ちよまつ

詩や小説をかきます。明るいのも暗いのも書きます。基本的に全員フォロバしています。よろし…

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詩や小説をかきます。明るいのも暗いのも書きます。基本的に全員フォロバしています。よろしくお願いします。

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    のほほんとした短いお話をまとめます。

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    みじかい恋愛小説です。

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    特殊な感じで書いた文章をまとめます。暗いのもあります。

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『体温』2019.10.09

その日の朝はまるで、トーストの焼ける匂いが僕をなぐさめているみたいだった。乗せたバターが皿から滑り落ちるみたいに、何もかもが綺麗さっぱり、消えてしまっている。昨日の夜は酷い雨だったのに、傘は一本も減っていない。 誰かがいなくなるという遠い世界のおとぎ話のような、現実味の薄い出来事が、今ここで起きていた。音楽をかけて、猫のマロの尻尾を触って、リビングの椅子をひいて座る。いつもなら正面の席で、コーヒーの湯気があがっているはずだ。目を逸らして、窓の外を見た。 中途半端な晴れが、朝の

    • 短編小説『サヤカ2』2020.8.21

       男に女を売る生活で食っていこうと考えた母のようにだけはならないと、私は小学生のときに誓った。七十歳になって風俗の世界から足を洗った祖母は、母に代わって私を育て、繰り返し、「あんたは綺麗に生きなさい」と言った。祖母から母へ受け継がれた男へ媚びる遺伝子は私のなかにも確実に存在して、その遺伝子が初めて使われたのが、たぶん小学生のときだった。  その日、クラスの人気者の男子が、私の「顔だけはかわいい」と噂しているのをきいた。だからその男子に、ちょっと優しくしてあげようと思うようにな

      • 短編小説『サヤカ1』2020.8.9

         半年前まで彼女だった子がくれた紅茶のティーバッグを、一リットルのお湯で薄めて飲んでいた。うっすらと赤みをおびた色が、透明なポットに窮屈そうに捕まえられて浮かぶ茶葉の塊から、帯のようにちらちら沈んでゆく。そのちらちらの合間から、魚眼レンズでのぞいたようにゆがんだ十万円の束が見える。現金給付をうけてから一ヶ月、とうとう手を出さなければならなくなった。この一ヶ月間、僕はなにもしないで過ごした。  新型コロナウイルスが流行り、緊急事態宣言が出された直後、五年間勤め上げたバイト先から

        • 短編小説『見渡す限り、温もり』2020.7.9

           七月の蒸す空気、図書室は避暑地だった。七瀬真由香は小説の背表紙に手を伸ばしかけ、やめて悠一を見た。  図書委員の宮前悠一はずり落ちたメガネをそのままに、本のページを見つめていた。真由香の視線に気づく様子はない。  近づいてみると、悠一が顔をあげた。  目が合って、そらす。  チャイムが鳴る。真由香は図書室を出た。一度も振り返らなかった。教室はまた猛暑なんだろう。 全身から汗がふきだしてくるのを感じながら、走る寸前のはやさで、廊下を歩き抜ける。壁に貼られた栄養バランスのポスタ

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        『体温』2019.10.09

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        記事

          掌編『おみくじ』2020/5/26

           戦争が始まった。隣の家に赤紙が届き、現実だと理解した。結婚したばかりの頃だった。  次に呼ばれるのは主人かもしれない。思ってすぐ、あの人を連れて神社へ行こうと考えた。たどたどしいけれど、満足のいく毎日をやっと手に入れられたのに、また消えてしまうなんて。神様に祈りたくなった。  私を養うために朝から晩まで働く人を捕まえられるのは、朝方しかない。まだ夜明けがみえる時間に、主人をそっと起こした。まぶたとまぶたが張り付いてはがれないまま、主人は私の腕を掴む。「なんだ」と掠れた低い声

          掌編『おみくじ』2020/5/26

          『悪魔』2020/5/24

           悪魔と出会いました、と彼は囁いて、私の夢のなかへ入り込んだ。彼の愛する悪魔は美味しそうな食事の皿を持ち、私を、じっとりと濡れる陰鬱な目で見下ろし、長い髪の毛を滴らせて、食べてしまおうか、とでも言いたげに、彼と視線を交わし合ってすぐに離しては、まぶたを閉じ、十歳くらいの少女を食べたことがあるが、それはもう甘酸っぱく、真っ赤で新鮮なベリーを敷き詰めて焼いたタルトのように美しい経験だった、少女はわたしを信じていたんだ、自分を食べるなんて嘘だと、花のように可憐に笑ったんだ、この悪魔

          『悪魔』2020/5/24

          『祖母』2020.5.1

          幸福でいてください。床下に、貴方へ。 埋めておきましたからね。紙風船、桔梗。 春は来ましたか。木の柱に刻んだ身長を、 追い越せましたか。肌色の削れた木に、 サインペンの燻んだ薫り。紙の匂い、書斎。 線香の煙が綺麗でしょう。天井に吸われていく、 吸われて、舞い戻り、肺から外へ繋がり、 生暖かい、甘さのある空気が、教えてくれる。 生きているんでしょう、知っています。 手紙を書きましたからね、貴方へ。床下に。 どうか、どうか。 幸福に、大切に大きくなって、生きなさいね。 貴方は、線

