見出し画像

引力

 極端に単純化すると、人生(というより生命全般)はy=-ax+b(a>0,b>0)の一次関数のようなものに思える。この場合のxは時間軸で、yは生命力のようなものだ。生を与えられた瞬間、我々には既に命があり、いつかはy=0になり死んでいく。その前に別の個体に生命を授けれれば、個体としては死んでも命は受け継がれていくという見方もできよう。

 もちろん人生を単調減少として表すのは無理がある話なのだが、重要なのは我々はいつも死に向かう引力を受けているということである。生命はこの引力に抗うため、快不快というシステムを開発した。すなわち引力を不快・苦痛という形で感じ、それを振り切って上昇すれば快・幸福が得られるというものである。

 このシステムは生き残るには都合がよかったらしく、人間を含め多くの生物で採用され続けている。しかし厄介なことに、このシステムは生命の存続には適していたが、しかしこれで「幸福」になれるかというとそうではない。むしろ、敏感に苦痛を感じたほうが死の引力に抗いやすいだろう。苦痛を感じなかった者は死んでいくのだ。

 さらには、このシステムは死に直結しないような場面にも転用されている。実際、現代社会で人間が感じる苦痛の多くは死には直結するものではないだろう。現状に満足せず不快を感じた者が生存競争で有利だったのか、我々は死の引力を振り切りつつもなお快不快システムで動き続けている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?