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ひとはこ店主なるものを1年やってみた

皆さんは、「シェア型書店」というものを聞いたことがあるだろうか?
最近はやりの、30cm四方の貸し与えられたスペースに、自分のおすすめの本を置いて販売することができる、というものである。

私も、「うたたね書店」と書店を名乗っているからには、ぜひやってみたいと思い、チャレンジしてみた。
もともと貯金が尽きたらやめる、というルールを最初に課してやっていたので、15カ月たって、私が棚を借りている書店の移転に際し引き上げることにした次第だ。

その1年の奮闘記……というほど大仰なものではないが、これからやってみたい!というひとのために、いくらくらい溶けるぞ!と先達の一人として体験を書いてみようと思う。

最初に夢の無い話をするが、ひと箱店主として契約する際、「収益を上げるのは期待できない。大抵は赤字になる。趣味としてやっている人がほとんどだ」と言われた。実際自分も1年で30kくらいの赤字であったから、そんなものなんだと思う。

ただ、実際のところどんくらい売れるの?とか、これからやってみたいけれどもまとまったお金をいくら用意すればどれくらいの期間続けられるのか見通しが立たないと不安、という方々のためにこの記事を書いている次第である。以下、結構生々しいお金の話もあるため、閲覧には注意されたし。

なお、弊うたたね書店は3/5で閉店なので、関東圏の皆様は今からでも行けます。よろしければお越しくださいませ。赤字とわかりきっているからこそ、本当に読んでほしい本しか置いていません。どの本も、丁寧に書いた「かくかくしかじかという理由で読んでほしいんだ!」という書評付き。
あなたの読書の旅を豊かにすること間違いなし、と自信をもって置いておりますので。なにとぞ。


ぶっちゃけどのくらい売れるの?

はい。私が1年やった感じですが、44点仕入れて37点売れています。(私個人で作ったZINE等も含む)
仕入れた本の85%が売れている計算になります、が、これは開店直後(閉店間際)のお祝い的なものを含んでいるため、初月と最終月を抜くと、25点仕入れて13点売れているざっくり仕入れた本の半分が売れるとイメージすればよいと思います。

平均月1冊か~、と思われるかもしれませんが、本の売れ行きは以下の棒グラフのような感じです。売れない月がほとんどですね???????

最終月の閉店セール分は未集計

というわけで、後進の皆様は、売れない月がほとんどだが平均すると月1冊くらいになる、という先達の教えによって精神安定を図ってもらえればと思います。正直な話、売れない月が3か月続いて、翌月売れたと思ったら1冊、みたいなのはかなり精神衛生にキます。開店セールとか閉店セールとかなくてもだいたい平均月1冊になるはず、たぶん、というのは後進の皆様からすれば安心いただけるのではないかなー、と思います。

(余談ですが、もともとTwitterとかYouTubeのフォロワーがある程度いるというバフ効果じゃないの?と言われると、否定しきれません。とはいえ、YouTubeのフォロワーは海外勢が多いし、Twitterのフォロワーでも関東遠いから行けないなー、みたいに仰っていた方も多かったことは付け加えておきます。
一方で、棚代節約のために、目につきにくい一番下の棚を使っていた、というデバフもあるので、上述のバフと相殺できるとは言いませんが、ある程度は皆様の参考にしてもらえるのではないか、と思って書いています)

後述の通り棚代が嵩むため、せめて本ではトントンというか、プラマイゼロにできると長生き(?)できるのではないかと思います。そのために気を付けていたのは、以下の二点です。

新品を仕入れるときは慎重に

本屋さんがどんどんつぶれている、というニュースはどこからでも入ってくるかと思いますが、本という商品の利益率はどれくらいか、皆さんはご存じでしょうか?
出版社や取次業者によって変わりますが、新品の書籍だとだいたい仕入れ値は70~80%くらいなので、実は本ってなかなかに薄利なのですね。

先述の通り仕入れた本が必ず売れるとも限りません。私は、必ず売れるという確信がある(めったにない)、あるいは、売れなくても自分が欲しい物だから構わない、くらいの気持ちがあるもののみ新品で仕入れていました。

基本的に中古で、どう付加価値を付けるか

新品の仕入れはリスキー、ということは中古の割合を多くした方がリスクヘッジという意味では良くなります。ただし、手数料(棚量とは別に一冊ごとに販売手数料がかかる)を上乗せする以上、どうしても一般的な中古流通価格よりちょっと高くなってしまうのです。