          『祖母』2020.5.1

          『サソリ、星屑』2019.11.11

          神経毒みたいに 切なさを、擦り込む 落ちてきた星は、かんたんに せかいを壊しては、すぐに再生する サソリの尾に詰め込んだ夢が 痛覚をとおって 脳へ到達する、わたし おんなのこだった、気付いたら 地平線がみたくって、ビルに登ってた せかいが屑でもいいじゃん、って 星屑をたたえる学者たち てをたたきあって、ちきゅう 平和なあたし、隕石でばいばい あすがこないってないてる子ども ますい塗ってあげる、おてあて 裂ける空をぱっきんぐ もっつぁれらちーずが、あたしが嫌なやつって 怒ってた

          『サソリ、星屑』2019.11.11

          『銃殺』2019.10.24

          マーガリンを塗りたくる夜のダンス、白鳥の羽を表現した淡い広場、くるみ割り人形が踊り嘘つきを噛み砕く、ケタケタ笑う少女は指先で罪を摘み「あなたのせいに決まっているでしょう」誰が見てもそう。生まれてきて、そう過ごしてきて、腐って臭いを放っている。猟銃で何度も撃ち抜く、延髄を狙って。その汚い言葉が止まるまで、何度も「あなたのせいに決まっているでしょう」化けの毛皮を脱いだ青年の手に猟銃、撃ち抜く。何度も、血が噴き出るまで、脛骨が飛び散るまで、後悔するまで、気付くまで。恥ずかしい光景は

          『銃殺』2019.10.24

          『汚れないで、男の子』2020.3.21

          洗濯物が干してあるアパート プライバシーロス、君の生き様 玄関前で聞こえる君の声 スウェットの皺。ダサいTシャツ 君の声が私を呼ぶたび、 日常の匂いに慣れていくの 君が本当は天使なんだって 日常の匂いを知らない私が 抱きしめたら駄目だよ 汚れないで、男の子 野良猫に引っかかれたジャージ シルバーアクセと、外行きスタイル まだ干しっぱなしなのあのタオル ライブ行った夜、青い生ビール 君の目が私を見るたび、 非日常の夜が加速するの 君が本当は天使なんだって 君のいない時を生

          『汚れないで、男の子』2020.3.21

          『斜陽』2020.3.10

          待ってた 君を 指と指 溶け合う 心に触れてみたい 透明に 響き合う 暗い海の そこにいる 水面に太陽 届かない指 ずっと伸ばす 季節 斜陽 壊れてく 心情の限界 揺らめく 越えてく 繋がって再会 溶けゆく 触れたい 触れたい 煌めき

          『斜陽』2020.3.10

          『記憶を正にする√』2020.1.29

          硬化した心臓に、流れ込む微かの 忘れたい過去へ、呼吸を放り込む箱 風化した構造に、霧裂ける森との 此処じゃない今へ、散布を許される鳥 中身らが、むき出しにされて佇んでた その日の怪物たち、その日の動物たち 理性らが、四つ脚で這いつくばってた 認識をn個集めて、二乗して正にする√ ずっと、まだ来ない昨日を、正にする頻度 正にする√、心臓に流れ込む、呼吸を放り込む箱 ずっと、四つ脚の動物たちは待っていたんだ 流れ込む√、二乗して正にする、散布を許される鳥 あの日の怪物たちが、霧裂

          『記憶を正にする√』2020.1.29

          短編『MV』

          「お兄さん、悪いんだけどさ」  若い女の子だった。夕日に照らされる路地裏の壁に寄りかかって座り、脱力している。身軽そうなタンクトップに、ダメージの入った太腿の覗くスキニーパンツ。短く切りそろえられた金髪は、汗で額に張り付いている。 「救急車、呼んでもらってもいいかな?」  腹部に歪んだ円形の血染みができている。段々と大きくなっていく道路の血だまりの中心に、ストラップのついた一眼レフのカメラが沈んでいる。  この子は刺されたのだ、と理解したとき、向かい側から細身の女性が走

          短編『MV』

          『透明な心中の誘い』2019.12.29

          眠っていたのに、ねむれない、と思って起きた。 多分夢を見ていた。 何を見ていたのか曖昧。けれど、昔からの癖で、温かいお風呂に入ってから眠ると、不思議な夢を見るのを知っている。 起きたとき、身体の重さが違う。フラッシュバックのような、この世のものじゃないような、何かを見る。 温かい湖で溺れて死ぬ夢、かもしれない。 曖昧な吐き気が胃のあたりにまとわりついて残っている。 そうだ。私はいつも、溺れて死ぬ夢を見る。 陽で温められた水に包まれて、沈む。 きっとそんなに苦しい死

          『透明な心中の誘い』2019.12.29

          詩のタイトルを『Doll』にしたのですが、どうしても「Dole」に空目してしまってバナナがでてきます。変えた方がいいでしょうか

          詩のタイトルを『Doll』にしたのですが、どうしても「Dole」に空目してしまってバナナがでてきます。変えた方がいいでしょうか

          『Doll』2020.1.7

          退屈でありがちな子供がそこに立っていて, 虚に向けて言葉を浮遊させている. 浮かんだそれは, かわいらしいdollと, 透明な瞳に. 撃ち抜かれて沈んだ. 「もういらない」 伸ばした爪で引っ掻いた背中は蝶の形に, 「一人で生きるから」 飛べない癖に, と嗤うあたしは, 刻む秒針に怯えて, 殺されるのを待つ. もうすぐ終わるのは何_?.(ちやほやだって) 見てて欲しい, なんてほんきで, 脚先から朽ちていく身体が. <キレイ>とか. アイツらは言っててさ.(腐ってるよね) 精

          『Doll』2020.1.7