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子ども時代に出合う本 #11 3歳、何もかもがワンダー

子どもらしい発見の日々

前回、2歳は赤ちゃんから幼児へ移行していく時期で、日に日に赤ちゃんの部分が減っていき、ことばへの理解も増え、語彙が爆発的に増えていく時期だと書きました。

自我が芽生え、親とは別の人格であるという自覚が生まれ、おとなのいうとおりに動かなくなる、ある意味とても扱いづらい時期を乗り越え、落ち着いてくるのが3歳児なのかなって思います。

自分を発見した2歳児はとても自己中心的な時期なのですが、3歳児になるにつれて他の人の気持ちを理解できるようになっていきます。もちろん個人差があって、一様ではないのですが。

親として、言って聞かせてわかるようになってホッとしているのもつかの間、今度は質問魔になって次々難問をふっかけられる時期でもあります。

「どうして?」「なぜ?」「なんで?」

虫を見ても、空を流れる雲を見ても、花が咲いているのを見ても、道端にアリの行列を見ても、なにもかもが知りたいことで満ち溢れているのです。そして貪欲に「なぜ?」「どうして?」と知りたがる。

子どもにとって毎日の生活の中で、なにもかもが新しい発見で、この世界は知りたいことで満ちているのです。

おとなにとっては、普段あたりまえに感じていることを質問してくるので、ドキッとしてしまうし、その年代の子どもたちにわかるように説明するのが面倒に感じてしまいますが、ぜひその質問に応えてあげてほしいと思います。


「ほんとだね。どうなってるのかな?」
「〇〇ちゃん、これ、知りたいんだね」
「どうなってるか、ママもいっしょにみてみたいな」

正解を言わなくてもいいのです。「知りたい」と思っている想いを受け止めてあげることがすごく大事なのです。

その上で、今ならスマホで調べてみる?ことは簡単ですが、スマホで検索できてもおとな向けの解説なので、子どもたちにかみ砕いて伝えるのは難しい・・・

そんな時こそ、ぜひ図書館へ行ってみてほしいなと思います。

図書館にはそれぞれの年齢に応じてさまざまなグレードの本が用意されています。もう少し大きい子だったら図鑑などを一緒に開いてみるのもいいでしょうが、3歳児くらいのお子さんにおすすめなのは「ちいさなかがくのとも」という月刊誌です。


子どもたちが巣立った後も、毎月「ちいさなかがくのとも」を取っています。
小さな子どもたちの疑問に応えるヒントがたくさん詰まっているのです。

#04 センス・オブ・ワンダー で紹介した、福音館書店月刊誌「かがくのとも」の小さい子向けのシリーズです。小さな子どもたちが日々の生活の中で抱く、身近な疑問「なぜ?」「どうして?」に応えてくれながら、図鑑として単に知識を伝えるのではなく、ストーリーになっているのでその年代の子どもなりに理解できるのです。


ちいさなかがくのとも


実は、私はこの4月から幼稚園の年少組の補助教員をしています。これまでのフルタイムの会社員生活と違って、子どもたちの保育時間の間だけ、担任の先生方の保育の中で、援助の必要な子どもたちに寄り添う、そんな仕事です。


ちょうど入園式から2週間たって、少しずつ園生活になれて、園庭でも遊べるようになった子どもたちを魅了しているのが、だんごむしです。


子どもたちが日々の生活で気になる昆虫を題材にした絵本
だんごむしやてんとうむし、セミなど、必ず一度は興味を持ちます

「ちいさなかがくのとも」には、『だんごむしのおうち』(澤口たまみ/文 たしろちさと/絵 2012  ハードカバー2013)という作品があります。

まさに、今、幼稚園の年少組さんが園庭でだんごむしと触れ合っている姿が、この絵本には描かれています。


虫が苦手なお母さんにとっては、我が子が平気で虫を触っているのをみると、「やめて!」と制止したくなるかもしれません。

でも、小さな子どもはおとなが日常生活の中で目もくれないような、小さな命に心を惹かれています。それは自分もまた小さな命であり、懸命に生きている姿に自分を投影しているのかもしれません。

昆虫の中には刺すなど危険があるものもいますが、虫たちは同じ地球に生息し見えないところで自然環境の循環に大きな役割を果たしてくれています。

岩手大学農学部大学院で応用昆虫学を学んだ『だんごむしのおうち』の作者、澤口たまみさんは、今年3月に仙台市若林図書館で行われた講座の中で「幼い子どもは小さな虫たちとことばを介さないコミュニケーションをしている。自分も幼い時に小さな虫たちから、生きるとは奇跡だというメッセージを受け取ってきた。小さな虫を大切にするということは、人に対してもそのかけがえの命を大切にする姿勢を育てる。」ということを伝えてくださいました。


幼稚園の子どもたちは、降園時にだんごむしの入ったカップをお母さんへのお土産に持ち帰ります。どうか、気持ち悪いって言わずに、一緒に懸命に生きているだんごむしを観察して、その上で「だんごむしさん、このままカップの中にいたら死んじゃうよ。〇〇ちゃんにもおうちがあって、ご飯を食べたり、ぐっすり眠るベッドがあるように、だんごむしさんにも帰るところがあるから、元気でね~とバイバイしようね」って、公園の草むらに放してあげてほしいのです。

「ちいさなかがくのとも」は月刊誌。
子どもの本の専門店では、気になる号だけ購入することも出来ます。
1冊440円というリーズナブルな値段もおすすめのポイント!

