見出し画像

新海誠「天気の子」感想&メモ

新海誠監督の新作「天気の子」が公開されたので見に行ってきた。半端ない上映回数である。それでも満席である。君の名は。ってほんと社会現象だったんだなあとつくづく思う。

見終わってていねいにレビュー書こうと思ったのだけど、そうこうしているうちに忘れちゃうそうなのでとりあえずのメモと感想。激しくネタバレしているためまだ見てない人はお気をつけを...!!

ではちょっとあいだ空けます。




***ネタバレ***

・一言でいうと「ショック」だった。単純に楽しめなかったからだ。終わってすぐヤフーレビューを見ると概ね肯定的だが、役立ち度レビューの上位には低評価がきているという状況だった。

・楽しめなかったのは単純に主人公に感情移入できず、物語が進めば進むほど置いてきぼりにされたから。途中半分くらいまでは変わらずの映像美や小気味好いテンポで楽しめたので、なおさら残念だった。

・今回一番賛否両論になるのは「ひなを助けたこと」により、「世界は狂ったまま」、つまり雨が降り続いて東京が水の下にゆっくりと沈んでいくことだと思う。けれど、私はむしろそこは大変おもしろいと思った。いくつかレビューブログを見てみると、天気の子は「セカイ系」に対する、または新海誠自身のこれまでの作品に対するひとつの答えなのだということだった。なるほど。

この「みんながハッピー」になる方を選ぶか、「自分(または個人、または私たち」がハッピーになる方を選ぶか、というのは、よくある問題提起だとは思う。倫理学?の授業とかでも、レールがふたつに分かれているところにひとりの人と複数人の人がいる、どっちを助けますかという問題もある。

君の名は。はみんなと自分(私たち)両方助けてハッピーだったけど、今回はそうではない、というのはとてもおもしろかった。そのひとつの解として、「世界はもともと狂っている」「ほんの200年ほど前まで東京のほとんどは水の中だった」というのはけっこう納得するところがあった。たった数十年、数百年のスパンで東京が変わってしまうのは、今の私たちからすると「狂ってて」「異常」ではあるけれど、それは私たちの近視眼的かつ一方的な見方であって。地球そして宇宙はそんなこと(=人間の都合には)関係なく、日々刻々と変わっていっていっているというメッセージは、自然をコントロールできるという現代の価値観に対する問題提起のようで示唆に富んでいた。

・ただ、それにしては上記を訴えるメッセージには弱いというか、説得力が欠けるのかなあという印象だった。その一番の理由は「要素の詰め込みすぎ」にあると思う。長編というのもあるけれど、登場人物の抱える(それも複数の)事情も多いし、拳銃の事件も出てくる。喘息、就活、テロ(?)、親や配偶者との死別、子どもの貧困、と社会問題がたくさん出過ぎてて、描き切れていない印象を受けた。それが逆に問題の捉え方を「薄っぺらく」感じてしまうことになったのが残念だった。

・主人公ふたりに感情移入できなかった(置いてけぼり)にされたのも、大きくはふたりの背景を描く尺がなかったからだったと思う。なぜほだかが家出をしたのか(「キャッチャーインザライ」や「息苦しい」というので示唆されてはいるけれど)、なぜひなたちは母親が亡くなったあとふたり暮らしをしているのか、そういうところがあまり描かれていなかったので、設定だけが先走ってキャラが動かされているか、ふたりの行動が非現実的に見えてしまった。「みんなの善(幸福)」よりも「自分とあなた、私たちの幸福」を優先させることへの説得力を持たせるには、もっと要素を削ってでも、このふたりにフォーカスしたところが見たかったなあという感想。

・とはいえ、主人公ふたり(ないし三人)の逃避行に、またほだかがひなを探しに行くのに共感できなかったというのは、私が年をとったというのもあるのかもしれない。3年前に君の名は。を見たときは学生だったし、そこから卒業して結婚して子どもを授かって...としているあいだに10代の主人公に前より共感できなくなっているのかも...と思うと悲しくなった。年を取ったことが悲しいというよりかは、そういう「周囲の大人や社会に反発していくやわらかな感受性」みたいなのがなくなっているのかもしれないことに。もしそうだとしたらとても悲しいし、もちろん現状を受け入れてそれでも生活していくというのはとても大事だと思うけれど、同時に「違うと思ったことは違う」と主張する、「違うと感じる」感受性は失ってはいけないなあと痛感した。忙しさにかまけつつ、「長いものに巻かれた」方が楽だからいいや、というのは逃げでしかないんだ、と。

・そう思うと、一緒に見に行った夫が「今回の選挙とか今の政治とか批判してるのかなあ」と最初に感想を漏らしたときはぴんと来なかったけど、その意味がなんとなくわかる気がした。政治ってちょっと違和感感じても、よくわからないしまあ自分が言った・選挙に行ったところで何も変わらないし、そもそもそんな暇ないし、という空気が蔓延しているから。それは50%を切った低い得票率にも現れているし、かろうじて私自身は選挙に毎回行っているものの、政治に詳しいとはとても言えないしまた選挙かあ〜面倒だなあ〜という気持ちだって他ならぬ自分が感じてしまっているのだから。

・ところで今回後半以降失速していったように感じるのは、あまりにも多いスポンサー映像も一因のような気がする。物語上必要じゃないところでたくさん挟まれるので、まるでCMを挟まれるような感じである...そう考えると大ヒットしすぎるというのも大変なんだなと悲しくなった。新海監督は言の葉の庭が一番好きで、君の名は。以前から好きだったのでそういう悲しみを感じたのである。

新海監督は、今回の天気の子もそうだけれど、なんてことない、いやむしろ汚いとすら言える都会のちょっとした風景をとても美しく描く。私はそこがすごくすごく好きで、勝手に監督のテーマは「生の圧倒的な肯定」だと思っている。天気の子のラストはこうしたテーマをより強く感じさせるものだと思ったので、できるならもっとそこを(つまり主人公ふたりを)中心に描いてほしかったなあと。とはいえ一回見ただけじゃ取りこぼしてるところもたくさんかもしれないので、再度見て私の拙い見方と今回感じたことが変わるといいなあとも思いつつ。

それでは、また。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

サポートありがとうございます。みなさまからの好き、サポート、コメントやシェアが書き続ける励みになっています。