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「保育園に入れた子どもは、いい子に育つ?」篠田真貴子さんと、小島慶子さんに聞いてみました

「9ヶ月の息子を保育園に入れて、働いています。周りからは『そんなに小さいのに、保育園に入れるなんてかわいそう』という声もありました。私自身も、保育園に息子を入れて、いい子に育つのか心配で…」

私は勇気をふりしぼって、質問した。視界には篠田真貴子さんと、小島慶子さんが、まっすぐ私を見て、うなずきながら、真剣に聞いてくれるのが目に入ってきた。


その夜、私はちょっぴりわくわくしながら、新橋のあるところに向かって歩いていた。自分ひとりで夜の都会を歩くなんて、いつぶりだろう?(ここには、かさばる保育園バッグも、重いベビーカーも、ない!)

向かった先は、ミシェル・オバマさん著書「マイ・ストーリー」の日本発売記念イベント。このイベントは、どうしても行きたくて、家族に頼みこんで出かけさせてもらった。だって、登壇者の方がとても魅力的だったのだ!

左から、翻訳家の山本知子さん、「ほぼ日」で取締役CFOをされていた篠田真貴子さん、エッセイスト・タレントの小島慶子さん、雑誌「éclat」編集長の長内育子さん

みんな、働くことを前向きに楽しんでいるカッコいい女性に見えた。それはまさに、私の目指す姿だった。こんな素敵な方々の対談を聞ける機会は、今後もう訪れないと思った。

トークセッションでは「マイ・ストーリー」の内容にちなみ、女性のキャリアや生き方だけでなく、容姿、ファッションなどなど、時にユーモアも交えておもしろい話を聞かせてくださった。

またミシェル・オバマさんが、ワンオペ育児をしたり、オバマ元大統領のダメ夫ぶりに不満が溜まっていた点、キャリアに悩む姿など、私たちとも共感点が多くあることから、「オバ美」と女友達のように親しみをこめた愛称があることもこの時に知った。長内育子さんが「迷ったら心の中のオバ美に聞け!」と言った時は、思わず笑ってしまった。

トークセッションは1時間半。もちろん、あっという間にすぎた。そして「何か質問がある方はいらっしゃいますか?」と、登壇者の方々への質問コーナーの時間になった。

私にはどうしても聞いてみたいことがあった。でも会場には80人の聴衆と、記者の方も大勢いて、ちょっと緊張する。

まごまごしていたら、うしろのほうで誰かが手を挙げたようだった。ホッ。なぜか安心している私もそこにはいた。

最初の方の質問が終わり、司会の方が「ほかに質問のある方はいらっしゃいますか?」とよびかけた。みんな他の人の動向を気にしているのだろうか、誰も手を挙げない。どうしよう、どうしよう。早くしないと誰かにまた質問されてしまう。この時間が終わってしまう。せっかく子どもを預けて来たのに、これでいいの?

誰からも手が挙がる様子がなく、司会の方が「それではこれで…」と言いかけたその時。

私の左手が、よろよろと宙に挙がった。
会場全員の注目と、マイクがこちらにやってきた。
トトトッ。心臓の鼓動が速くなる。

がんばれ、私!

「…えっと、今日はおもしろいお話をありがとうございました!
私は、9ヶ月の息子を保育園に入れて、働いています。周りからは『そんなに小さいのに、保育園に入れるなんてかわいそう』という声もありました。私自身も、保育園を信頼しているものの、息子がいい子に育つのか心配です。

篠田さんの文章や、小島さんの連載を読ませていただいたり、Twitterなどを見て、お子さん方がすごくいい子に育っていらっしゃるように思いました。どうやったら保育園に入れながらも、働きながらも、いい子に育てられるのか、教えていただけないでしょうか?

