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井泉

 御徒町駅近く、ゴリッゴリの風俗店の裏手にその店はあった。失礼ながら街並みに似合わないような老舗風の店構え。
 日曜の夜7時過ぎ。閉店時間も迫っていたからなのか、外に並ぶ行列はなかったけれど、店内の椅子でしばらく待つことになった。待っている間にメニューを渡される。そこに得意気に挟まれていた記事で知ったのだが、カツサンド発祥の店らしい。それからあとで調べたところ(Wikipediaにページがあった!)、「まい泉」もここから派生したらしい。ほんとに老舗だったのね。
 名物らしいヒレカツ定食を注文する。ロースカツの方が好きだけど、「箸で切れる」と書いてあるのを見つけたら頼まないわけにはいかない。案内されたカウンターで料理を待っていると、広めの席が空いたらしく移動させてもらえた。調理場の目の前。フライヤーでぷちぷち音を立てるカツをすくい上げてバットに載せる。小さな木のまな板でカットする。パンに挟んでカットする。カツサンド食べたい。

 注文した料理が届いた。キャベツとパセリとトンカツ。漬け物。ごはん。豚汁。豚汁!大きめの白ネギが浮いていて、豚はたぶん豚カツ用のごろっとした塊肉。このパターンは初めてかも。カツはなんだか丸くてかわいいフォルム。オムレツのような、分厚くて丸い掌のような。さて、満を持して箸を入れてみる。すっと、とはいかないけれど、ちくわを切るくらいの頑張り具合で、本当に箸で切れてしまった。しっかり火が通っているけど柔らかいとんかつ。これなら冷めても柔らかいんだろうな。カツサンド食べたい。
 会計のときに気づいたけれど、店内は意外と広くて、別棟もあるみたいだ。こんど行ってみたいな。
 御徒町〜上野界隈が激戦区なのもあるけれど、ここみたいに昭和一けた生まれの老舗から、できたばかりの新店舗まで、ひと駅のエリアで何十ものとんかつ屋さんが成り立つあたり、東京は本当に豚食文化なんだなぁ。カツサンド食べたい。

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