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質問箱014:作品作りと商品作り

※Twitterの質問箱に寄せられた質問を、別途アーカイブしておきます。また随時、加筆修正を加えていきます。

【質問】


【解答】

①稲尾和久さんの投球術

自分の描きたいものを自由に描いた創作物を「作品」と呼ぶのに対して、お客さんを意識する「商品」としての創作物があるわけですが。作家にも、商品としての漫画や小説をまったく描けないタイプもいます。ただそうなると、作品が商品としても通用するかは、才能と天運のギャンブルになりがちです。

ただ、いちおう意識して描けるなら、作品と商品を、比率の面から考えてみるのはいかがでしょうか? 例えばプロ野球には、打撃投手という裏方のスタッフがいます。ピッチングマシーンだけではタイミングを取る練習にならないので、新人投手や引退した投手などが、現役選手に対して投げます。

打者に気持ちよく打ってもらう――という役割もあるので、打ちやすいボールを投げることも多いのですが。鉄腕と呼ばれた大投手・稲尾和久さんは新人時代、この打撃投手をやるとき、10球に1球はわざと、打ちづらいボールを投げていたそうです。もちろん、意地悪として投げていたのではなく。

②箇条書きにして考える

それはプロの打者の、得意なコースや不得意なコースを確かめるためだったり、自分が取り組んでいる変化球を試してみたり。そうすることで一軍レギュラーの一流選手でも、得意なコースや苦手な球種があることを実戦で研究されていたとか。ただお仕事として投げるのとは、意識が違ったのですね。

稲尾さんはこの経験で、打者の得意なコースのすぐ近くに苦手なコースがあって、勇気を持ってそこに投げ込むことの大事さや、同時にコントロールの大事さも、学んだとか。年間42勝という不滅の大記録は、そういう部分が生み出されたのでしょう。作品づくりもこれと同じではないでしょうか?

例えば今取り組んでいる作品で、自分がやりたいことを箇条書きにしてみて、それに〝商品〟として付け足すことが可能なことも、箇条書きにしてみるのです。その上で今回のページ数で入れられることと入れられないことを取捨選択し、最低一つは商品の要素を入れてみる、というスタイルはどうでしょう?

それさえ入っていれば、残りは自分の描きたいもので埋めていく。

③ゼロイチでは考えない

日活ロマンポルノでは、周防正行監督や金子修介監督をはじめ、数多くの名監督を輩出しました。それは、作品全体の中で●分以上はエロいなシーンを入れてくれれば、それ以外は比較的自由、という部分があったから。その自由な部分で、自分が描きたいものを実験してみたり、作家性を発揮してみたり。

稲尾和久さんのエピソードにも、似ていますよね? 作品か商品か、ゼロイチで判断するのではなく。作品の中に商品性を入れたり、商品の中に作品性を入れることで、自分のクリエイトするものを客観視することができやすくなるのではないでしょうか? 打撃投手に関して言えば、こんなエピソードもあります。

あるピッチャーがプロ野球球団に入団しましたが、どこに投げても打たれるような気がしてしまい、結果が出せず引退へ。ところが現役引退した後、打撃投手をやってみたら、超一流の打者でも意外と打てないコースや球種があることに気づいて、もっと早く打撃投手を経験しておけば良かったと悔やんだとか。

④実績なければ仕事なし

宮崎駿監督も劇場版アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』の興行的な失敗で、数年間もアニメ業界から実質的に干されてしまい、他業種への転職も真剣に考えたとか。なので『風の谷のナウシカ』以降の作品では、興行成績を、常に気にされ続けたとか。

商業的な成功がなければ、実績がなければ、どんなに素晴らしい才能があり評論家が褒めちぎっても、次の仕事が来なくなってしまいますから。
逆に揺るぎない実績があると、もう才能が枯れた老監督にも、ズルズルと仕事が来たりすることも。

〝商品〟を作る技術は〝作品〟を作るためにも重要だと思って、打撃投手のように取り組んでみてはいかがでしょうか? それはたぶん、先発マウンドとも、地続きです。自分を一歩引いてみて、逆算のピッチングを身につけると、作品作りに応用できるかも、です。


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