何をもって「いい子」とするのか、その定義はさておき。私はシドロモドロになりながらも、なんとか自分の聞きたいことを伝えることができた。

こんな抽象的な質問でいいのかしら…と不安だった。でも登壇者の方々は、私の言葉にひとつひとつ「うんうん」とうなずいたり、「わかる」というような感じのリアクションを取ってくださりながら、まっすぐ真剣に聞いてくださった。これだけでも、質問してよかったと思えた瞬間だった。

まず篠田真貴子さんが、お子さんが生まれて保育園に預けて働きだした時のことについて、お話してくださった。

「私は生後4ヶ月の頃から、子どもを預けて働いていたんですね。仕事が好きだったからなんですが。その時に思ったのは、私が働きたいのを我慢して家で不機嫌でいるよりも、短くても家にいる時間はニコニコしていたほうが良いということなんです」

うん、うん、その通り。会場全体がうなずいた瞬間のように思えた。私は家で不機嫌になってしまった時のことを回想した。確かに母が不機嫌になると、家全体が不機嫌になっちゃうもんな。

「もう3歳児神話(=3歳までは子どもを預けず母親が育てるべきだという説)ってあまり聞かなくなりましたけど、そういう考え方はまだまだ日本には根本にあると思うんですね。この間テレビでそういう話をやっていた時に、それを見た今小学校6年生の次女が仁王立ちになって。腰に手を当てながら『子どもが小さい時に、お母さんが働くのの何が悪いわけ?』と言っていたんです(笑)『私も保育園に行っていた私の友達もみんないい子なのに!』って」

私はお話を聞きながら、笑いながら、なんだか安心した。そっか、お母さんが働く姿は子どもにはポジティブに見えるのかもしれない。そう見えるようにしたいな。篠田さんからはさらに、このようなアドバイスもいただいた。

「ご家族が保育園について心配なら、お迎えとかに一緒に行ってもらって、実際に見てもらうのがいいと思います。私の家族も口には出さないけど、働いている私を心配に思ったことはあったかもしれません。でも保育園を実際に見て、素人の私より、保育のプロが子どもを見るほうがよっぽどいいって思ったと思うんです」

私も、保育園に対して思っていたイメージと実際はかけ離れていた。保育園の先生は子育てですごく頼れるパートナーだ。それを実際に見せるというのは、とてもいい方法だと思った。

そして小島慶子さんは、子どもを伸ばすための秘訣を教えてくださった。

「子どもをよーく見てみると、ちょっとよくできている部分が見つかるんですよね。そこを『わぁ!カッコイイ!素敵!』とたくさん褒めるんです。すると子どもはメキメキ伸びていきますから。昨日も息子が社会のテストでちょっと点数がよかったので『すご〜い、カッコイイ〜〜〜!!!お母さん嬉しい!』と言いました(笑)」

「カッコイイ」のところで、小島さん自ら小さく拍手をしながら褒める仕草を見せてくださった。そのオーバーに褒めるジェスチャーと小島さんの言い方や表情に、会場は笑いに包まれた。とてもおもしろくて笑ってしまったし、そう言われたら嬉しいだろうなぁと思ったし、何よりこんな風にユーモラスに私の悩みに答えてくれたことが嬉しくて嬉しくて、ちょっと目頭が熱くなった

心から、この場にいてよかったと思った。私は、おふたりの話を聞き終えると、急いで聞いたことをメモした。

帰り道の足取りは、行きよりもなんだか軽くて、ふわふわしていた。

家に着いて、もうすやすやと寝息を立てている息子たちのかわいい寝顔を見つめる。私もそこに並んで眠りたかったけれど、この良い気分を終わらせたくない気持ちのほうが勝った。

「マイ・ストーリー」をもう一度開いてみた。
ミシェル・オバマこと、オバ美さんも、家庭と仕事をどう両立するかということを何年も悩み、時にはベビーシッターやカウンセラーにも頼って切り抜けてきたようだ。これは、日本人もアメリカ人も関係ない、共通の葛藤なんだと思った

私は仕事をするべきなの?
子どもをどう育てるの?

この問いは、きっとこの先も、私は自分に問い続けるんだと思う。まだまだ私なりのはっきりした答えは見つからないけれど、でもひとつ確かなことがわかった。それは、子育ても、仕事も、やり抜いた先輩たちがいるということ。そして先輩たちだって、もともと上手くいっていたのではなく、悩んで試行錯誤を繰り返して、自分なりの答えをつくったということ

Becoming.
これは「マイ・ストーリー」の原作のタイトルだ。10年後、息子たちが13歳と11歳になるころ、私も新しい何かになっていたらいいな。私にもできるのかな?

Yes, I can.
心の中のオバ美さんが、そうつぶやく。
大丈夫、私には心強い先輩たちがいるんだから。



最後までお読みいただきありがとうございました!

小森谷 友美 (🐤Twitterはこちら

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