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ウクライナ情勢について子どもと話すこと:教員向けアドバイス

ウクライナ情勢について子どもと話すことと、子どものエンパワーメント〉では主として親を対象とするアドバイスを紹介しましたが、次の記事では、それぞれユースワークと国際開発、社会心理学、カウンセリングを専門とする3人の研究者(オーストラリアン・カソリック大学)から、教員向けの助言が提示されています。オーストラリアの学校を念頭に置いたものなので日本の状況にあわせて柔軟に対応する必要はありますが、教員のみならず、子どもたちのまわりにいる親その他の大人にとっても考える材料になると思いますので、概要を紹介します。

★ The Conversation: Teachers can offer a safe space for students to talk about the war in Ukraine and help them take action
https://theconversation.com/teachers-can-offer-a-safe-space-for-students-to-talk-about-the-war-in-ukraine-and-help-them-take-action-178406

 この論考は、
〈教員は、思慮深く誠実な議論と発達的に適切な活動を通じて、子ども・若者が希望を感じられるように鼓舞し、主体性の感覚(a sense of agency)を促進することができる〉
 としたうえで、次のような助言を提示しています(要旨;太字は平野によるもの)。

一般的アドバイス

- ロシアによるウクライナ侵略のような出来事が生徒たちに及ぼす情緒的影響をよくよく意識する。関係地域に家族がいる可能性のある生徒、今回の危機が自分たちにどのように影響するかと心配しているかもしれない生徒に細心の注意を払うべきである。また、戦禍を生き抜いた生徒、他の紛争地域に家族がいる生徒もいる可能性があり、こうした子ども・若者にとっては戦争・暴力の映像や会話がトラウマを呼び起こすかもしれないことなども意識しておく。

- 生徒たちから質問や相談があったら、まず生徒の心配事を認知して大事にする。戦争は怖いものであり、怖いと感じてよいのだということを伝える。何を見聞きしたのか尋ね、誤った情報があれば対応する

- 世界の他の地域に目を向けることがなぜ大切なのか、説明する。グローバルな問題に関する議論を教育活動に含めることは、共感を高めるとともに、生徒が、自分たちのまわりにいる、異なる背景や経験を有している可能性がある人々についての理解を深めることに役立つことが、調査研究によりわかっている。

- 耳を傾ける。難しい会話を避けようとしない。生徒から出されるかもしれない質問に答える用意をしておき、理解に役立つ文脈を提示するような事実をもって回答する。

- クラスの状況を意識し、危険な状況にある子どもをモニタリングする。トラウマや喪失の背景を有している若者は、苦悩を経験するおそれがより高い。

小学生の場合のアドバイス

- 小学生の場合、絵本や物語を活用して関連の概念の理解を助け、他者の取扱いについて考えるよう促すことができる。たとえば『ポーリー・パストラミ、世界平和をもたらす』("Paulie Pastrami Achieves World Peace" Jaimes Proimos)のような絵本(8歳の誕生日までに世界平和を達成することを計画し、他人に優しくしようとする男の子の物語)は、利他主義について、また子どもであっても優しさを通じて世界をよりよいものにできることについて、子どもが理解する役に立ちうる。

- 動画や漫画を活用して、どのようにすれば変化をもたらし、自分たち自身のコミュニティをよりよいものにしていけるか、子どもたちが理解するのを手助けする。主体性(agency)は幼いころから教えることのできるスキルであり、とくに不確実な時期にあっては無力感を軽減するうえで役割を果たしうる。

- 気持ちを表現するためのアートワークの手助けをする。厳しい状況にあるウクライナの子どもたちでさえ、たとえば次のような表現を行なっている。

- 希望を持てるようにする。地図を使って距離を示し、子どもたちが自分たちは安全だと理解するのを手助けする。戦争が起きているのはとても遠い場所であり、ここ(この場合はオーストラリア)は安全なのだということを思い起こせるようにするとともに、ウクライナの子どもたちに共感を寄せるよう奨励することは可能である。

- 生徒の質問に答える用意をしておく。答えがわからなければ、わからないと言う。

- 子どもたちは、「先生はこわい?」などと教員自身の気持ちをきいてくるかもしれない。扱いにくいトピックに関する開かれた透明な対話を奨励する機会なので、正直に答える

中高校生の場合のアドバイス

- この出来事を人間的なものにするために普通の人々が実行・経験していることについての話をシェアする。ポジティブな口調で話を進め、ウクライナで耐え忍んでいる人々や、ロシアで政府の行動に抗議している人々の話を紹介する。The Kyiv IndependentThe New Voice of Ukraine のようなウクライナの独立系メディアを紹介するのも有用である。Radio Liberty in Russia もニュースソースとして役に立つ。

- 生徒たちが批判的思考力を発展させ、より広い歴史的・政治的文脈に紛争を位置づけられるよう援助する。Netflixのドキュメンタリー『ウィンター・オン・ファイヤー――ウクライナ 自由への闘い』が議論のとっかりとして有用かもしれない。

- 生徒たちに、ウクライナの人々に直接届くような募金のプロジェクトを始めるよう奨励してもよい(この記事ではウクライナ赤十字社やNova Ukraineが例示されている)。

- グローバル市民として、国内外で変革のプロセスを開始するために何ができるかを考えるよう奨励してもよい。平和やコミュニティづくりに焦点を当てている地元グループにボランティアとして参加する方法についての情報を提供する。Global Citizen のようなオンラインプラットフォームに生徒たちをつなげることも、ウクライナへの連帯感を育む役に立つだろう。

- 連帯を表明するその他の方法として、学校でビジル(日没後に行なう集会)や意識啓発活動を実施することも考えられる。地元選出の議員に手紙を書く方法を教えてもよい。

【追記】(3月14日)
 教育新聞〈【北欧の教育最前線】 ウクライナ危機に教師ができること〉(3月12日配信)で本所恵・金沢大学人間社会研究域准教授が報告しているところによると、ロシア軍によるウクライナ侵攻の翌日、スウェーデンの学校教育庁ウェブサイトのトップページに「戦争や危機に関する子供や若者との対話」についての記事が掲載されたとのことです。

 そこでは、〈紛争を「教室でどう取り上げるか」や「子供たちにどう話すか」といった記事ではなく、「子供との会話」の留意点〉として、次のようなことが強調されていたといいます。

● 子供の年齢に合わせて情報を調整する
● メディアからの情報に対する子供たちの気持ちや考えを聞き取る
● 子供たちの懸念を真剣に受け止める
● 教師の感情を吐露するのではなく、落ち着いて話す
● 学校の日常生活を維持し、安全と平和を築く

 これに加えて、情報を批判的に吟味することの必要性も強調されていたそうです。この投稿の本文で取り上げている内容とおおむね共通していると思います。

 スウェーデン学校教育庁(Swedish National Agency for Education)の該当記事はこちらです。


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