そのほかにも、3歳くらいの子どもたちが「なぜ?」「どうして?」と抱く疑問に応えてくれる絵本がたくさんあるので、ぜひ図書館で探してみてくださいね。

幼稚園では毎月購入できるシステムのところもあると思います。


ハードカバーになったものは「ふしぎなたね」シリーズとして出版されています。


想像力の発達と物語


3歳児の特徴は、物語の世界に入り込んで、その世界を自分のことのように楽しめるということもあります。

1~2歳のころは、長いお話にはすぐに飽きていた子どもたちも、読むと7~8分かかるような絵本も最後まで集中を切らすことなく聞けるようになります。

子どもたちは、これまでさまざまな体験を重ねているので、それを礎にお話の世界を想像できるのです。

たとえば「あるところに小さな川がありました」ということばを聞いて、いつも散歩に行くときに通る近くの川を思い出すかもしれないし、家族でキャンプに行ったときに見た小さなせせらぎを想像しているかもしれません。

実際に体験したことが多ければ多いほど、ことばによる想像の世界も豊かに広がっていきます。


『おにぎり』『やさい』『くだもの』はまるで本物のように描かれています
『はっぱのおうち』や『きょうのおべんとうなだろな』は
子どもたちの生活に密着したテーマで、自分もすんなり入り込めます。

3歳前後になると絵本の中に描かれているものが、実感をもってあたかもそこにあるかのように感じられるようになります。

たとえば上の写真の中にある『くだもの』(平山和子/作 福音館書店  1981)は、もともとは福音館書店月刊誌「年少版こどものとも」1979年7月号だったものです。

子どもたちが大好きなくだものが次々に出てきます。

すいか
さあ どうぞ。

もも
さあ どうぞ。

ぶどう
さあ どうぞ。

「さあ どうぞ。」というところを読むと、子どもたちはまるでそのくだものを手渡してもらったかのように、口をもぐもぐ動かして、食べる真似をするのです。

想像の世界、虚構の世界を楽しめるようになっているのです。


そこから始まって、どんどん物語の世界へ入っていきます。


文庫に来る子どもたちに人気の絵本たち
『ぐりとぐら』は私が3歳の時に出版された絵本
我が子、そして孫へと三世代で読み継げる名作です。

私自身が、子ども時代にリアルタイムで読んでもらっていた絵本に『ぐりとぐら』(中川李枝子/文 大村百合子/絵 福音館書店 1963)があります。

この絵本を読んでもらうと、子どもたちも、のねずみのぐりとぐらのおでかけについていって、自分もほかのどうぶつたちと一緒に、ぐりとぐらが焼いてくれたカステラをわけてもらっている、そんな気持ちになれるのも、想像力の発達のおかげです。


そして、『ぐりとぐら』のよいところは、最後がHappy endだということ。本来の動物の世界なら弱肉強食、捕食者になってしまい共存できないのですが、想像の世界ではいろいろなどうぶつたちが一緒に仲良くカステラを分け合っているというところ。
もう少し年長になると、「ほんとうはこんなことないよね」と気づいてしまうのですが、3歳児にとってはとても自然なこととして、それを受け入れることができるのです。


前回も紹介した元東京成徳大学子ども学部教授・今井和子氏は『子どもとことばの世界―実践から捉えた乳幼児のことばと自我の育ち』(ミネルヴァ書房 1996)の中で、そうした3歳児の心性をこのように書いていらっしゃいます。


 日常世界(現実)と非日常世界(虚構の世界)を分ける壁が柔軟で、はっきりとした境界がないためか、この時期の子どもたちは、非日常の世界を素直に信じてしまいます。そうした心の特性が対象に同化し、そこから周囲がどうみえるかを感じとってしまう詩人と共通しているように思えてなりません。(p93)

同時に、それくらいの時から「うそ」をつくようになります。おとなからすると「うそ」は全部だめというイメージで、「うそは絶対だめ」と拒否しがちです。しかし、それは実際に見たり、聞いたり、手で触れる現実以外に、想像力で創り出した世界を現実のことのように感じられるということであり、それはいやなことがあってもそれを振り切っていける「生きる力」へと繋がっていくのです。


今井和子氏は、先ほど挙げた本の中で

 みえすいたうそをつくようになってしまって・・・と心配になるかもしれませんが、子どもにとってこのようなうそは、自分の生活をより楽しみたいとする自由な心の働きから生じた話として喜んで聞いてあげることが、彼らの想像力をより豊かに広げていく支えになるのだと思います。(p98)

と、述べています。

また、今年1月25日に亡くなった東京子ども図書館名誉理事長の松岡享子さんは、その著『サンタクロースの部屋ー子どもと本をめぐってー』(こぐま社 1978 改訂新版 2015)の中で、こんな風に書いています。


「子どもたちは、遅かれ早かれ、サンタクロースが本当はだれかを知る。知ってしまえば、そのこと自体は他愛のないこととして片づけられてしまうだろう。しかし、幼い日に、心からサンタクロースの存在を信じることは、その人の中に、信じるという能力を養う。わたしたちは、サンタクロースその人の重要さのためでなく、サンタクロースが子どもの心に働きかけて生みだすこの能力のゆえに、サンタクロースをもっと大事にしなければならない」というのが、その大要であった。
 この能力には、たしかキャパシティーということばが使われていた。キャパシティーとは、劇場の座席数を示すときなどに使われることばで、収容能力を意味する。心の中に、ひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、サンタクロースを収容する空間をつくりあげている。サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出ていってしまうだろう。だが、サンタクロースが占めていた心の空間は、その子の中に残る。この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎え入れることができる。
                *
 この空間、この収容能力、つまり目に見えないものを信じるという心の働きが、人間の精神生活のあらゆる面で、どんなに重要かはいうまでもない。
(p9~10)


想像力を養うためにも、3歳になったら、実体験とともにさまざまな物語に出合わせてあげてほしいと思います。

前置きが長くなってしまったので、次回、もう一度3歳児の時に出合ってほしい本について、我が子達の体験を含めて書きたいと思っています。

(続く)

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