【次世代リーダーシップ(前編)】役職、権限がないリーダー〜スクラムマスターについて〜

IT、ソフトウェア開発界隈で勃興している「スクラム」について、どんな業界の方でもわかるように説明します。

今日はスクラムで定義されている役割の一つ、「スクラムマスター」についてお伝えします。

スクラムで定義される役割は3つ!?

スクラムというチームフレームワークを使って組織・チームを運営しようとすると、役割が3つだけになります。(なんという少なさ!)
よくある日本企業の役職って、
社長-副社長-取締役-執行役員-本部長-副本部長-部長-副部長-専任部長-課長-係長-主任-主査-----マトリックス組織(人材育成とサービス経営の権限責任が別れている組織)だと、ここにプロデューサー、シニアディレクター、ディレクター、プロジェクトマネジャー、シニアリードが掛け合わされ…

こういった細かな階層は、実際”誰がどこまでの責任範囲なのかわからない”
ことが多い。
特に現場と上層部の距離が遠ければ遠いほど、困ったときに誰かに相談しても「あ、それはうちだけの一存では・・」と"たらいまわし”にされたり、小さな意思決定でも”スタンプラリー”が行われます。そんなことをやっている間に、競合に抜かれ、現場の主体性をもとうとする意思はもがれ・・という闇の状態へ突入です。サービス提供側の論理は、悲しいかな最終的には顧客が負うことになります。

ですから、できれば「複雑な構造(↑の例でいくと、多すぎる役職・部門の割り方)」はできるだけシンプルにしたい。20年以上前、世界中の文献や事例、理論等を元に考察された結果、「役割というのは3つで成立する」という結論になって、スクラムが生まれています。
でも実際問題、3つだけになるので、これは簡単には受け入れられがたいことだと思います。

スクラムでいう3つの役割とは?

■プロダクトオーナー(PO):ビジネスオーナーのような役割。サービスの成功にコミット。投資対効果の最大化に責任がある
■開発チーム(チーム):いわゆる実際に業務を行うひとたち。業務を効率的・効果的にしていくことにコミット、品質の維持・管理責任もある
■スクラムマスター(SM):下記参照。

です。上記3つの役割に上下関係はありません。役割と責任分担があるだけ。今日は、なかなか理解が難しい「スクラムマスター」という役割について書きたいと思います。

スクラムマスターがなぜ必要なのか?


●スクラムを通じた組織運営の世界観の実現は、組織運営に興味や課題意識がない人でないと、なかなか難しい
※世界観については以下を参照
【チーム・組織運営】自律的なチーム・組織のあり方を考える〜スクラムの世界観〜
実際にセルフマネジメント、というと聞こえはいいですが、これまでのマネジメント統制配下で、ある程度決められた範囲で行動をしてきた人たちが、自分たちで推論を重ねながら物事をリードしていくことは別の筋肉を鍛え直すことと同じだと思っていただければと思います。
●スクラムのルールや推奨されている実践内容の、本質的な目的や意図を理解しながら取り組む事は難しい(表層的にハウツーだけなぞる人が多い)
●(業務プロセス上であれ、人の関係性であれ)課題と向き合うのが、当事者同士のみだと難しい時がある
===
いやそれぐらい自分たちでやってくれよ、という上層部の方々がもしいらっしゃったら、なぜ&どうやってチームとプロダクトオーナーのみで上記が実現できるのかを、ぜひ聞いてみたい。なぜならスクラムマスターの業務はほぼ、マネジメントが行う内容ですから^^;。

スクラムマスターの役割

スクラムマスターの役割は大きく分けて4つです。
①チームのコーチ・サーバントリーダー
②POやチームがそれぞれの役割を全うできることに責任を負う
③スクラムで推奨されているルールや方法をメンバー達へ教え、彼らが使えるようにしていく
④組織の変革

それぞれ詳しく見ていきましょう。

①チームのコーチ・サーバントリーダー

プロのスポーツチームには必ず「コーチ」の存在があります。
常に見ていてくれて、第三者観点で状況を分析し、アドバイスをしてくれる人。ときに厳しく、ときに励まし、状況に合わせて寄り添い方を変えてくれる存在。
スクラムマスターも一緒です。
主役である、プロダクトオーナーやチームが、どれだけ楽しく、集中して、「コト」に向かいながら成果を出せるか。
を常に考えています。そのために、指示を出したり、権力を見せることではなく、皆のためにできることをサポートしたり促進することで、皆をまとめていく。というサーバントリーダーシップのスタイルをとっていきます。

そのためには、以下が必要になります
・状況を観察する力
 観察するのは、業務が進んでいる時/いない時、チームに何が起こってい
 るのか
(進捗自体よりもその進捗を生み出す「何か」に気を払う)。
 MTGなどが、目的や意図通り進んでいるか。
 会話は十分できているか(小さい声も拾えているか)
 ビジネス的な成果(or目的に対する成果)はでているか。
 改善が積み上がっているか。
 皆の感情や、人間関係はどうか。

・状況を分析する力
 業務遂行時に出てくる様々な課題を整理し、その因果関係や相関関係を
 考え、改善に向けた仮説をだしていく力。論理性や伝える力も必要です。
 実際解決をしていく段になると、SM自ら解決、というよりはできるだけ
 POやチームで解決してもらうために促します。
 この段になると、指示をしたくなる衝動に駆られるひともいますが、
 シチュエーションによって、リーダーシップのとり方や使う対話手法を
 変える必要があります。なぜならチームの自律性を育てるため。
(ティーチング、ファシリテーション、コーチング、など)
 
・POやチームが集中し、学習し続けられる環境づくり
 逆に、集中できない時ってどんな時かというと・・・
 ・チーム外からの横槍が多くはいって振り回される
 ・他の部署の階層が複雑で誰にきいてもたらい回される
 ・チーム内の意見がまとまらない
 ・いつも同じ失敗を繰り返す。計画したことが終わらない。
 ・POの言っていること、目指していることがよくわからない
 ・チームの中で仕事が誰かに集中してしまって、関係性も悪くなっている
など。あげればキリがないですが、チームが集中してコトに向かえる環境を作ったり、学習を積み上げられるために、スクラムマスターは様々な取組を考え、チームに提案し、実行していきます。
例えば
 ・チーム外からの横槍が多くはいって振り回される
  →主要なステークホルダーを集めて意思決定のプロセスについて
   話し合う場を作る
 ・POの目指していることがわからない
  →ビジョン策定ワークショップの開催
 ・チームの中で仕事が誰かに集中してしまう
  →業務の可視化や計測、ペア作業の提案など、属人化解消の推進サポート
 など。

まとめ

・スクラムマスターは次世代型マネジメント、リーダーシップのあり方の一つのモデルである
・スクラムマスターに権力はない。なので、指示力ではなくコーチングやファシリテータースキルが必要になる
・スクラムの目指す世界観の実現は、組織全体の考え方や構造を変化させる方向に向かうので、チームだけでは推進が難しい。よってスクラムマスターは必要である

長いので、以降は後編にてお届けします!
 

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