ごはんはできれば噛みたくない。
ガムも飴も丸呑みたい。
ママはよく噛みなさいという。
先生も３０回は噛めという。
噛むと頭がよくなるらしい。
噛めない（ぼくは噛まない）のは、噛む力が弱いのだそうだ。
だからミルクフランスで練習した。
１、２、３、４、５……。
噛む間は薄い地獄。
だって、ぼくは丸呑み隊。
どうして、丸呑みたいかと思うだろう。
答えは簡単。
食べている気になるからだ。
食べ物がのどを通る。
ぐびっと音がした。
ぐびっ。
もう一度。
ぐびっ。
ほら、ぼくは食べている！
でも、ぜんぜんわかってもらえない。
「あの子、噛んでません！」
ホームルームで告げ口された。

隣の席の子は丸呑みが好きだと教えてくれた。
ぼくたちは、ひそかに「丸呑み隊」を結成した。
放課後。
ミルクフランスを３０回噛む。
もう一人ではなくなった。