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日本橋映画祭×地球のしごと大學シネマ 石川凡監督『世界でいちばん美しい村』 in サイボウズbar

こちらは、2018年11月3日に行った上映会のレポートです。

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11月に入って最初の土曜日の午前10時。

今日は「地球のしごと大學シネマ」の上映会。

日本橋交差点に建つ東京日本橋タワー27階に向かうと、カフェのような空間が現れた。この日の上映会場、サイボウズBarに老若男女を問わず約40名の人々が集まった。

地球のしごと大學シネマ                       現代社会が抱えている問題や、失いつつある価値観をテーマとした映像作品の上映会を実施しています。 映画の鑑賞だけでなく、監督や関係者をお呼びしてのゲストトーク、参加者同士での感想共有・意見交換、舞台となった場所へのフィールドワークなど、映画に因んだワークショップにより、同じ興味・関心を持つ仲間同士が出会い、社会問題への理解をより深められる場を創出していこうとしている活動です。なお、今回の上映会は、会場でもあるサイボウズ株式会社「映画部」の「日本橋映画祭」との共同開催。シネマ部員(地球のしごと大學の卒業生)は各自の興味に沿って、映画上映会の企画を行うことが可能です。上映作品・上映場所の選定から、配給会社との調整、プログラム作成、当日運営まで、皆で協力して会を作り上げていきます。イベント当日は、来客受付、司会進行、感想共有・質疑応答時のファシリテーション、ゲスト対応など、イベントの場作りについての経験を積むこともできます。


映画「世界でいちばん美しい村」とは?

※掲載された写真は著作権で保護されています。

この映画は、監督である石川梵さんの「マスメディアが行かない、本当の被災地の状況を伝え、持続的な支援の輪を広げたい」という思いから作られた。

ネパール大地震で壊滅したヒマラヤ山岳地帯の村ラプラックを取材し、様々な困難に直面しながらも復興を目指す村人たちを捉えたドキュメンタリー。
2015年4月25日、ネパールを襲ったM7.8の大地震によって300万人が被災し、9000人以上が命を落とした。

現地を取材するためヒマラヤ山岳地帯の震源地へ向かった日本人写真家・石川梵さんは、壊滅的被害を受けた村ラプラックで出会った少年アシュバドルとの友情をきっかけに、ドキュメンタリー映画の制作を決意。

貧しくも笑顔の絶えないアシュバドル一家と、村で唯一の看護師である女性ヤムクマリを中心に、雄大な自然の中で復興に向けて懸命に生きる村人たちの姿を映し出していく。


監督の石川梵さんについて

石川さんは元々は映画監督ではなく写真家。約30年、世界中で写真を撮り続けている。写真家としてテレビのドキュメンタリーの演出などを手掛けたことはあったが、映画を作ったのは今回が初めて。

石川さん曰く、「写真だけだと事件や災害が起きた直後の一過性の報道で終わってしまうことが多いんです。メディアも同じトピックを長期間に渡り報道することはないため、報道が持続しない。写真家として切り取ったシーンを何枚伝えても伝わらないと考え、映画にすることにしました。」とのこと。


そして、映画の上映が始まった。


上映後、海南鶏飯 小柴シェフにより今回特別に用意されたネパール風カレーを堪能しつつ、参加者はいくつかのグループに分かれ感想シェアを行った。


その後、地球のしごと大學 石井さん司会のもと、監督の石川さんと参加者とのトークセッションが行われた。



以下は事後の感想コメントも踏まえた、本上映会の参加者と監督との邂逅の一部である。


「美しい」とは?
参加者から多く寄せられた象徴的なコメントは「美しかった」というもの。
「映し出される風景、家族、村の姿はとても自然で美しかった。今の自分たちの生活とはあまりにかけ離れていて驚いた。」とのこと。


石川さんはこう語った。「遠いヒマラヤの彼方にあるのが美しい村というだけではなく、我々日本人の中にある『村』を美しいと感じる、そこに住む人たちを懐かしいと感じるのではないでしょうか?」

そもそも被災地を取材したドキュメンタリーなのに、なぜ映画のタイトルが「美しい村」なのか?石川さんはこれまで難民キャンプを色々見てきたが、ラプラック村に入って生活する中であるときふと、「この難民キャンプは世界でいちばん美しい。」と呟いたという。この呟きが、そのまま映画のタイトルとなったそうだ。


他人事ではなく、体感し、自分事にする
参加者は2時間弱の映画を通して、東京日本橋の近代的で何不自由ない世界から、ネパールの首都カトマンズから丸2日掛かって辿り着くという秘境のラプラック村に、瞬間移動し、それぞれの眼で村を追体験していた。

