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夏を惜しんで、養老渓谷

夏がまだ真っ盛りのころ、いや、正確にいうと、真夏がまさにこれから始まろうとしているころ、ふと思い立って、一人で電車に飛び乗って(文字通り飛び乗った)、千葉の養老渓谷に行ってきた。

あんまり休めていなくて、遠出もできていなくて、気持ちもなんだかくさくさしていたから、ふと緑がみたいな、と思ったのだ。

電車に揺られて都心に仕事をしにいく毎日だと、やっぱり緑を目にする機会が少なくて。飽きるほどの緑を目の中に入れたい...そんなことを思いながら、足をのばした。

養老渓谷は東京から電車で行けるのだけれど、途中からトロッコに乗る。

トロッコ?と特になにも考えず乗ったのだが、窓がない席に座ったからか、これがすごく心地いい(椅子は固かったけれど)。

トロッコ内の赤色が、風景とコントラストになって眩しい。

ひたすらトコトコ、ゆっくりと田園風景の中を、山あいの中を進んでいく。

進むたびに緑は深くなり、遠くへきたな、と実感する。

風に揺られているうちに、ふとなんだか『風立ちぬ』の主題歌、ユーミンのひこうき雲が聞きたくなって、ひたすらヘビロテしながら緑色をぼーっと見てるうちに、1時間くらいで着いた。

...はいいけれど、駅前に渓谷が広がっているわけではない。まわりを見渡しても、道路の向かいにぽつんと売店があるだけ。

とりあえず観光案内所と書いてあるところへ行き、「滝が見たいんですけど...」と言うと、今から行っても帰りのバスがないよ、と言われる。あれ、まだ3時とかだよ...?と思ったが、いやそうだ、バスは電車より早いし、山奥に向かうバスなら尚更早い。

「ちょっとなめてましたね〜」と係のおじさんが苦笑いだったので、「ははは...」と乾いた笑いを返し、気を取り直して一番近い、緑の遊歩道に行くことにした。

遊歩道?とこれまたぴんと来なかったけれど、奥の滝があるらへんに行かなくても十分なくらい、心地のいい、そして人の全然いない散歩道。

新しく買ったカメラを使いたかったので、歩いては撮り、歩いては撮りを繰り返す。

連休最終日だからか、暑いからか、時間帯が遅いからか、人がいなくて静かで、ただひたすら、川の流れる音と葉っぱが風に揺れる音を聞いていた。

誰かと一緒だったら、ゆっくりゆっくりしゃべりながら歩いたんだろうけれど、帰りの電車も心配だったし、そのへんは持ち前の心配性を発揮してしまい、ひたすらずんずん歩く。生い茂る緑に追い立てられるかのように、歩く。

日が暮れ始めるころ、遊歩道から戻ってくることができた。緑が心地よかったはずなのに、戻って来れてほっとする。

普段、管理されている緑に慣れているからなあ...と、とほほ...となる(ここも十分管理されているだろうけれど)。

駅までのバスも終わっていたので、車道の横をちょっとビクビクしながら歩く。


歩道なき道を歩くこと20分、駅が見えてきた。電車が来るまでまだ時間があるし、ほっとしたのかどっと疲れが足にくる。

心地よい疲労感に包まれながら、電車に揺られてコンクリートのなかに戻る時間。


ぼーっとしている暇もないくらいの猛烈な睡魔が襲ってきて、気がついたらJRの駅に着いていた。

東京に比べたら全然都会じゃないはずなのに、JRの駅っていうだけですごい都会に見えたから、たった数時間で、「ものの見え方」なんていとも簡単に変わってしまうんだなあとなんだか不思議な気分。そして単純な自分にとほほ...となる。

たった半日の遠出だったのに、こんなに気分ががらっと変わるなんて。東京にいると、視界が緑でいっぱいになるだけで新鮮な気持ちになれるので、けっこう遠出が楽しいな...と住んで数年経って気づいた。

暑さでバテていた2ヶ月だったので、9月に入り涼しくなってほっとしている。

それでもどこか、過ぎ去ろうとしている夏を惜しむ気持ちになるのは、なんでだろう。

それでは、また。


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