変化への、一歩を。『たまこラブストーリー』映画レビュー

不安、不安、不安。何が不安かって言うより、不安というその感情自体がキライ。

今の時代は、先行きが不透明で不安になりやすい時代だと言われています。先行きが不透明ということは、この先どうなるかわからないと言うこと。つまり、今までと同じじゃなくて、変化していくということ。

そう、変化が不安を呼び起こすのです。

変化そのものが怖い、というのは人間の普遍的な感情で、私もご多分に漏れずそのうちの一人です。これまでだって環境が変わったことなんてたくさんあって、その度になんとかやってきたはずなのに、それでもやっぱり変化する手前って、怖いんですよね。

そんな、変化が怖いなあってときに、見たくなる作品があります。それがアニメーション映画の『たまこラブストーリー』。

ちなみに同じ監督の作品は、去年秋に公開された『聲の形』です。

以下、ネタバレしていますが、ストーリーがネタバレしてもさほど問題がない作品...というか、読んだあと実際に見て細かい演出を見てほしい作品なので、ぜひ。

あとからじわじわくる作品

『たまこラブストーリー』は、高校生のたまこが、幼馴染のもち蔵(最初二人の名前ギャグかと思った)に告白されて、彼を意識し始めて返事をする、というど直球なお話。

だから初見はふーんというか、さらっと見てしまった。でもなぜか、後からじわじわくるというか、見返したくなったんですよね。なんでだろうと思って書いているのが、この記事であったりもします。

タイトルからいくとたまこともち蔵をめぐる恋物語なのですが、私はこの映画を成長物語として見ています。

もちろん物語において主人公が全く成長しなかったり、変化しなかったりというものの方が少ないかとは思いますが、この映画は特に主人公の成長を丁寧に描いています。

たまこが年相応になるために変化する物語、なんですね。

たまこラブストーリーは、元の作品『たまこまーけっと』があって、そちらを見ればよりわかるようにはなっていますが、たまこには母親がいません。小さいときに亡くなってしまったのです。母亡き後、母親役をつとめるのがたまこという女の子なんです。

映画冒頭では、そういうたまこの「アンバランス」なところが上手に描かれている。商店街で買い物して、ごはんつくって、お店のお手伝いして、新作のお餅づくり(たまこの家はお餅やさん)に余念がなくて…と、高校生とは思えないくらいの働きぶりや、成熟したところがあります。

優しくて、どこか目線が遠い

そんな母性溢れるかんじかと思いきや、性のこととかにすごく無頓着。思春期の頃にあるひねくれたところや、うがったところ、不安や揺らぎ、陰りみたいなところを一切感じません。

大人びている一方で、すごく子供っぽいんですよね。

映画では、そんなたまこが幼馴染のもち蔵の告白をきっかけにして、年相応に成長する(させられる)物語。

たまこはもち蔵に告白される前、あったかくて、ふわふわしていて、柔らかくて、みんなを幸せにする、そんなお母さんになりたいと言っています。

つまり、母親役じゃなくて、亡きお母さんのようになりたいと焦っている。

でも成長の過程をすっとばしても、お母さんみたいにはなれないわけで。「もち蔵ショック」じゃないけれど、告白をきっかけとして年相応に恋に悩み、将来に不安を覚え、変化することにとまどいを覚えます。

映画において、たまこはもち蔵の気持ちに答えることで、何らかの変化が訪れることを恐れる。それは、お母さんが亡くなったときに、日常が変わってしまうことの恐怖を経験したからで、以来たまこはずっと商店街の日常を守ってきました。