参加者からは、「はじめは災害復興に際して私たちができることは何か、という目線での考えが先に立って映画を見てしまっていたが、作品が進み、そして実際にその現場で時間を共にした監督のお話を聞いていると、その暮らし自体が尊いものと思えると同時に、支援や理解以前にある生き方への畏敬が込み上げてきた。本当の豊かさ、幸せについて、あの地域の方々がどう思っているのか、もっと知りたいと願うことができた。」というコメントが寄せられた。


石川さんが取材をする際いつも心掛けていること。それは一人一人の顔が見える取材。「例えば遠く離れた国の人が困っているという報道を聞いても、『大変だよね』で済ませちゃう人が大勢だと思うんです。

でも、もし自分の隣にいた人が突然倒れたら、助けようとしますよね?それはなぜか?距離の問題だと思うんですよ。だから私は、大勢のマスの人間を切り取って情報として流すのではなく、一人一人の顔が見える取材をし、その状況を見る側にダイレクトに訴えかけるのです。」

今回の映画でいうと、単なる情報としてのネパール地震の記事ではなく、震源地のラプラック村に住む、アシュバドル、プナムという子どもの視点で状況を伝えるという形を採ったことにより、被災者とメディアにアクセスする人との距離感が圧倒的に近くなった。

一人一人の顔が見える取材を実現するため、1年という製作期間の間に計6回、1回の滞在で約3週間密着して現地に滞在した。滞在して一緒に生活を共にすることで、キャストの何気ない日常から映画の中での数々のシーンが生まれた。

コミュニティの存在意義、日本の原風景                参加者から寄せられた感想の中には、「コミュニティの絆」、「信仰心」、「祭り」、「踊り」というキーワードも多く見られた。「自然とともに生きる人は、自然を制しようとせず、ただその懐に抱かれながら、恩恵も厳しさも甘んじて受け入れようとする。

映画の中に悲惨さはあまり感じられず、家族のつながり、信仰心、そして音楽とダンスが描かれている。過酷な環境に生きる人々のしなやかな強さが伝わってきた。『幸せの鍵はローカリゼーションにある!』という想いをより一層強くした。」という人もいた。

ラプラック村の人たちは祭礼や葬儀をとても大切にしている。一人一人に信仰心があっても、それを結びつける場がなくてはまとまらない

地域全体で祭礼、葬儀を執り行うことにより、コミュニティは強まり、継承される。ラプラック村全員が一つの家族のようだ。

地震の前も後も、ラプラック村の人々は、小さい子供から老人までみんなが踊る。祭礼などの儀式のときはもちろん、水牛の放牧でしばらく家を空けていたお父さんが帰ってきた日の夜などは、家の中でみんなで歌って踊る。
地震によって信仰心が失われかけても、コミュニティの力で一人一人の信仰心が蘇る。翻って日本も昔はそうだったのではないか?


自然を受け入れ、自然の惠を頂いて暮らす               地震によって村が壊滅的な打撃を受け、当初は「神に裏切られた!」と思った村人もいただろう。でも村の老人は映画の中でこう語っていた。

「地震が起きたらどこにいても助かる人は助かるし、助からない人は助からない。どこにいても一緒。神様がいる先祖代々住み慣れたこの地を離れることはあり得ない。」

最愛の娘を地震で無くし、一度は村を離れた夫婦もしばらくして戻ってきた。「娘がいたここが唯一我々の居場所だったんです。」と。

参加者からも、「たとえ打ちのめされても神としての自然を受け入れ、自然のめぐみをもらって暮らしていこうとする謙虚さ。土に触れ、大気に身をさらし、走り回って手をつないでいる子供たちの目の輝き。人と人とのつながりの濃密さ。これを見て感動するのは、実は本当はそのような生活を求める血が流れている証拠なんだなと思った。」というコメントが飛び出した。

豊かさとは?幸せとは?
ある参加者は「ラプラックで暮らす人々は、血の繋がった家族、共同体のように暮らしを共に営む村民、壮大なヒマラヤの自然、住まう土地に宿る神々と、様々なつながりの中で生きている。それは日本の都市部で暮らす私や私たちが、お金では買うことのできないもの。はたして豊かな暮らしはどちらにあるのだろうか。豊かさとは何かを考えさせられた。」とコメントした。

最後になるが、私もこの映画を観て、改めて三つのことを考えさせられた。

美しいとは何か?
歴史ある街並みをスクラップ・アンド・ビルドして、どこの国にでもあるような街を作り出すことか?

豊かさとは何か? 
経済成長すればいいのか?計画したことを強引に推し進め、手段を目的化することか?

幸せとは何か?
お金や物に不自由しないことか?将来の不安がないことか?

自問自答しつつ、もう一度、この映画を観ようと思う。

文:坂本正樹(地球のしごと大學教養学部五期生)


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