「英霊」という言葉の使われ方

最近大ヒットしている「ゲゲゲの謎」、その感想などで不穏な言葉がお気軽に行き交っていると聞いた。
その言葉はタイトルにもある「英霊」

以前からこの言葉がライトに使われすぎでは…とモヤモヤしてはいたのだが、非常に良いゲゲゲの戦争描写(絵的な意味だけではなく)を毀損してしまうと思ったのでここでまとめようと思った(纏まるかはわからんけど)。

Fateという人気アニメ(ゲーム)で同様の言葉が歴史上の英雄の亡霊として使われているため、若い層はそのイメージで使っているのかもしれない。
「英霊=戦争を肯定していると言われたがそうじゃないんだ!」
と思っているかも知れないがそれは違う。
本来の意味こそ真逆の
「英霊=戦争に兵士を送り出す装置」
なのだ。

今で見た映画や小説を思い起こしてみるに、どの時代から「英霊」という言葉が頻繁に登場するか。
日露戦争や第二次世界大戦のイメージがないだろうか。
「英霊」とは「お国のために死んでこそ日本男児、死後は靖国に英霊として祀られる」の「英霊」であり、世界大戦時に意図的に作られた、靖国とセットになった概念なのだ。
この「靖国システム」は兵士をじゃんじゃか無茶な戦場へ送り出して兵士を大量に死なせる役割を存分に果たした。
そして兵士は国の意思に従って国外で植民地主義国の兵隊としてアジア各地で人々を蹂躙し、虐殺し、略奪し、そして自らも無計画な戦略や無能な為政者の犠牲になり、戦闘ではなく飢餓や病気で大量に亡くなった。骨も戻らない。
よく映画の題材になる特攻も然り。
英霊・靖国システムは「挙国一致」「戦意高揚」「植民地支配」などなど、「ゲゲ謎」でも描かれた戦争の悲惨な有様を支える柱となった。
死を覚悟した兵士の合言葉は「靖国で会おう」だった。(実際どれくらいの兵士がそう信じていたかはわからないが)
国の「国体維持」のため、一般の人々が万歳して息子や夫や父親を死地に向かわせた…「呪いの言葉」に等しいと思う。

ここで「でも私はそんな意味で言ってないからセーフ」とか「単語や漢字の意味として分解したらそうとも言えないからセーフ」
とはならない。
言葉とはどういう文脈で使われてきたかで意味が変わる。
例えば第二次大戦で米軍が日本人のことを「ジャップ」と読んだが、これは日本人を人種的に蔑んだ差別用語である。
これを言われて「Japaneseを略しただけだからいいんじゃね」とはならないと思う。
靖国や英霊も同じで「どういう文脈(経緯)で使われていたか」が「言葉の本質」となる。
「英霊」の語源としてはたとえ昔から存在はしていたとしても、現在での意味合いは完全に近代戦中に用いられた「兵士よお国のために死んでこい」送り出しシステムそのものなのだ。
しかも「ゲゲ謎」は戦争のトラウマを抱えた主人公の話なので完全にモロそっち。
兵士の命を悼むなら使うべきではないし、アジアへの加害にもちゃんと目を向けるなら使うべきではない。

実際、一昔前(というか今も)に「英霊」という言葉が大好きだったのは「あの戦争は正しかった」という、今でいう極右やネトウヨのような連中だったし、今でも8月15日に兵隊コスプレして靖国神社に大集結するヤバい連中も己を「英霊」と重ね合わせている。
「英霊」とはそういう連中のキーワードなのだ。
そこには戦争を肯定・美化する意味合いが十二分に、むしろ全身たっぷりコッテリ含まれていることを考えてほしいと思う。

そういう「英霊」の持つ危険性を薄めてきた各種メディアやFateのような作品は本当に罪深いなと思う。
安易に乗らないでほしい。
敏感になってほしい。真摯になってほしい。
私も気をつけなければいけない。
人は100年経つと歴史の悲劇を忘れるというが、100年たたずしてほとんど忘れかけているように思う。
戦争は「みんなが嫌だと思っているから」で止められるわけじゃない
戦争経験者の言葉をもっと深刻に受け止め、戦争に向かっていったプロセス、加害に向き合う姿勢、国家の責任、一般の人々の持っていた差別意識といった「構成ピース」にもっと目を向けていく作業が必要だと思う。
それがゲゲの作中にも使われていた作品「総員玉砕せよ」などの体験記で水木先生が伝えたかったことじゃないかと思う。