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Celezenka "Geographically Central" レビュー

はじめに

2024年3月30日にCelezenkaのリミックスアルバム"Geographically Central"をリリースした(現状ストリーミング配信のみ)。静岡を拠点とする電子音楽ミュージシャンのPugmal Sensorことユウキさんにお願いしてお声がけ頂いたところ、ユウキさん含む静岡・名古屋の計4名のアーティストによる全7曲のリミックスアルバムができた。自分はアーティストが希望する曲のトラック音源と最低限必要な情報のみ送っただけで口出しはしなかったが、皆さんに再構築して頂いた楽曲はどれも自分では思いつかないような新たな世界観が築き上げられていて、刺激的な芸術作品が創り出された。

今まで自分が出した作品のセルフレビューはなんか嫌で避けてきたが(既存曲のレビューを執筆して頂ける方は大歓迎)、今回は実質他の人による作品とほぼ変わらないので思い切ってレビューしよう。

1. Incomplete Love Song (House Of Tapes Remix)

アルバムのスタートは名古屋を拠点とする電子音楽家Yuuya Kuno氏のプロジェクトHouse Of Tapesによる"Incomplete Love Song"のリミックスから。SNSやPugmal Sensorの"Satellite Phosphor"のリミックスで存じ上げていたが、まさか自分の曲をリミックスして頂けるとは思わなかった。
曲はMikiさん(h-shallows, 呼吸, red go-cart etc.)によるクラシックギターのソロを歪ませた(+逆再生を加えた)音から始まる。エレキギターで弾いたような感じだが、それでも美しくメランコリックに感じるのはMikiさんが考えたフレーズが曲に寄り添ってくれている証でもあろう。原曲に無かったアルペジオも付加され、ボーカル始め色々と歪みが加えられたが、破綻することなく切なく美しい仕上がりとなっている。原曲の要素を最大限活かしつつも、こんな素晴らしいリミックスを仕上げてくれたことに脱帽である。アルバムの幕開けにふさわしい曲である。

ちなみに、せっかくなので原曲を紹介したい(結局セルフレビューするけど)。 2ndアルバム"Resey"収録曲で、重いディストーションギターが鳴り響く曲ばかり収録された中での癒しとして、コーラスを掛けたアルペジオギターを主軸にメランコリックに仕上げた。それまでのCelezenkaに求められていたものをあえて裏切ってオルタナ路線に舵を切ったアルバムだったが、それでもネオアコ的なアルペジオを多用した曲をどうしても入れたくなってしまって作った。タイトル通り、不器用な男の下手なラブソング。思い切って恥を捨てて、堂々としたラブソングを書いたのは初めてだったかも。Mikiさんのギターソロが肝。余談だが、Mikiさんにギターソロ依頼時にデモを聴かせたところ、Feltみたいと褒められた。彼らをリファレンスとして作ってはいなかったので意外だった。

2. Meduza (House Of Tapes Remix)

2曲目もHouse Of Tapesによるリミックス。前曲と変わってこちらはアグレッシブに攻めたアレンジとなっており、ビートも打数が増えドラムンベース的な仕上がりである。そうありながらも、サビのMaika氏によるバックコーラスが氷のように冷たく(でも生命力を保ちながら)響き、"Meduza"(メデューサのロシア語読み)という曲のモチーフを原曲と別の角度から表現されている。最後にギターソロを持ってきて、後味のいい終わらせ方をしてくれる。元々は適当に弾いてそのまま採用しただけだったのに(というか自分でも再現できるか怪しい)。このアレンジのセンスには頭が上がらない。

こちらも原曲を紹介したい。2ndアルバム"Resey"収録。"Meduza"は前述の通りメデューサの露語読み(Медуза)であるが、女性の英知および悲劇の象徴として、またロシアの独立系メディア"Meduza"(現在はラトビアを拠点としている)もあり、加えてサンクトペテルブルクに住む友人から誕生日プレゼントとして贈られたTシャツのアパレルブランド名?が"Medooza"だったことから(デザインもメデューサであったし、音楽に関係する感じであった)、それらよりインスピレーションを受けて作った。余談だが、件のプレゼントのTシャツに書かれていたメッセージ"Слушай свое сердце (Listen to your heart)"は英訳して歌詞に取り入れた。肝心の曲の内容はざっくり言うと反戦、そして「あのハゲくたばれ」。収録アルバムは主に反戦(何より自分が文化的に関心持っていた国が意味わからない理由で隣国を侵略したことについて)がテーマで、その集大成的な曲であった。バックコーラスでMaika氏が参加して曲の世界観の構築に重要な役割を担っている。彼女はその前に"Primorsky"でも参加しているのでそちらも是非。ちなみに、彼女が自分の知らないところで"This is How I Behave"を評価していなければ、Celezenkaは今みたいに活動していなかった。 

