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素直になれなくて(Hard for me to say I'm sorry)

週末にちょっとした事故があった。チェイス(愛犬)がバイクに接触されて転んだという。
私はその場にいなかったのだが、マカロンさん(パートナー)の話によれば、双方怪我もなく済んだみたい。
よかった、よかった。

・・・のだけれど。
バイクを運転していたのは近所に住む10歳の女の子。

ニュージーランド、特に南島ではモーターレースが盛んで、小学校に上がるくらいの年齢になると、子供に(エンジン付きの)バイクを与える親は少なくない。しかもうちの近所はど田舎で、自宅の庭で十分に練習する広さがあるため子供はどんどん熱中していく。
ちょうどスクールホリデーであったことも手伝って、子供達の有り余ったエネルギーは自宅の土地だけでは物足りなくなり、近所の公道に出てくるようになる。違法ではあるんだけど、滅多に車が通らないくらいの田舎だし、近所の人たちは見て見ないふりをしていた。
バイクによる騒音が増えるまでは。

その日、わたしのかわりにマカロンさんがチェイスを散歩に連れ出してくれた。あと数百メートルで自宅、というところでご近所の男性に話しかけられたそう。
ゴシップの内容はズバリ「子供達のバイクによる騒音」。苦情のレターを親たちに思っている、と告げられた矢先に近づいてくるバイクの音。マカロンさんが急いで道の向こう側にいたチェイスを呼びもどそうとしたその瞬間。

カーブを曲がってきたバイクを避けようと、方向を変えたチェイス。
チェイスを避けようと、バイクを運転していた女の子はスピードを上げるという選択をした。結果、チェイスを横から押し倒す形になってしまった。
怪我がなかったのが本当に奇跡だ。
女の子はそのまま走り去ろうとしたそうだけど、そうはマカロンさんが許さない。

この時点でマカロンさんの怒りは頂点。
その女の子に向かって「公道を走ってはいけない」「歩行者や犬が歩いていたらスピードを落とす」「今から家に帰って、起こったことを全て親に正直に説明すること」を告げた。
女の子は素直に聞いて、でも謝らずに無言でそのまま去っていったらしい。

事故を起こした彼女のご両親は何も言って来なかった(想定内)。
事故発生時に女の子と一緒に走っていた男の子(8歳)のご両親からは謝罪の電話がきた。
そうして、子供達は一切公道に出てこなくなった。よって、ご近所の男性が用意した「苦情メール」は誰にも出すことなく解決した。
チェイスも念のためにレントゲンを撮ってみたけど、事故による影響はゼロとのことだったので私たちは忘れることにした。

なんだ、それは!と、納得のいかない方もいらっしゃるかもしれない。
でも、私はこの10歳の女の子の、おそらく初めて「他人に怒られた」であろうショックが良くわかる。
お父さんでもお母さんでも、学校の先生でもない、「知らない人に怒られる」という経験。これだけで十分だと私は思った。

思い起こせば約40年前。私も彼女くらいの歳だった頃、自転車を漕いで自宅に戻ろうとしていた。
絵に描いたような夕暮れ時で、眩しくて視界がはっきりしていなかったにもかかわらず、大きな道路を渡ってしまった。飛び出したと同時に、巨大なトラックが目の前で急ブレーキをかけて止まった。そして続くドライバーのおじさんの怒鳴り声。
もうちょっとで死ぬとこだった、ことよりもずっとずっと、ずーっと怖かった「知らない人に怒られた」事実。
四十年経った今でも鮮明に覚えてるくらいだから、よっぽどショックだったんだろうな。ひょっとしたら巨大トラックじゃなくて、軽トラだったのかもしれない。怖いおじさんじゃなくて、優しいお兄さんだったのかも。でも、それ程のインパクトだったと覚えているのですよ。
あれから道を渡る時は誰よりも慎重なゆうさんです(わたし)。
ベトナムに観光に行くことがあったとしても、道を渡ることが出来なくて帰ってきそう。

昭和ど真ん中のあの頃に比べて社会は大きく変わっているので、知らない人に(正当な理由で)怒られたことのある経験を持つ子はすごく少ないのかもしれない。
地域社会によってはひょっとして、「他人の子供を叱る」という行為は受け入れられないのかもしれないので、そこを奨励しているわけではなくて。
その時に「ゴメンなさい」が言えない子供たちのこと。

あの日のわたしも叱ってくれたおじさんに「ゴメンなさい」を言ってない。この女の子同様、どちらかというと不貞腐れた態度でその場を離れた記憶がある。10歳の女子に、自分の非を認めた上で叱ってくれた人に感謝する、なんていう大人な対応は難しいよね。心の中では百万回の「ごめんなさい」を唱えていても。

だからきっとこの事故を起こした女の子も、心の中ではチェイスに百万回の「ごめんなさい」を唱えていてくれてたんじゃないかなあ。
と、思うんですよね。


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