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作品は構成と演出

発端は、こちらの椎名高志先生のツイートでした。甲斐谷忍先生の漫画論──漫画は絵ではなく、構成と演出だというTogetterのまとめに対して、反応されておられました。けっこう前のまとめですが、今でもよく引用されます。甲斐谷先生は、トキワ荘プロジェクトにも賛同され、旧宅を甲斐谷荘としてトキワ荘プロジェクトのシェアハウスにされており、たまに指導もされているので、デビュー率はとても高い、出世寮です。

「漫画は話と絵じゃない!」「絵の力よりも実は『演出力』」 構成と演出の重要性を、LIAR GAME作者の甲斐谷忍先生がタイプ別に解説! - Togetter https://togetter.com/li/1358200.

https://x.com/Takashi_Shiina/status/1775744829076742317

甲斐谷先生のTogetterまとめも、リンクしておきますね。



①構成と演出は不可分

画力があると、デビューし易いのですけれど。 絵が上手い人が構成力と演出力を身に付けるよりも、構成力と演出力がある人が画力を身に付ける方が、デビューしてからの伸び代は大きい気がします。個人的な感触ですけれども。

構成力と演出力って、身に付けるの大変ですから。絵の方がまだしも、努力で攻略できる余地があるんですよね。もっと言えば、読者は漫画家や編集が思ってるほど、絵柄は気にしていない部分もありますから。すると、こんな質問が。

2015年デビューの漫画家です(›´÷`‹ )
日本語の深い理解が出来ておらず、いまだに構成と演出という言葉がさすものの正解がわかりません(›´÷`‹ )

構成とはお話をざっくりまとめた概要でしょうか?

演出とは、カメラワーク含む、雰囲気つくりやコマの流れや絵で、心情や感情を表現したり、読者様の感情を動かす為の小技のことでしょうか(›´÷`‹ ) ?

もしお時間がございましたら、ご教示いただけましたら幸いでございます(›´÷`‹ ) 💦

https://x.com/Babylion_110/status/1776004046597632276

無料で秘伝を話す意味はないのですが、講座の宣伝も兼ねて、構成について、考えるヒントを書いてみようと思います。

②物語は因果律を示す

構成とはざっくり言えば、物語る順番のことです。例えばこんな文字列があったとして。

①王妃が死んだ
②三ヶ月後に国王が死んだ

これは事実を時系列の通りに示した、年表のようなものです。
歴史の事業で、年表を読んでて、楽しくてしょうがないという人は、そんなにいないでしょう。無味乾燥な、情報の提示にしか思えない人が、多数派でしょう。
では、これをこんなふうに表現したら、いかがでしょうか?

①国王が死んだ
②三ヶ月前に王妃が死んでいた

読者が受け取る情報量自体はほとんど同じでも、後者は時系列を遡って提示することで、因果律──原因と結果の結びつきが、示唆されます。

③因果律を再拡張する

これをさらに、こんなふうに第三の情報を付け足したら、どうでしょうか?

①国王が死んだ
②三ヶ月前に王妃が死んでいた
③国王は王妃を深く愛していた

王妃と国王が相次いで死んだ理由の因果関係に、2人の深い愛情があったが故に、悲しみのあまり気力を失って後を追うように亡くなった、と読者はイメージします(あくまでもイメージ。事実かどうかはこの時点では置いておきます)。

例えば、俳優の松方弘樹さんや目黒祐樹さんのご両親である、近衛十四郎さんと水川八重子さんの関係が、これに近いですね。喧嘩ばかりしていた夫婦だったけれど、奥さんに先立たれた近衛さんはみるみる気力がなくなり、後を追うように1年持たずに亡くなっています。

④犬神家の一族的分岐

それでは、上記とは異なる、こんな第三の情報を付け足したら、どうでしょうか?

①国王が死んだ
②三ヶ月前に王妃が死んでいた
③王妃はワインに毒を仕込んでいた

こう並べると逆に、国王と王妃に確執があり、王が愛飲していたワインの瓶に王妃が毒薬を生前密かに仕込んでおり。
ロシアンルーレットよろしく、国王が毎日ワインを飲んでいる内に、三ヶ月後に毒入りの瓶に、当たってしまった……と。

これは、横溝正史の傑作『犬神家の一族』で、若林豊一郎弁護士が毒殺された、ある手法と同じですね。

⑤私の幸せな結婚分岐

構成を、ただ単に並べ替える順番のように説明する人もいますが、ちょっと違うと思います。並べ替えによって、どんな因果律を構築するかが、構成の本質であると、MANZEMI講座では考えます。たとえば、こんな第四・五の情報を追加します。

①国王が死んだ
②三ヶ月前に王妃が死んでいた
③国王は王妃を深く愛していた
④だが二人は、政略結婚だった
⑤王妃には別に、思い人がいた

第四の情報を、この形に膨らませると、顎木あくみ作『私の幸せな結婚』の骨格に、だいぶ近くなります。

そして読者は、どのような葛藤があって、国王と王妃の間に愛が育まれていったのか、そのプロセスを知りたくなります。これが、作品に読者を引き込む基本的なテクニックでもあります。

⑥フォースター物語論

今度は、④の物語パターンをさらに膨らませて、こんな第四・五の情報を追加します。
ますます横溝正史風味が強い、復讐譚になりました。

①国王が死んだ
②三ヶ月前に王妃が死んでいた
③王妃はワインに毒を仕込んでいた
④王妃の死は、実は暗殺だった
⑤王妃はその日を予想していた

⑥以降に、どんな因果律を付け加えていくのも、自由です。
実はこれ、E.M.フォースターが1927年に『小説の諸相(Aspects of the Novel)』で展開したプロット論を、ちょっとアレンジした手法です。このプロット論は、三島由紀夫も評価しています。

⑦作品は一本釣りする

構成論と言うとどうしても、①から⑩までの展開をいったん考えて、それをどう並べ替えるかの話になりがちです。
それはそれで意味がありますが、MANZEMI講座ではもう一歩踏み込んで、作話の本質に迫りたいと考えています。

作曲家の小林亜星さんが生前、曲が半分できたという同業者が信じられない、曲というのは川から魚を釣り上げるようなもので、半分だけ釣り上げるなんてありえないと。
昔はこの考えがピンとこなかったのですが、フォースターのプロット論で、因果律を示すのが物語=小説の本質なら、第3の情報を付け加えた時点で、作者の脳内には、物語の全体像が浮かんでるはずなんです。

もちろん、書いている途中で大きく分岐の方向が変わるにしろ。最初の情報から連続しているのは、同じです。
この、因果律を伴う物語の展開が、構成です。
単に順番の問題ではありません。

講座では、これに演出論を交えて、もうちょっと深堀りしますけれど。
行き詰まっている人なら多少は、考えるヒントにはなったのではないかと。


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