建築があるんだよということをもっと多くの日本人に知って欲しい。

そして、いつか自分もこのカプセルに暮らしてみたい。

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