気になる!と手に取ってもらったとしても、ブッ〇オフで100円で売っているな、と思って棚に戻されてしまう可能性だってあるのです。そして、個人の趣味である以上どう考えてもブ〇クオフと戦うのは悪手中の悪手です。

ついでに言うと、単に手数料だけ上乗せしてもジリ貧なので、本の販売率が50%くらい、ということをふまえて、2冊に1冊が売れれば本の仕入れ代はトントンにできる、というくらいの上乗せは必要かと思います。

そこで、付加価値として、私は手書きで選書理由をしたためた手紙のようなものをすべての本に挟んでいました。付加価値があることで、私自身が気持ちよく手数料+長生き料を上乗せできた、という私自身の精神衛生にも良かった、という思わぬ効果もありました。

選書理由の手紙はこんな感じ

1年続けるのにどれくらいお金を用意しておくといいの?

本の仕入れ代については先述の通り、ちょっと頑張ればトントンになるかな、という所感です。なので、いくら用意すればいいの?に対しては、差し当たってひと箱店主を続けたい月数の棚代があれば大丈夫だと思う、というのが私の回答です。

ひと箱スペースをひと月借りるための相場はだいたい、3000円~5000円です。なので、本が売れても売れなくても、年間36000円~60000円くらいは固定で出費として消えます。1年間、季節を一巡したいならばそれくらいのまとまったお金はあると良いと思います。

やっててよかったなー!って思ったこと教えて!

ここまで直截にお金の話とかもしつつ、どう考えても赤字だとも言いつつ、けれどもやってよかったなー、と思っていることは間違いないので主張させてください。

一つ目は、ずっとYouTuberとして活動していたので、リアル書店に足を運んでくださるような方がいらっしゃるんだ!とうたたね書店ご常連の皆様の実在性が一気に増したこと。こんなに愛してもらえているんだ!と、本当にうれしかったです。

二つ目は、SNS以外の、リアルという発信手段のぬくもりに触れられたこと。私個人の意見ですが、やはり、顔が見えるのが疲れる、というのはあるわけで、本を置いたら顔の知らない誰かが買ってくれた、というのは癒される経験でした。アイコンがあって名前が見えて……という世界に疲れやすい自分としては(なのでTwitterとかすごくにがてです)、本を棚に置けば、知らない誰かが買って、楽しんでくれる、というのは実に心地よいひとときでした。

三つ目は、ほかのひと箱書店の方々からだいぶ刺激を受けられたこと。推し本について語り、私のド性癖である「殺人的に頭が良く、決定的に狂ってしまった、背筋が凍るほどに美しい女の子」の香りを作ってもらうとか……、さすがにそこまで強烈な経験はそれだけですけれども、ほかのひと箱店主も思い思いの本を置いていて、こんな世界があると知ることができただけでもすごく楽しかったです。

四つ目は、読書記録を付けるようになったことです。この本ひと箱書店に置けるかな?と思いながら、読んでいる本を記録した結果、一年で80冊にもなりました。80冊についてどばーーーーっと語っているnoteはこちらです。アーカイブとして情報が溜まると、やはり良いものですね。

ひと箱店主やりたい!と思ってる人にひとこと!

ひと箱書店もだいぶ増えてまいりました。私も、ここ!と決めるまでに、複数の書店さんを回って、置いてある本を見て、「この本を置くとは信頼がおけるぞ」と思うひと箱書店がたくさんあるところを選びました
本当に書店さんによってカラーが全く異なってくるため、自分に合うところを探されると良いと思います。

また、店番は必須かとか、経済的な問題とか、通いやすさとか(あまり売れないとはいえ、本を入れ替えずにずっと埃をかぶらせておくとやっぱり売れない)、いろいろ見るべきポイントはありますので、しっかり見てみてくださいね。

どう考えても赤字なので、いかに精神衛生に良いかつ長生きするか、みたいな私なりのTIPSは盛り込んだつもりです。参考にしたりしなかったりしつつ、すてきなひとはこ店主ライフをお過ごしください。

一般的にはこれくらいの赤字をたたき出しながらひと箱書店の店主の皆様は本を置いています(もちろん一部で収益を上げている方もいらっしゃいますが……)。
つまり、激重感情の詰まった本しかない、というわけです
ひと箱店主には興味がないとしても、誰かの激重感情の詰まった本を見に、ひと箱書店に足を運んでいただければ嬉しいです。

よろしければ、閉店まであと数日となりました、うたたね書店にも足を運んでいただけると、主に私がとても嬉しいです。ここまでお読みいただきありがとうございました。

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