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アディダスの彼

「スニーカー可愛いですね!」
コピー機の前にいた私に後輩が声をかけてくれた。身につけているものを褒められると気分が上がる。それがお気に入りのものだったら尚更だ。

昨日から梅雨入りした西日本。今日の天気は終日、雨。
最寄り駅から会社まで徒歩約10分。スカートで出勤し、ストッキングに泥跳ねして変にこびりついてしまったらその日一日、気分が下がる。となると服装はパンツスタイルに決定。靴は……お気に入りのスニーカーを履いていこう。そう決めて家を出た。

大学四年生のときに購入したアディダスのハイカットスニーカー。上品なえんじ色に加え、ハイカット部分を折り返すと現れるチェック柄に一目惚れをして即決で購入したのを今でも覚えている。だけど、社会人になってスニーカーを履く機会はぱったりなくなってしまった。

というのも普段私はトップス+スカート+パンプスで出勤することが多い。工場に入る必要がある日はスカートがパンツへとシフトする。そんな日にスニーカーを履けば良いのだが、黒又は白のパンプスはどのスタイルにも合わせやすいため、つい楽な方へと流れてしまう。また、昔、スニーカーを会社に履いていくことを母親が反対していたという記憶が頭の片隅に残っており、パンプスという安全な選択をしてしまうというのもある。
そういう訳でお気に入りのスニーカーは靴箱で長い長い冬眠生活を送っていた。

しかし数年前から職場の同僚のスニーカー率がぐっと増えてきていたのを私は見逃さなかった。そしてこの春、ついに会社スニーカーデビューを果たしたのだ!
だけど気づけば無意識に慣れ親しんだパンプスを選んでおり、なかなかスニーカーを履いて出勤ができていなかった。

だけど今日、思い切って二歩目を踏み出した結果、アディダスの彼は雨という憂鬱を吹き飛ばすくらい沢山の幸せを運んできてくれた。

朝は滅多に会わない同僚に遭遇することができた。
昼は後輩にアディダスの彼自身を褒めてもらうことができた。
帰り道は大きな水たまりを避けた結果、ワクワクする冒険へと導いてくれた。

Good shoes take you to good places.
―良い靴はあなたを良い場所へ連れて行ってくれる
―良い靴はあなたに良い出来事を運んできてくれる

この言葉を聞いたことがあるだろうか。

私はこの言葉を漫画、「花より男子」で知ったのだが、元々靴好きの私はこの言葉を何の抵抗もなく受け入れることができた。それ以来、この言葉を信じて、靴は気に入ったものしか購入しないようにしている。

靴にそんなパワーなんてない! と思う人もいるかもしれない。
だけどそう信じることで少しだけ、毎日が楽しくなる。大切なのは「気持ち」だ。
例えば今日なら、雨という憂鬱を吹き飛ばす「出来事」があった。それは靴が私にもたらしてくれた恩恵。そう思うだけで心がぐっと晴れやかになる。

最近すっかり忘れていた「靴の力」を今日という雨の日に再認識できた。そういう意味では梅雨入りも悪くないのかもしれない。

まだまだ雨の日は続くけれど、アディダスの彼がきっと私に幸せを届けてくれるだろう。

いただいたサポートを糧に、更に大きくなれるよう日々精進いたします(*^^*)