3. Close My Eyes (yuriplus resampling glitchform ambientmix)

静岡・御殿場を拠点とするyuriplus(yuri+)による8分もの壮大なアンビエントノイズチューン。そもそもたった1分で1トラックだけの原曲をここまで極大解釈してきたことに拍手を送りたい。
本人のインスタ投稿より引用するが、下記の通りにリミックスしたとのこと。

原曲の本来持つギターサウンドスケープを更に深め、まるでロシアの街外れにある、広大な廃墟群が立ち並ぶ雪景色のようなイメージで制作しました。

https://www.instagram.com/p/C5LWFdCSp4-/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

言われれば確かにシベリアのタイガに囲まれて忘れ去られた団地の廃墟をイメージさせてくれる。
前半で盛り上がり、3段階に音数が減るが、飽きることなく心地よく聴けて、気づいたら8分経って曲が終わってたって感じになる。ずっとノイズでも不快感は一切ない。まだドローンを聴いたことがないorよく分かっていない人は、これをきっかけに聴いてみて美しい沼にハマって癒されていってほしい。

原曲は1stアルバム収録のインタールード的なインスト曲。ギターをフィルターモジュレーションエフェクト(Electro-harmonixのBlurst)で揺らして適当に弾いたら思いついたので、そのまま録った。タイトルは悩んだが、ずっと聴いていると眠気を催しそうなので適当に付けた。そういえば最近はインスト曲作ってないな。

4. Incomplete Love Song (Pugmal Sensor Remix)

ここからは盟主Pugmal Sensorゾーンに突入する。2022年末に出したShaved Ice Fallenのリミックス(こちらのダブver.も)でお世話になったが、今回も彼の才能を更に感じさせてくれるリミックスを仕上げてくれた。
"Incomplete Love Song"はHouse Of Tapesのリミックスとは打って変わって、こちらはゆったりしたダブのアレンジである。歌のタイミングがあえて1拍ズラしているが、聴いているうちにしっくり感じるようになる。本人が多大な影響を受けたAndrew Weatherall節を感じられ、これはThe Sabres of Paradiseっぽく感じられる。あとNew Orderのアルバム"Republic"収録の"Regret (Sabres Slow'n'Low)"らしさも。yuriplusの長大アンビエントを堪能した後にこれがくるとDopeになれるな。

5. Sweet Meat (Pugmal Sensor Remix)

本アルバムの大目玉。なんと10分。Extended mixのようなただ長くしただけのものではなく、起承転結がある展開で、こちらも聴いていて飽きることはない。というか、聴いている途中でこの後の展開を期待させてくれる。
このリミックスの1番の盛り上がりは後半部分であるが、そこに至るまでの約6分半にも様々なストーリーが感じられる。前夜祭的に重々しく打楽器が縦ノリを刻み続けるダブ、そこからカウントダウンのごとく横ノリのビートが始まり、そして軽快なビートの上で荒々しいギターソロが延々鳴り響くメインパートへ繋がる。全般的に原曲のベースラインを活かしており、図太く唸らせてくれる(原曲より活き活きしているかも)。また、原曲に漂わせていた不穏な空気がこのリミックスでも十分残されている。Flowered Upの"Weatherall's Weekender"以来の大作だな。

ついでに、ここでも原曲の紹介を。こちらも2ndアルバム"Resey"収録。これは反戦ではなくカルト宗教による洗脳と搾取について歌った曲。宗教をブラック企業やマルチ商法に置き換えても十分成立する。まあ自作銃による暗殺事件が起きたのが例の侵攻が起きたのと同じ2022年だったので、歴史の教科書で書かれている過去の大事件がリアルタイムでも起きているような1年で嫌だった。そもそも自分が堂々と政治的な歌詞を書くようになったのは、この作品が初めてだったかもしれない。たとえ暗喩だとしても。

