忘れられない味
珍道中の旅だった。
年齢も仕事も服の趣味もバラバラで
どんな関係か尋ねたくなるメンバーだったが、
旅館の女将はプロらしい微笑みで迎えてくれた。
私たちは仕事を離れた場所で知り合った。
適度な距離感と、遠慮なく言う性格がお互いに気に入り、
3回ぐらい飲んだ後、旅行に行った。
「くじ引きで当たった相手に似合う衣装を準備してくる」
というコスプレ企画をして、
大笑いでお互いの写真を撮り合った。
翌日、旅館近くで観光客向けの参加プログラムがあり、
民家におじいさんが2人いて、ワラ草履作りを教えてくれた。
祖父を早くに亡くした私は年寄りと話すのが好きで、
あれこれとよもやま話をしていたら
「食べるか?」と、
自分たちの飲み物を冷やしていた冷蔵庫から
冷えたトマトを出してくれた。
キンキンに冷えていて、
かぶりつくと甘い汁が滴り落ちた。
やがて私たちは会わなくなってしまったが、
あれを超えるトマトに出会っていない。
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