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3分の白昼夢/核心の見えない理由

私を木っ端みじんに振った男がバイト先にやってきた。
わざわざ私に会いに来たのだ。
もちろん、戸惑わないわけはない。
未練があったのだろうか。
そんな思いがもたげたのも事実だ。
「終わるまで待ってる」
変わらぬ笑顔で無邪気に言い残し、人けのない店内をうろつく。
その言葉がどんな意味を持つのかわかるはずもなく、時がすぎるのをひたすら願った。
「元気?」
私服に着替えた私を迎えた第一声。
「ちょっと喋ろう」
私たちは高台のガレージで取り止めのない話をした。
満月が見事に頂点をさす、そんな夜だった。
「お茶でも飲んでいく?」
自宅前まで丁寧に送ってくれた男に対し、口から滑り出た言葉だ。
男は悩む「ふり」をした。そして、「ちょっとだけ」と言った。
また、取り止めのない話が始まった。
本題がなにか一向に見える気配がない。
なぜ、私に会いにきたのか。なにかしらの理由があるはずなのだ。
「それじゃあ、そろそろ帰る」
男はそう言って立ち上がった。
「え?」
私の声はいつになく上ずっていたかもしれない。
「例の彼女は?」
言葉にしてわかった。きっと、それだけが、私は言いたかったのだ。
しかし、男は表情一つかえずに言った。
「元気だよ。仲良くやってる」
全身に鳥肌が立った。
鼓動が波打つのがわかる。
「なんで私に会いにきたの?」
精一杯、喉の奥から息を絞り出した。
「会いたかったから」
そこで初めて、男の眉が動いた。
「彼女がいるのに?!」
忘れかけていた木っ端みじんな気持ちが、残酷にも蘇った。
「なんで?」
理由が必ずあるはず。まだ一言も明かしていない「理由」が。
「なんでかな」男は微かに首をひねり、「わからない」と言った。
わからないはずはない。
理由が必ずあってしかるべきなのだ。
人間の行動には、理由が、必ずある。
私はたぶん、しつこく食い下がったのだと思う。
男の眉間に皺が刻まれ始めた。
「うーん、わかんないけど、気になったんだと思う。身体が弱かったし、心配になったんだと思う」
なんで?そう思うのは、どうしてなのか分からないの?
そう叫ぶかわりに、私は、最大級の皮肉を込めて言った。
「優しいんだね。どうして私に優しくしてくれるの?」
すると、男は笑った。眉間の皺が緩み、天井をほんの少し仰いで言った。

「そういう星のもとに生まれたから」

ひと時して、私も笑った。
そして、未練など、ことごとく消えてゆくのを感じた。

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