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#016 スペシャルケア外来でスペシャルな宣告を受ける

2019年3月18日

昼過ぎから大学病院へ。いよいよ放射線治療が来週の月曜から始まるのだけれど、その前に歯科検診を受けてくださいとのことで、病院附属の歯科外来へ。

放射線治療を一旦受けると顎の骨が影響を受けて脆くなり、生涯にわたって抜歯などができなくなるそうだ。前回のインフォームドコンセントの際にサラッと言われて、味覚障害の件と共にかなり衝撃を受けたことなんだけど、それゆえに虫歯を発生させないために生涯にわたってかなり口腔ケアが大切になってくるとのこと。

ただでさえも放射線治療後は唾液腺が機能しなくなって虫歯になりやすくなるそうなのに、一旦深刻な虫歯になったらジ・エンドなんて、かなり人生のハードルが高くなるよな。まあここまできたら四の五の言わずに受け入れるしかない。そのためにここにいるわけだし。

とはいうものの、それこそ一週間前に自前で歯医者に行ってひと通り診てもらったばっかりだ。当然その旨も伝えたのだけど、いいえ、ちゃんとこちらで受けてください、との一点張りで全く埒があかない。まあ先生にしても明確なデータで残しておきたいのだろうし、下手に事を荒立ててもしょうがないのでおとなしく指示に従い、本日の予約を入れておいた。

予約票を受付で渡し、案内された末にたどり着いたのは「スペシャルケア外来」というなんとも御大層な名前の外来。何やらVIPな響きのネーミングだが、高校時代の学食の花形メニューの名前がスペシャルランチ定食だったのを思い出すと途端にチープな印象を放つ。もう少しまともなネーミングはなかったのだろうか。何がどうスペシャルなんだか。

しかし受付で呼ばれて診察室に入るとさすがは天下の大病院、ずらっと診察室ブースが奥まで並んでいてなかなか壮観な眺めだ。こんなに大規模な歯科というのは見たことがない。これがスペシャルたる所以なのか?

物々しい雰囲気の中、一番奥のブースに通されて担当の先生にこれまでの経緯を話す。最後に歯医者へ行ったのはいつですか?と聞かれて、一週間前に全部診てもらったばかりですと正直に答えたら苦笑された、まあそりゃそうだよな。

それでもレントゲン撮影から始まり、歯槽膿漏、磨き方、歯石の残り方などひと通りチェックし、それぞれについてアドバイスをもらう。癌患者に対応した専用の歯ブラシやら口腔ケアウォッシュ剤があるとのこと。そんなのあるんだ、知らなかった。それらについての説明も受けて、帰りに病院の売店で購入していく。

担当の先生から聞いていると思うんですけど、放射線治療を受け始めてから10日前後で口の中に大きな口内炎ができてくると思います、これはもう避けられないことで、治療を始めた方は誰でもそうなんですけど、それができ始めるとものすごい痛くて食事もできない、水も飲めない、歯磨きなんてもっての外、という人が多いんですよね、ですからそういう人たちのために、せめて痛みを和らげるためにそういう商品が用意されてるんです、だって。

ちょっと待て、なんだよそのデカい口内炎って。担当の先生からはそんな説明は何も聞いてないぞ、想像しただけで恐ろしいじゃねーか。味覚障害や食欲不振だけじゃなくてそんなトラップまで用意されてるなんて、そりゃ10kgも痩せるわけだわ。なんだかものすごい憂鬱になってきた。

でももう、ここまでくると覚悟を決めるしかないよな。あとはもう治療を進めてみないと分からないわけだし、ひょっとしたら口内炎だってできないかもしれないし。いや、多分できるんだろうけど。あとはどれだけ自分が快適に日々を過ごせるかを探っていくしかないよな。


病院から駅まで徒歩数分なのだけど、途中の交差点に大きな桜がある。なかなか見事な枝ぶりだ。きっと満開になれば信号待ちの人々や、通りすがりの人達の目を楽しませてくれるのだろう。

東京の桜の開花予想日は21日、今週の木曜日だ。僕が放射線治療をスタートさせる頃にはちょうど蕾がほころび始めるくらいだろうか。タイミング的にちょうど咲き始めてから満開になるまでの毎日の移り変わりを眺めながら病院まで通うことになるだろうし、28日に入院して4月1日に退院する頃にはだいぶ散って葉桜混じりのちょっぴり寂しい姿で迎えてくれるのかもしれない。

その頃の僕には桜の花の移り変わりを楽しむ心の余裕があるだろうか。慌ただしい春を迎えることになりそうだ。

美味しい食べ物とか、子供達へのおみやげとか、少しでもハッピーな気持ちで治療を受ける足しにできれば嬉しいです。