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旅行エッセイ

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真夏に恋して、

真夏に恋して、



冬真っ盛りである。寝ているあいだも寒くて肩をすぼめているらしく、朝起きたときにはすでに肩が凝っている。

あと1ヶ月はまだまだ冬だ。ふと夏が恋しくなって、夏どこ行ったかな、とアルバムを開く。飛騨高山。といってももう一昨年のこと。一年って本当にあっというまである。

夏というのはとにかく目に飛び込んでくる色が眩しい。恋しいくらいの緑と、白い雲。真夏は夏バテでいつも嫌いなのに、それでもいいから色が

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炎節

炎節

ゲートをくぐりぬけたとたん、ふわっとした空気に包まれた。

オープンエアの空港では、南国の太陽に照らされて、ぼんやりとしたベージュの噴水も、土っぽさが残る彫像も、水が足りなさそうな木々の葉も、何もかもがカラフルに輝いている。

そんな日差しの下へ向かって一歩進むごとに、「タクシー?」と聞かれる。ここでは目的地に行くまで、少なくとも20回は同じ質問を受けないといけない。

予定より2時間遅れてヴィラ

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冬のJR、あたたかい座席

冬のJR、あたたかい座席

午後8時、下り線、駅のホーム。

電車が数分遅れているからか、ホームには人がごった返している。そんな人ごみのあいだをぬっていこうとするとき、ふとみんなの姿勢が一緒のことに気づいた。

猫背で首を少し下に傾けて、ひたすら手のひらサイズの小さな画面を見つめている。

私もホームで待つときスマホをぼーっと見ているから、たぶんこんな格好をしているんだろう。

電車が来る。どっと人が降りて、よっこらしょと人

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何度だって行きたい、ソウル。

何度だって行きたい、ソウル。

ああもう、なんで今まで行かなかったんだろう。

そう後悔するくらいの、旅。

ソウル。成田から飛行機でたったの2時間。東京からいちばん近い、外国だろうか。

あまりの近さゆえ、いつでも行けると思ってこの数年間、あとまわしにしてきた場所。コスメやカフェがかわいくておしゃれで楽しいとは聞いてきたけれど、ほんとうにその通り、いや、聞いていた以上だった。

わざわざ調べて行かなくても、一歩外へ出て、街を歩

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夏を惜しんで、養老渓谷

夏を惜しんで、養老渓谷

夏がまだ真っ盛りのころ、いや、正確にいうと、真夏がまさにこれから始まろうとしているころ、ふと思い立って、一人で電車に飛び乗って(文字通り飛び乗った)、千葉の養老渓谷に行ってきた。

あんまり休めていなくて、遠出もできていなくて、気持ちもなんだかくさくさしていたから、ふと緑がみたいな、と思ったのだ。

電車に揺られて都心に仕事をしにいく毎日だと、やっぱり緑を目にする機会が少なくて。飽きるほどの緑を目

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いつだって、遠くへ行きたい−−東京湾写真記

いつだって、遠くへ行きたい−−東京湾写真記

たまには違うことがしたい。やったことないことをしてみたい。

というのは、先日の休みに私が夫に言った台詞である。

数少ない二人の休み(夫が仕事人間)は、半分くらいは家事や買い出しや家計費の精算なんかに充てられる。そうでなければ、映画館に行ったり美術館に行ったり近くのイタリアンに行ったり、が定番だ。

私が提案したのはジャズバーだった。ちょっとおしゃれなところを提案したのが恥ずかしいけれど、生の音

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からだのどこかにある引き出しにしまわれたものたち−−台北旅行記

からだのどこかにある引き出しにしまわれたものたち−−台北旅行記

あ、懐かしい。

それが、台北に着いてまず思ったことだった。

漂ってくる匂いとか、バイクの音とか、ごちゃごちゃした看板が連なるのに、どこか統一感がある街並みとか。決してきれいではないけれど、人の気配が感じられる、夜の道とか。

台北は、記憶のなかにある初めての海外暮らしだった。小学校低学年のころだから、全然覚えていないけれど、学校の真向かいにあったアメリカンスクールで食べたピザとか、近くの大きな

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