2024/4/7 追記
"Sweet Meat (Pugmal Sensor Remix)"のMVを公開。

6. Meduza (Pugmal Sensor Remix)

Pugmal Sensor版"Meduza"。こちらは打って変わって軽やかでポップな仕上がりに。なんとなくScreamadelica期のPrimal Screamを彷彿とさせる。原曲は全体的に重々しく壮大な反戦ソングであったが、このアレンジなら政治的な歌詞が伝わってきやすいかも。これも"Meduza"の1つの解釈。

7. Meduza (NSG Remix)

静岡は沼津から、ビートメイカー/コンポーザーのNSG氏によるリミックス。コンピ集"Shizuoka Calling #5"に氏の楽曲が収録されていて存じ上げていた。
これはマジで最高。まず、原曲の面影が全くない。この時点でかなり高評価。で実際は、本人が原曲の歌詞を確認した上でこのリミックスが完成したという経緯があった。つまり、氏の"Meduza"の解釈がこれである。3分にも満たない曲には、非常にアグレッシブなビートが空間のあらゆる物を叩きのめし、攻撃的なノイズが合わさり、聴いている者を無我夢中に熱狂させて気付いたら終わっている。氏の紡ぎ出した世界観が凄い。この曲で「怒涛のリミックス集」(by House Of Tapes)を締めくくることができて、とても満足している。

その他

今回のリミックスアルバムのマスタリングは全曲自分で行った。自分が制作してMixした曲は他の人にマスタリング依頼するようになって久しいが、実質他の人がMixしたものなので、自分が経験値を積むチャンスだと思い取り組んだ。とはいえ、複数アーティストによる曲を1つのアルバムに纏めるというコンピ集とほとんど変わらず、提出頂いたMixは人によってスタイルが異なる。それで本人の意図をなるべく壊さずに、なおかつ全曲の質感や音圧を合わせなきゃいけず、やっていて悩む部分もあった(実際にお会いして話したことがない方もいたので尚更)。結果的に本人に確認頂いてどれも一発OK頂いたのでよかった。もしプロにお願いしたら更に良くなったかもしれないが、逆にリミキサーの意志に反する仕上げにしてきたかもしれない。それなら自分でやった方がいい。大変だったがやり甲斐はあった。

あと、曲順は音源の提出が早かった順(+ 原曲のアルバム収録順)で決めた。最初はどうしようと考えた時、仮でその順番にして通しで聴いたところストーリー性が感じられてしっくりきたので、そのまま採用した。原曲の重複もしているが、せっかく本人がやりたいと言った曲を被っているからNGを出すのは才能を否定するようであったので、あえてそうした。2ndアルバム収録曲中心の選曲ながらコンセプトは特になく、自分からアレンジに口出しはしなかったのに、それでいて4名の別々のアーティストが手がけたリミックスをまとめただけなのに、1つのアルバムとして完成度の高い作品が仕上がったと思う。不思議ではあるが、結果的に単なるリミックス集を超えたものになった。個人的にはNew Orderの"The Rest of New Order"というリミックス集の傑作に近づけたと思う。1つの新たな芸術作品を世に生み出したことに誇りを持ちたい。

最後に

今回リミックスを手がけた4名のアーティスト、特に周囲の電子音楽アーティストにお声がけ頂いたユウキさん(Pugmal Sensor)には御礼を申し上げる。これを読んでる皆さんも、この方達のオリジナル音源も是非聴いてみてほしい。こんなイカした電子音楽を作り出す方達が静岡や名古屋にいることを思い知ってほしい。世界にも通用するぞ。

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あと忘れてはいけないのが、アルバムジャケットの富士山の写真を撮影し且つ使用を承諾して頂いたシンジ君(tw, insta)にも感謝している。この写真を撮ったのは、自分と花さん(ba.)と一緒に日帰り旅行した時だったけど。これ以外にも、アルバムトレイラー動画用に急な依頼にも関わらず動画撮影して頂いたし。新バンド、頑張ってくれ!

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