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専業主婦バッシングよりも先にやるべきことがたくさんある

夫の生死や動向で左右される専業主婦は、不安定極まりなく危うい立場にある。できることなら女性も自分の仕事を持ち続け、いざとなったら大黒柱になる、あるいは夫婦関係を解消しても自分で生計を立てられるような状況にしておくことがマストなのは言うまでもない。

しかしその一方で、近年の専業主婦バッシングには、はなはだ疑問を感じる。

若い女性は専業主婦の危うさをよく知っている

私と同年代の女性で成功している人の、専業主婦叩きは特にすごい。うがった見方をすれば、かつてワーキングマザーや独身キャリアウーマンがマイノリティだった時代、周囲から迫害されていたことへの個人的な恨みつらみではないかと邪推するような論調だ。なんだか見苦しい感じさえすると言ったら言い過ぎか。

そのような人たちの言い分を読むと、今の若い女性がふわふわとした気持ちで専業主婦を望んでいることに警鐘を鳴らすものが多い。

しかし、私のように年頃の娘や息子を持っている親からすれば、彼らはずいぶん若い人を見くびっているものだとあきれてしまう。たぶんそういう人は視野が狭い。子どもがいても、我が子の本質を見極められていないのだろうなと思う。

バブルのような好景気を知らずに育った、今の若い世代は意外と堅実だ。口では頭が悪そうなことを言っても、実際には意外と現実をシビアに見ている。常に損得勘定をしながら上手に世間を渡る方法を模索している感じすらある。その点における計算高さは、おそらく私たち親世代よりもはるかに上だ。

専業主婦にならざるを得ない女性が多い

私は独身の若い女性と接する機会も多いが、その限りでは、「専業主婦になるのはかなり厳しい」と重々わかっているようだ。口では「専業主婦になりたい」などと言っても、実際には現実を直視して働き続ける道を選ぼうとしている人ばかりだ。

にもかかわらず、現実には女性が働きやすい環境などまったく整っていない。その背景から、やむなく専業主婦になっている人も多いのだ。

たとえば、今リアルタイムで「#保育園落ちた」のハッシュタグをつけた阿鼻叫喚の叫びが広がっている。出産後の預け先がなければ、仕事を辞める、あるいは低賃金の仕事に転職するしかないからだ。

そのような理由で家庭に入った女性に「外に出ろ、働け」と煽る人間たちが、自らがその女性たちの子どもを責任もって見ることは決してない。要するに、無責任に女性をあおり、女性同士を対立させて専業主婦を叩いているだけだ。

社会は今も、まったく子育てに優しくない。むしろ「女性の活躍」だのと言っている今の方が、子育て世代には過酷な環境だ。特に、母親一人に対する仕事家事育児の重圧がすごい。出産・育児期の若い女性を過労死させるつもりか?と怒りを禁じえない。

既婚でキャリアを持続できた人の大半が専業主婦に依存してきたという事実

均等法第一世代の女性はよく頑張ったかもしれない。だからと言って、今の若い世代にそれを押し付けるのはいかがなものか。

私はよく知っている。そのようなワーキングマザーのほとんどが、専業主婦の母親(実母や義母)に子育てを依存していたということを。それがあったからこそ、キャリアを途絶えさせずに済んだのだ。

同年代以上の男性はもっとひどい。会社で要職についている男性の多くは仕事人間。専業主婦の妻に家事育児を丸投げにし、自分の身の回りの世話すら妻任せなんてケースが非常に多いのだ。これはリアルで見ているのでそうだと断言したい。

そのような人に専業主婦を批判する資格はない。長年さんざん専業主婦の援助を受けておきながら、よくも専業主婦バッシングなどできるものだ。

そのような人たちがまずやるべきことは、専業主婦批判ではない。高い地位に上り詰めたその発言力を持って、まずは子どもの預け先の確保、病気の時の対処、男女ともに週単位、月単位の育休を法的義務とするために社会を動かすことだ。そうすることでしか、そのような人たちが撲滅したい専業主婦はなくならないだろう。

今の母親世代はごく一部の恵まれた人以外仕事を辞めざるを得なかった

そのような見当違いの専業主婦叩きは、なにも若い世代だけに向けられたものではない。私たち上の世代の女性にも向けられている。それに関しても、こちらとしては言いたいことがある。

まず、当時の女性の求人は「自宅(つまり実家)通勤に限る」の会社が多く、女性というだけで非常に選択肢が狭められた。

また、就職したはいいが、結婚や出産で仕事をやめるよう女性社員にプレッシャーをかける会社も多かった。

例えば、私が勤めていた銀行では

・通勤時間が3倍以上の営業所に配属させられる
・社内結婚だと夫を遠方に転勤させて妻帯同を義務とする(事実上の退職勧告)
・子どもの行事で有給を希望しても許可しない

などのことは当たり前だった。実を言えばその銀行だけでなく、どの会社も似たり寄ったりだった。

私もそれが理由で銀行にいられなくなり、約3年ごとの夫の転勤により、仕事に就くのもままならない状態が長く続いた。

このように、当時は「女性は結婚したら家庭に入る」ことを半ば強要された時代でもある。同世代の女性の多くが、働きたくても結婚や出産で泣く泣く辞め、低賃金のパートやアルバイトに転じざるをえなかった。

また、ワーキングマザーへの風当たりも強かった。

・母親のわがままで子どもを保育園に預けるのは虐待
・家が貧乏なのね(失笑)

などというバッシングが本当に当たり前にあったのだ。

そもそも、今と昔では時代背景が真逆だった。

今よりはるかに母親が働きづらい社会でワーキングマザーを続けられなくなり、自らもまた専業主婦を選んだアラフィフ女性。その女性たちに、今さら「専業主婦がもっとも活用しきれていない人材」だの、「扶養で働くパートは貧困だからもっと稼げ」だのと言うのはおかしい。仕事を続ける上で圧倒的優位にある男性、そして専業主婦にさんざんお世話になったキャリアウーマンによる、現実が全く見えていないたわごとにしか思えない。

専業主婦バッシングより先にやるべきことがあるのでは?

そんなに専業主婦女性にガンガン働いてほしくば、仕事復帰にあたり非正規雇用ではなく正社員のポストをもっと用意しろと言いたい、それができずに働け、税金をもっと収めろだのと言うのは的外れもいいところだ。

あと、今は小さく起業して働くフリーランス女性も多い。私もその一人だ。そのような女性(男性もだが)が会社員と同じように労働者として守られる方の整備だってぜひお願いしたいところだ。税金をたくさん納めてほしくば、会社員やフリーランス、自営業者すべての権利を守り、命を削らずに働ける環境の整備も必要だ。それをなくして、少子化も貧困も超高齢化社会の問題も決してよくはならず、国のお金だって目減りする一方だと思う。

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