思春期の揺らぎと危うさ。『打ち上げ花火、下から見るか横から見るか』

ここ1年ほどで、アニメをたくさん見るようになった(とはいえ趣味がアニメですとは恐れ多くて言えない)。それまでアニメといえばコナンとドラえもんくらいしか見なかったけれど(ちなみに今も両方見ている)、元々絵を見るのが好きなこともあり、実写ではできないアニメの表現の幅の広さに気づいてからというもの、一気にアニメがおもしろくなった。

去年はちょうどアニメ映画の当たり年だったのもあり、君の名は、聲の形、この世界の片隅になど、たいへん楽しめた。今年に入ってからもひとまずアニメ映画をやっていると、なるべくチェックするようにしている。ひるね姫、メアリと魔女の花、そしてこの間見に行ってきたのが打ち上げ花火、下から見るか横から見るかだ。

最初打ち上げ花火〜の広告を見たときは、「最近の作品タイトルってほんと長いな...」と思い、それゆえになんだか興味がわかなかった。でも、この映画が実は昔やっていたドラマのアニメ化だと知ったとき、俄然興味が湧いたのだ。

予告や主題歌のPVを見てもどんな話かさっぱりわからない。中学生の夏の1日の物語だということ、主人公の男の子が女の子と駆け落ちしようとすること、何度もタイムスリップして同じ時間を繰り返すこと。それくらいの情報と、びっくりするくらい評価が低いことだけはわかった。

評価が低い作品の中に、まれにびっくりするくらい自分にとっての「当たり」があるので、一か八かにかけて見に行った(評価が低いからかPVがよくわからなかったからか、アニメ仲間?の夫にも弟にも誘いを断られ一人で見に行った)。

見終わってすぐは、良いとも悪いとも判断できなかった。

理由は後述するけれど、もう一度見たいとは思わない。でも、いかんせん説明が全然ないのと、オープンエンドで終わるので、見終わったあと、そしてその数日後も、打ち上げ花火〜の世界にいざるをえないのだった。

とここまで書いて下書きに放り込み、しばらく経ってしまったので、再び映画について考える。

評価があれだけ低いのは、「何がどうなっているか、最後主人公の2人がどうなったのかわからない」からだろう。私としては、オープンエンドのもの、説明が足りないもの、つまり「?」に放り込まれるのはわりかし好きなので、そういう意味ではアタリの映画だった。(*以下、決定的なネタバレはありませんが、映画の内容に触れています)。

もう一度見たいと思わないのは、時間がまわりめぐるように、風車やらせん階段、そういった回転するあらゆるものが画面上でぐるぐると、ぬらぬらと回り続けるからだ。

中学1年生の一夏というとても爽やかな、それでいて不機嫌な季節を書いているはずなのに、ぐるぐる回り続けているそれらを見続けていると、なんとも不安で不気味な気持ちになってくる。むろん、映画のねらいはそこにあるような気もするから、「不安になるからもう一度見たくない」というのはある意味褒め言葉なのかもしれない。

主人公の2人が何度も、その夏の1日を繰り返しているうちに、世界は文字通り色褪せ、輪郭はぼやけ、だんだんと現実味を失っていく。彼らは電車に乗って駆け落ちしようとするのだけれど、その電車は最後、どこにもたどり着かなそうな海へと向かって行く。これだけでもだいぶ不気味で不安な気持ちになる。

ラスト、2人がどうなったのかわからない。前に進んだ、つまり駆け落ちを試みたという夏の1日を経て成長したようにも見えるし、そこで彼らの時間が止まったかのようにも思える。

見終わった当初は頭のなかが「?」だったのだけれど、時間が経ってふと、これって思春期そのものなんじゃないか、と思った。中学1年生、思春期の入り口、早い人は真っ只中。その危うい季節を、大概の少年少女は乗り越えて大人になっていくのだろうけれど(もちろんこの映画のように、失うものもある)、でも危ういからこそ、一歩足を踏む場所が違えば、彼らがどこか、この映画の2人みたいに違う世界、違う時空間、違う次元に行ってしまう、「元の世界」から消えてしまう、ということがありえるんじゃないか。

そしてその「成長」と「消失・消滅」が紙一重という「揺らぎ」こそが、思春期な気がする。

そういう思春期の「危うさ」、そして乗り越えた人にとっては二度と戻ってこないという思春期の「儚さ」を、この映画はアニメーションという幻想的な描写で表現しているんじゃないか。

オープンエンドの映画でもOKな人、説明的でない映画が好きな人には良い映画だと思います。(と低評価ゆえ人に薦めたかったのだけれど、まだやっているのだろうか...)

それでは、また。


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(画像:映画.comより)

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