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MGTOWと「男女平等」

 MGTOW(ミグタウ)とは "Men Going Their Own Way" すなわち「わが道を行く男たち」を指す略語で米国を中心に広がりを見せています。彼らは女性との恋愛や結婚がコストやリスクを考えると割に合わないと感じており、それらを「諦めて」男性としての社会的役割から降りた生活をしています。彼らは別に女性を蔑視しているわけではないという点で「インセル(不本意の禁欲主義者)」とは異なります。それどころか、ある意味で「男女平等」に最も近い存在でしょう。

 MGTOWが実現する「男女平等」とは、そもそも「男女」という枠組みをなくし誰でも同じ人間として扱うというものです。彼らは社会的に「男性」として振る舞うことも、女性を「女性」として見ることもやめてしまいました。これならば男女平等ですし、非常に消極的な方法とはいえ女性の人権も守られるでしょう。

 しかしこのようなMGTOW的男女平等が必ずしも女性から歓迎されるわけではありません。男性からのアプロ―チが無用な女性にとっては無害なだけかもしれませんが、男性パートナーを望む女性にとってはそうとも限りません。まずMGTOWは女性に「何もしない」ので害もないですが益もありません。またMGTOWになるような男性をパートナーにしたくないとしても、彼らが異性獲得競争から降りてしまうこと(=需要の減少)は彼女たちの利益に反するでしょう。

 つまり、そのような女性が求める「男女平等」では男女の枠組みを捨てるなどということは考えられないわけです。彼女たちは社会進出や「ハラスメント」の防止を求めているとしても、自らが社会的に「女性」でなくなることは想定していないようです。むしろ女性としての利益の最大化の方向に進んでいるように見えます。

 そのような「男女平等」は実現可能でしょうか。現に一部の男性たちは男であることを不利に感じてMGTOWになっています。単なるアプローチやその時は合意の上でなされた行為が「ハラスメント」として告発されかねないならば、女性に近づくこと自体がリスクになります。また、女性の社会進出が進んでもパートナーの男性に自分以上の稼得能力を要求するのであれば、パートナーを見つけるのが困難な人も増えるでしょう。

 一方でMGTOW的男女平等にも問題はあります。それは、MGTOWのような男女の役割から降りる人々は人口の再生産に貢献しないということです。彼ら(彼女ら)はパートナーを形成しないので、当然子供も生まれません。つまり、そのような男女平等主義者は出生率が高い集団にいずれ取って代わられる運命にあります。これはMGTOW的男女平等に限りませんが、出産が女性にしかできない以上、女性の自己決定権・社会進出と人口の再生産をどうやって両立させるかは難しい問題です。どうも有性生殖と男女平等というのは相性が悪いように思います

 おそらく今後、男性がMGTOWになるハードルは下がると思います。なぜなら、VRなどの発展で現実の女性と関わることなく性的欲求を満たすことは容易になると思われるからです。MGTOWになったところで男性としての性欲を消せるとは限りませんので、もしも仮想の女性で満足できる、さらには仮想のほうがよいとなれば現実を見限る人も増えるでしょう。あとは承認欲求の問題もありますが、MGTOWが増えればそのような意識は薄れるかもしれませんし、何らかの技術によって解決されるかもしれません。

 今後MGTOWがどこまで広まるかはわかりませんが、彼らは女性にとって望ましいかはともかく「男女平等」に向かう存在であり、リベラルの立場から彼らを批判することは困難でしょう

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