リグ_ヴェーダ讃歌

主婦は勝利した戦士として家庭を統治する 『リグ・ヴェーダ讃歌』(辻直四郎訳、岩波文庫)

 辻直四郎訳『リグ・ヴェーダ讃歌』岩波文庫、1970。
 ऋग्वेद (ṛgveda, Rigveda、梨倶吠陀)の抄訳。

リグ・ヴェーダ讃歌

 ヴェーダのなかでマントラ(मन्त्र Mantra、祭詞、呪詞、真言)を収める中心部門サンヒター(संहिता Saṃhitā、「集められたもの」、本集)のうちのひとつで、リグ自体が讃歌の意味を持つ。
 使用言語であるヴェーダ語は、ゾロアスター教の聖典『アヴェスター』のアヴェスター語にきわめて近いものだという。


アヴェスター


 『リグ・ヴェーダ』は長期に亙って成立し、紀元前12世紀に現在の形に編纂されたとされている。成立までに長期間を要したということは、同一の書物でありながら古層と比較的新しい層とが混在しているということを意味する。
 自然神への讃歌が古層とされ、創造神や抽象概念を体現する神が新しい部分に出てくるという。

 雷霆神・天帝である武神インドラ(ゾロアスター教では魔王インドラあるいはアンダル、仏教の帝釈天、朝鮮の檀君神話における桓因[フワニン、환인]、ハヌルニム[하늘님])への讃歌が多い。インドラは旱魃を起こす大蛇ヴリトラを退治した。

 他に暁の女神ウシャス、風神ヴァーユ(風天)、司法神・水神であるヴァルナ(水天)、火神アグニ(火天)などの自然神、医神であるアシュヴィン双神といった多数の神格への讃歌に、ソーマ(神酒)の歌が加わり、続いて冠婚葬祭の歌、アガスティア(アガスティヤ)仙と妻の対話体の歌、そしておそらくは比較的後期に属するであろうとされる宇宙創造時の原人プルシャの歌、動物や生活を題材としたおもに世俗的な歌、呪法・祈願の歌、と続く。

 なかには第7巻第55篇「催眠の歌」のように、

夜中に恋人の家に忍びこむ者が、番犬ならびに家内に住む一同を眠らせて、支障なく目的を達するための呪法〔375頁〕

というものもある。

褐色の斑ある白犬よ、汝が歯をむき出すときは、噛まんとする〔汝の〕顎の中に、あたかも槍の向かい輝くがごとし。安らかに眠れ。〔第4節。〔汝の〕は訳者補足〕

第10巻第159篇「主婦が主導権を握るための歌」には、こんなフレーズも。

賢明なるわれはここに克服者として〔夫を〕克服せり。
〔…〕われは強力な戦士なり。夫は克服者たるわが意図にのみ従属せんことを。
〔…〕夫にありて わが呼び声は最高の〔命令〕なり。〔第1-3節、376-377頁。〔夫を〕〔命令〕は訳者補足〕

勇ましい!

(つづく)

続きをみるには

残り 0字
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?