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気持ちよく仕事をするための視点

「天才を殺す凡人」という本を読んだ。
自分の中の、目に見えないモヤモヤが秩序化されて解消されていく感覚を味わった。そして、もっと早くこの本を読んでいれば気持ちよく仕事ができたかもしれないと思った。

かつて本業だった会計士の仕事での失敗を通して、そのモヤモヤが何だったのか、どうすれば解消することができたのかについて書きたいと思う。

監査の仕事
かつて私は監査という仕事をしていた。監査は、会社の財務諸表(会社の家計簿みたいなもの)が正しいかチェックする仕事だ。チェックの依頼してお金を払ってくれるのは会社なので、私にとって会社はクライアントである。

監査の仕事の中でも難しいのが、「価値を評価すること」だ。
当時私は、クライアントが所有する株式の評価の担当になった。
株式でも、上場株の評価は比較的簡単だ。ヤフーファイナンスとかで株価検索をして、株価×持ち株数 で価値を算出できる。
一方で難しいのが、非上場株の評価だった。非上場株は、公開されていないので株価がわからない。このため、株を発行している会社(=クライアントにとって投資先)の過去の財務諸表や事業計画等を入手して評価することになる。クライアントは、投資先の株主なので、非公開の過去の財務諸表や事業計画等も入手できるのだ。

だいたいの場合において、業績の悪い投資先の評価を落とすか否か(=株式評価損を計上する、減損ともいう)ことについてクライアントと揉める。論点は、投資先の業績の回復可能性があるかないかだ。
クライアントは、自分の所有する株式の評価を落としたくない(株式評価損を計上したくない)。一方で、会計士は財務数値から客観的に見て評価損を計上するべきではないかと考える。

当時の私は、色々な材料をもって回復可能性を説明するクライアントと客観的な財務数値との板挟みだった。
クライアントの主張の合理性に納得できなかったし、若かった私は客観的財務数値の一点張りで向こうを説得できなかった。ここに、コミュニケーションの齟齬とモヤモヤが生まれていた。


「天才を殺す凡人」で書かれていたこと
・コミュニケーションの断絶は「軸と評価」の2つで起こる。
・「評価」は相対的なもので変わることがあるが、「軸」は絶対的なもので、「軸が異なること」による、コミュニケーションの断絶は、とてつもなく「平行線に近いもの」になる。
・天才と秀才と凡人は、判断の軸が異なる。
そしてこの事実をわかりやすく表現したのが以下の表で、目から鱗だった。

(出典: http://yuiga-k.hatenablog.com/entry/2018/02/23/113000)

あてはめ
財務諸表(B/S,P/L)は世界共通の指標だ。万人が用いる指標である、ということは世の圧倒的多数を占める凡人が納得できるよう作られた指標だということになる。
世間一般の人が株式を購入することを前提とし、彼らが判断しやすいような財務諸表作成ルールを規定したのが会計基準と考えれば納得がいく。
そして私が主張の根拠にしていた客観的財務数値は、会計基準に基づくものだ。

どうすればよかったのか
監査は、凡人の指標とルールに基づき客観的に判断するものだ。
凡人という言葉は、会計士のプライドに与える打撃力が強すぎて受け入れ難いかもしれない。でも、監査は、株式市場全体の円滑化という目的のもと多数の人々を対象としていることを思い出して欲しい。

当時、私は、B/S,P/L(金額)の実績と見込みという共感性の軸により、株の評価をしていた。
一方で、クライアントは、別の軸で説明をした。それは創造性だったり、再現性のKPIによるものだったんだと思う。
だから私は混乱したし、クライアントもなぜ理解しないのか納得できない様子だった。当時の私にとって、クライアントの主張は「評価を下げてほしくない」という感情的な言い訳のように感じていた部分も少なからずあった。
その他、情報の非対称性により相容れない部分もあったと思う。私の持っている情報は数枚の稟議書と財務数値だけだ。一方でクライアントは、どんな思いで投資をはじめたか、株式購入の経緯から知っている。投資しているプロジェクトの進捗状況を実際に目で見たり現場の人と話したり、より多くの情報を持っている。だから、少量の情報で機械的に判断されるのを嫌う気持ちもわかる。

でも、一番問題だったのは、相手がどの軸で話をしているかをちゃんと理解していなかったことだ。相手の示した数値がどの軸の指標によるものなのかということを整理して区別できていれば、相手と同じ軸で話すこともできただろうし、相手に別の軸で議論することを提案できただろう。そうすれば、お互いモヤモヤせずもっと気持ちよく仕事ができたはずだ。

こういうことは、監査という特殊な現場だけで起こることじゃないはず。会社という組織に属している限り、意思決定をするあらゆる場面で遭遇しそうなことである。
この視点は今後自分の考えを整理したり、会話の中で相手に説明したり説得したりするのに、とても役立ちそうだなぁと思ったのでした。

ちなみに、本に付属していた天才・秀才・凡人判定の結果、わたしはただの凡人に判定されました。

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