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ゆるキャン△による山梨県の経済効果は60億円以上!? ~アニメツーリズムは地域振興の起爆剤~

注目を集めるアニメ聖地の経済効果

 近年、アニメ聖地の経済効果が注目を集めている。アニメは基本的に屋内で楽しむエンターテインメントと考えられるが、「聖地巡礼」として、アニメの舞台となった地域を実際に訪れるファンが多いためだ。

 アニメ作品の中には、ゆるキャン△(山梨県・静岡県)、ラブライブ!サンシャイン!!(静岡県)、らき☆すた(埼玉県)といった、特定の地域を舞台としたものもある。アニメを起点とした観光誘致はアニメツーリズムと呼ばれ、地方へ若年観光客を招く絶好の機会といえる。人口減少に伴う若年層の流出により疲弊する地方経済にはプラスの効果が大きいといえよう。こうした期待を背景に、大学・地方自治体・政府系機関などでアニメによる経済効果を試算する試みが数々なされている。

 経済効果は通常、直接効果と波及効果(一次・二次)に分けることが多い。直接効果は増加した需要で誘発された生産額、一次波及効果は直接効果によって誘発された原材料などの生産波及効果、二次波及効果はこれらによって増加した雇用者所得による生産波及効果を計上したものだ。

 日本政策投資銀行「コンテンツと地域活性化~日本アニメ100年、聖地巡礼を中心に~」(以下、日本政策投資銀行(2017)と表記)では、先述の「らき☆すた」の経済効果について、31.3億円と試算しており、直接効果を20.4億円、波及効果を11億円と見積もっている。
 アニメツーリズムは、アフターコロナの世界でインバウンド(海外からの旅行客)需要増加も見込めると考えられる。日本政策投資銀行(2017)では2016年の訪日外国人旅行者によるアニメ関連グッズ購入額を約356億円、「聖地巡礼」を行った訪日外国人客を約115万人と試算している。グッズ購入だけで数百億円規模となっており、波及効果を合わせた経済効果はより大きくなるといえるだろう。

ゆるキャン△による山梨県の経済効果は60億円

 こうした分析を踏まえ、本稿では「ゆるキャン△」による経済効果が山梨県内においてどの程度発現したか考察する。山梨県では、年次で「山梨県観光入込客統計調査」として観光客数などの統計情報を公開している。2018年の調査では、県内各地の観光地点において旅行客に観光動機などの背景を聞き取るアンケート調査を実施しており、山梨県のテレビ・映画等のロケ地についての認知度を問う項目も存在する(回答数2135件)。アニメロケ地についてはゆるキャン△の「作品を知っている」と回答した割合が11.3%、「県内ロケ地へ実際に行った」と回答した割合が1.3%となっている。このアンケートの回答が山梨県の観光客の全体像を一定程度代表していると仮定し、ゆるキャン△のファンがどの程度県内で消費を行ったか検討する。

 2018年の観光消費額は「山梨県観光入込客統計調査」では平均で10,616円、県内の観光入込客数は3,769万人と推定されている。この客数のうち、1.3%程度がゆるキャン△の聖地に訪れる行動を伴うファンだと仮定すれば、2018年に山梨県を旅行したゆるキャン△ファンは49万人程度、ファンの観光消費額は52億円に上ると試算できる。
 ゆるキャン△による観光消費の増加額を参考に、山梨県の産業連関表簡易ツールを用いて経済効果を簡易的に試算すると、合計で60.5億円と見込まれる。内訳では、直接効果が42.1億円、1次波及効果は11億円、2次波及効果は7.4億円だ。山梨県「平成30年度県民経済計算年報」によれば、2018年の山梨県の県内総生産は3.6兆円と推計されており、県内総生産対比で0.17%に相当する。


 ゆるキャン△の舞台は山梨県南西部の身延町周辺である。「山梨県観光入込客統計調査」から身延町の2018年の観光消費額を試算すると127億円程度だ。一定のゆるキャン△ファンが身延町を中心とした観光を行うと考えれば、ゆるキャン△の経済効果(計60.5億円)の規模感がわかる。
 上述の試算ではゆるキャン△の聖地に訪れた観光客の県内での消費額をすべてゆるキャン△による経済効果と見積もっている。一方で、聖地に訪れた観光客がすべてゆるキャン△聖地巡礼を目的として山梨県に訪れたとは限らない点にも注意が必要だ。よって、経済効果の試算値についてはある程度幅を持ってみる必要があるだろう。

おわりに


 以上、ゆるキャン△がもたらす山梨県内への経済効果を試算した。仮定を複数置いた試算ではあるが、アニメツーリズムの経済効果の規模を示すことは出来たかもしれない。単年かつ1つの作品で数十億円規模の経済効果が望めるという観点からは、地域振興の起爆剤として考えることもできよう。


 余談になるが、筆者もアニメゆるキャン△視聴をきっかけに身延町を訪れた経験がある。身延山久遠寺近辺のショップ等ではゆるキャン△のコラボグッズの販売、コラボパンフレットの配布がなされ、身延町周辺の地域を中心にコラボイベントの開催など、作品と地域のコラボレーションが多数みられた。

 はじめは聖地巡礼として訪れたアニメファンが地域の魅力を知り、アニメ作品のみならず、聖地自体のファンになる可能性も秘めているといえよう。一時的な観光客ではなく、地域のファンを獲得できれば、地域振興には大きな効果があると考えられる。

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