世界最古の物語

読みにくかったら、リライトで読んだらいい──シオドア・H・ガスター『世界最古の物語 バビロニア・ハッティ・カナアン』(矢島文夫訳、平凡社《東洋文庫》)

 古代オリエント文学は、読まず嫌いの僕にしては珍しく、10代のころに《筑摩世界文学大系》第1巻『古代オリエント集』でおおいに骨を折って読んだ。

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 前回書いたように、欠けの多い書板を厳密に訳して学術的な正確さを求めた古代オリエント文学のような古い文献は、「お話」(ナラティヴ)として読もうとすると、なかなか読みにくい。

 当時、シオドア・H・ガスター『世界最古の物語 バビロニア・ハッティ・カナアン』は現代教養文庫版が存在したようだけど、僕はそれを知らなかった。知ってたらよかった。
 この本はその後、平凡社の《東洋文庫》に入った。

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 本書の大部分は、のちに『古代オリエント集』に収録されるテクストを、比較宗教学的聖書研究の立場から読みやすく説話体に書き直し、各篇に解説をつけている。
 だからまずここから読んでみて、概要を知ってから「テクスト」に当たるのがよい。ミルチャ・エリアーデによる「仏訳の序文」も収録されている。

 「バビロニアの物語」の章は、『古代オリエント集』の「アッカド」から「ギルガメシュ叙事詩」 「エヌマ・エリシュ(天地創造物語)」「エタナ物語」「アダパ物語」「虫歯の物語」がそれぞれ「ギルガメシュの冒険」「神々の戦争」「借りものの翼」「逃した幸運」「虫歯はどうして生じたか」として収録されている。

 「ハッティの物語」の章には、同全集「ヒッタイト」から「テリピヌ伝説」「クマルビ神話」「竜神イルルヤンカシュの神話」が「姿を消した神様」「石の怪物」「計略で捕えた竜」の題で。

 「カナアンの物語」の章には同全集「ウガリット」から「アクハト」「ケレト」「バアールとアナト」の3篇が「天の弓」「誓いを忘れた王様」「バアルの物語」の題で収められた。

 ただし「ハッティの物語」の章のラスト2篇、「狩人のケッシ」と「〈善〉さんと〈悪〉さん」は、テクストが『古代オリエント集』に収録されていない。
 前者は死生観にまつわる夢の教えが重要なポイントとなっている。後者は愚者アップの滑稽な神話であり、一種のセックスジョークになっている。こういうものがこの時代からあったのか。

 神話を物語化したテクストに僕ら素人がアプローチするためには、こういうリライト・再話は必要不可欠なものだ。ありがたく読ませていただくことにしている。
 どうか気長におつきあいください。

シオドア・H・ガスター『世界最古の物語 バビロニア・ハッティ・カナアン』矢島文夫訳、平凡社《東洋文庫》884、2017。
Theodor Herzl GASTER, The Oldest Stories in the World, 1952.

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