消えるUX

議事録に書かれた幸福な落書き

社内の会議で、ひとりがGoogleDocumentで議事録をとり、リアルタイムでみんながそれを手元で読みながら話し合うことが良くある。

会議が煮詰まってくると、誰からともなく議事録の末尾にくだらないことを書く。お腹が空いたとか、意味のない絵文字とか。それでくすくす笑い、温かい空気を作り、話し合いの本題へ戻る。

会議が終わる頃にはそんな落書きも消して、真面目に話し合ったような顔で綺麗な議事録が残る。チームに奇妙な連帯感が残る。その空気の心地よさはうまく言語化できない。

私たちはログを残しすぎる

日々ソースコードを触るような仕事をしていると、私たちはログを残しすぎる。決断の責任を残すためであり、エラー時の原因を掘り起こして失敗を繰り返さないようにするためでもある。

しかしながら、親しい人との日常の会話は生き物で、変化する。相手に伝えた瞬間に虚空に消える。記憶にアーカイブされてそれもやがて消えて行く。無責任で優しい、刹那的で愛しい名残。波打ち際の砂の城のように朝には消えている。それが本来の形であり、一度この感覚を味わうと、一方でLINEでは少し緊張して話しているのだということがわかる。

「消える」ということが、自然な人間の姿に寄り添っているのだ。

Instagramストーリーが広めた「消える」体験

「消える」を起点とした体験についてすぐにみんなが想像できるのは「Instagramストーリー」と「Snapchat」だ。双方で共通して言えるのは、ログが残る他のサービスよりもずっと取り繕わない自然な人間の姿が表現されているということ。

いいねも押さなくていい、見ても見なくてもいい。「24時間でどのみち消える」ということが、フォトジェニックであるべきというルールを排除し、よりリアルタイムを表現できるようになった。

制限を加えることで浮かび上がる世界

Twitterがウェブログに勝ったのは、人間の思考が140文字という限定された文字空間と相性がよかったからである。雑音としてロスト・イン・トランスレーションされていた細やかな思考を、140文字という制限をつけたことで表現できるようになった。その雑音が巨大なクラウドとなり、私たちはより繊細な情報を得られるようになった。

そこから始まるコミュニケーションを、人生の小さな変化を、これを読むあなたもきっと体験したことがあるだろう。

「消えるUX」の未来

「消える」という領域については、サービスデザインの世界ではまだ突き詰め切れておらず、「残す」ことに囚われている。
Instagramのような「写真」だけでなく、本当は、音も、地図も、予定も、「消える」ことが何か正しい可能性だってある。

この起点で人間のコミュニケーションをより深く考えて行くことが、新しい体験の糸口になって行くだろう。

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この記事は ペパボデザイナー Advent Calendar 2018の4日目です。執筆には @keita_kawamoto のフィードバックを頂きました。

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小山田翔子

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