『たまこまーけっと』はいわゆる日常系アニメですが、たまこ的世界(うさぎ山商店街)では変わらないこと、今の日常を守ることが「善」なのです。

変化を恐れるたまこが、変化を迫られ、どう変わっていくのか。この映画はそれにつきるでしょう。

自分が望んだはずの変化ですら、いざ目の前にやってくると怖くなる。

たまこも映画の中で、妹のあんこに、「あんこはさ、変わるの怖い?急に今までとちがう世界になっちゃうようなかんじ」と聞いています。


たまこと母親の関係

ではそんなたまこが変わることへと踏み出すきっかけは、何なのでしょうか。

それは、たまこのお母さんです。

そういえば、自分のお母さんって生まれたときから“お母さん”って感じがしません?私も小さい頃は特にそうでした。

私も自分が母になりうる年齢に近づくにつれ、お母さんも、最初からお母さんではなく、お母さんになっていったんだ、とまあそんな当たり前のことが、やっと腑に落ちました。

たまこは偶然、高校生のときのお母さんがお父さんにあてたメッセージ(告白への返事)を聞くことになるのですが、これが、たまこが変わることを受け入れるきっかけとなる。

たまこはこのとき、「お母さんの代わり」から、「等身大のたまこ」へと変わろうと決意したんだと思います。

それは、お母さんにも自分と似たような時期(告白されて思わず逃げてしまうような時期)があったと気づいたから。

お母さんがつくっていた日常を壊す=抜け出すという構図は、親離れという構図でもあります。

うさぎ山商店街の喫茶店のマスターが、「若さとは急ぐこと。スプーン一杯の砂糖が溶けるのも、待てないくらい。」と言いますが、たまこはある意味焦っていたんじゃないか。

お母さんみたいになりたい、と。

でも母の代役のままでは、お母さんにはなれないんですね。焦らず成長していかないと、一見面倒くさい過程を経ないと、いけない。変化しないといけない。

焦って変化の過程をすっ飛ばそうとするのと、変化を恐れて動かない、というのは、違うように見えて実はコインの裏表なのかもしれません。

変化は怖いけれど、どんな小さな変化でも一歩踏み出す、そんな普遍的な勇気を、この映画は感じさせてくれます。

ところで、どうしてたまこの成長、変化を描くのに恋愛が設定されたんだろう。

誰かと始めて付き合う、というのは高校生らしい変化でもある、というのと、あとは、たまこが進路で悩めないからじゃないか。

餅屋を継ぐと決めているたまこには、進路において決定的に変化するチャンスが与えられません。だからこそ、恋愛が設定されたのだと。

この映画におけるたまこの成長とは、(もち蔵の)想いを受け取ること。

それは、たまこの部活であるバトン、そしてもち蔵としている糸電話をキャッチすることという二つのものを通じて表現されています。

一方裏側(?)の成長は、たまこが母親の代わりであることをやめて、たまことして生きること、です。

お母さんが高校生だったときのメッセージを聞いて、たまこは変化へと踏み出していきますが、その直後の画面が真っ暗、暗転します。

たまこが新たなところへ行くということの演出でもある。

日常を守る映画が「たまこまーけっと」だとすれば、日常を壊す映画が「たまこラブストーリー」。

この二つはセットで見るときれいな対比になっています。


画面の余白

この映画は絵がきれいというか、構図がきれい。そして文字通り、画面の余白が多い映画です。

人物が真ん中に、真正面に全部写ることが少ない。右端や画面の下の方に人物が映ると、画面の余白が大きいですよね。

そして、この映画台詞が多いように見えて、肝心の部分はあんまり語られていない。

画面の余白も、台詞の余白も多い映画なんです。

でも、人物にフォーカスが当たっていて、つまり背景がぼやけていて、あと画面のはじの方も黒っぽい。

余白の多い映画は、まあ個人的な好みかもしれませんが、美しい。足だけ、手だけうつる描写も多い。それで人物の思いを伝えるっていう演出も好きです。

あと、もち蔵がたまこに「あの告白は忘れてくれ」というシーンは、二人は同じ画面に映ることがありません。二人が同じ場所、気持ちにいないという演出だと思います。

そういえば、山田尚子監督が影響を受けた監督の中に、小津安二郎が挙げられています。画面や台詞の余白から人物の関係性を描いているという点で、共通しているなあと感じました。

アニメはちょっと...と思わずに、騙されたと思って一度見てみてほしい作品です。

良い意味で実写っぽくて、私のアニメに対する苦手意識、みたいなものを一気に吹き飛ばしてくれた作品でもあります。

そういえば映画の細かい演出などの考察は、ここを読めばすべて載っている!くらいにまとまっているサイトがあります。私も楽しませてもらいました。

超記憶術ブログ@K-ON!! たまこラブストーリー

それでは、また。



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(画像:映画.comより)

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