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いつだって、遠くへ行きたい−−東京湾写真記

たまには違うことがしたい。やったことないことをしてみたい。

というのは、先日の休みに私が夫に言った台詞である。

数少ない二人の休み(夫が仕事人間)は、半分くらいは家事や買い出しや家計費の精算なんかに充てられる。そうでなければ、映画館に行ったり美術館に行ったり近くのイタリアンに行ったり、が定番だ。

私が提案したのはジャズバーだった。ちょっとおしゃれなところを提案したのが恥ずかしいけれど、生の音楽を久々に聞いてみたかったのだ。

夫が提案したのは釣り。釣りはここ数年ずっと提案されては却下されたものだ。釣竿持っていないし、遠いし、日にやけるし...ということで私が難色を示していただけなんだけれど。

でも今回は、新しいことしてみたい、ということでその提案にのってみる。もしかしたら、新しい発見があるかもしれないし、共通の趣味がない二人の共通の話題となるかもしれない...と一抹の期待(って言わないか)を感じながら。

車で30分ほどの東京湾へ向かう。幹線道路を抜けると橋が見え、海が目の前に広がった。東京も海に面しているのに、そして決して遠くないのに、普段見る機会が少ない。

建物と人が多いところに縮こまっているので、それだけで開放感につつまれる。高まる期待と予感。

...のはずが、行ったのが遅すぎて釣り道具が借りられない。出鼻をくじかれるとはこのことだ。

私はやれやれ...ともう諦めモード、というか写真撮るモードだったのだけれど、夫は諦めきれないのか、手作り釣竿をつくろうとしていた。釣り糸?と餌は自販機(!)で手に入ったからだ。

クーラーボックスについていたひもと、地面に落ちていた釣り糸をしばって、なんとか海面に届くてづくり釣竿をつくる夫。

私もここまできたらよっしゃ!と思い、これで釣れたらすごいな〜とわくわくしながらてづくり釣竿を握る。

数メートル離れたところでは、子連れのおとうさんが小さいながら魚を二匹同時に釣っていた。海面のもっと向こうの方では、普段食べるものより大きい魚(名前はわからない)が海面から飛び出して何匹か跳ねていた。

釣れたらどうやって調理するんだろ...なんて取り越し苦労をしながら待つ。そうそう、最近「待つ」ってことを全然しなくなったけれど、でも人生は待つことの連続だし、釣りの醍醐味は待つってことだよねなんて知った顔をしつつ。。

でも現実は甘くない。私はだんだん飽きはじめ、せっかくつくってくれた自分用の釣竿を夫に託して写真を取り始めた。この間キャノンのミラーレスカメラを買ったので、外出は絶好のシャッターチャンス(というか練習の機会)なのだ。

東京なのにまわりに建物がない...それだけで開放感。5時台はまだまだ明るく、空はマーブル模様。

夕日をこんなに長いあいだ見つめていたのは、いつぶりだろう。

羽田空港が近いからか、飛行機がひっきりなしに飛んで行く。飛行機に乗るのは好きじゃないけれど、それでもぱっと乗ってどこか遠くへ行きたいと、引っ越しし続けたいと、いつも思う。

こちらがわとあちらがわ。超えられそうで、でも越えようとしない、でも気づいたら超えている。境界線はいつもあいまい。

デジカメはハイテクだからか、私には思いついたこともないさまざまな撮影モードがある。トイカメラ風モードって何だ?と思いシャッターを切ってみたら、少しマットな感じになって、どことなくノスタルジーな風景になった。

そういえばドイツ語には「fernweh」(フェルンヴェー)という、「遠くへ行きたい願望」という単語があるけれど、そんな言葉をふっと思い出す写真。

夫が釣れない釣れないと言いながら場所を変えて粘っているあいだ、私は横でカメラをかまえながら、刻一刻と迫る日没を見つめていた(実際は海ダンゴムシ?がうじゃうじゃいて、全然ロマンチックなものじゃなかったけれど)。

空が暗くなっていくのと同時に、地上は少しずつ明るくなり始める。昔大好きだった『砂時計』というマンガのなかに「東京は地上に星が降るのね」という台詞があったけれど、それを思い出した。

結局魚は最後まで釣れないまま(隣の小学生の男の子は比較的大きい魚を釣っていたので、やっぱり手作り竿ではだめなのかもしれない)、ひもを失ってドリンクしか入っていないクーラーボックスを大事そうに抱えながら、帰路につく。

私は釣れないことよりも、日にやけることよりも、でかいダンゴムシに囲まれることがしんどかったのでもう釣りはしないだろうけれど、初めての体験は失敗に終わったけれど、初めてのことなんてそんなものだよなあ、おかげで日没を2時間近く見たしなあ、と思いながらの帰り道。

帰宅後、懲りずに入ったことのない、ちょっと気になっていた近くの昔ながらのトンカツ屋さんに入る。脂身が多くてけっして美味しいとは言えず、はずしまくった休日だったけれど、小さな初めてが詰まった1日になった。

ちょっと普段行かないところにお出かけすると、それだけでもっと遠くへ行きたいと思ってしまう。でもそう思えるのは、帰ってこれる場所があるからなんだけれど。

それでは、また。



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