第二回「参考文献をめぐる経緯と論点」①経緯

 第一回「パクりをめぐる経緯と論点」では、「コンピュータ発!現代将棋新定跡(suimon マイナビ出版)」が千田翔太六段の「C-book」のパクり(盗作・剽窃)であるかの経緯と論点についてまとめた。

 第二回「参考文献をめぐる経緯と論点」では、その後千田氏側が主張した「参考文献と引用」に関する経緯と論点についてまとめていく。(「①経緯」と「②論点」の2分割を予定)

 本稿では「①経緯」を中心に記していく。

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★目次

1 経緯
1.1 論点変更への経緯
1.2 参考文献と引用の問題
1.3 詫び文が掲載される
1.4 その後の経過

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1 経緯

1.1 論点変更への経緯

 suimon氏は8月4日に本件に関する詳細な報告書をマイナビ出版に提出した。千田氏の「現代将棋新定跡はC-bookのパクり(盗作・剽窃)である」という主張を退けるには十分な量と質の報告書であった。(→第一回「パクりをめぐる経緯と論点」参照)
 やはり「同一手順が出てくる」ことで「パクり(盗作・剽窃)」を主張するのは無理がある。
 私はうちうちで話し合いが行われ、落としどころが探られ、特に大きな問題となることなく本件は終了するものだと考えていた。

 初動から約2週間後の8月17日、再びsuimon氏から私に連絡が入った。マイナビ出版から本件に関するメールが届いたのだという。

<マイナビ出版からのメールの要約>
・マイナビ出版と千田翔太六段で話し合いを行い、HP上に詫び文を掲載することにした。
・詫び文の内容。(現在掲載されているものとほぼ変わらないもの)

 この時点までで、suimon氏には話し合いの内容が明かされていなかった。
 流石に理由がわからないままでは判断できないので、マイナビ出版に質問を行ったところ、千田氏側の新しい主張が明らかになった。


1.2 参考文献と引用の問題

千田氏の新しい主張は次の通りである。

<千田氏の新しい主張>
・「現代将棋新定跡」は巻末の参考文献に「千田翔太六段作成の定跡」と記載している。
・参考文献として記載している以上、故意ではなかったにせよ、同一手順がある部分についてはそれが引用であることを明示しなければならない。

◆このロジックの正当性については、「②論点」で検証していく。
◆ここで一言書いておくと、私は千田氏のこのロジックを聞いてそこに明確な悪意があると感じた。

 「現代将棋新定跡」のマイナビ出版担当者はかなり若い人であったと記憶している。
 彼は千田氏の新しいロジックの前に屈してしまったらしい。
 彼がどのように検証を行い、どのように受け止めたか――というと以下のようになる。

<マイナビ出版担当者の検証と判断>
・報告書を元に、現代将棋新定跡と千田氏の定跡の一致程度をひたすら確認した。
・今回の千田氏の言い分(参考文献と引用における過失)はもっともである。
・(マイナビ出版側の)参考文献に対する認識が足りなかった。
・謝罪はマイナビ出版が読者に対して出すという形で行う。

◆「一致程度」ってどこかで聞いたことのあるフレーズ……。
◆論点で詳しく書くが、これを「千田基準(手順の引用明示の義務付け)」として受け入れてしまうと将棋書籍出版の実務が相当やりにくくなる。
→色々書きたいことがあるが、「②論点」で詳述する。

 suimon氏は詫び文を出すとしても、当該手順に関してfloodgateのほうがC-bookより先に出ていることや、報告書の内容も一緒に掲載して欲しいと要望を出した。
 しかし、以下の理由で退けられることとなった。

<詫び文にsuimon氏側の主張を掲載しない理由>
・「floodgate→C-book→現代将棋新定跡」という初出情報の流れを出すと、読者に言い訳がましく受け止められてしまいかねない。
・今は⑧⑨だけで済んでいるが、反論をすればより広範囲について千田氏が主張をしてきかねない。
・我慢していただくことが多く心苦しい。
・納得しろとは言わないが、ご理解いただければ。

◆このあたりのマイナビ出版の姿勢・対応・論理はため息しか出ない。
◆たとえ参考文献や引用の書き方に何か問題があったとしても(まぁ、ないのだが)、詫び文での謝罪とは論理的なつながりがない。
→色々書きたいことがあるが、「②論点」で詳述する。

 詫び文を出すことは既に強く決定していて、どうにもならない感じであったため、suimon氏も納得はしないが、詫び文掲載の承諾は行っている。

◆この承諾はsuimon氏の落ち度と言えば落ち度かもしれないが、初出版で担当のほうから謝罪方針は決定済のように言われるとどうすることもできない……というのが実情だろう。

◆suimon氏と私は、詫び文が出され、そのおかしさが第三者から指摘されるような事態になった時、あるいは千田氏がウェブ上で強い調子で言論を行い始めた場合に、当初からの事情を知る橋本(私)が公に議論を行う――という方針を決めた。

1.3 詫び文が掲載される

8月21日(火)にマイナビ出版のHP上に以下の詫び文が掲載された。


2018.08.21

「コンピュータ発!現代将棋新定跡」についてのお詫び 

   2018年6月に発売しました「コンピュータ発!現代将棋新定跡」において、参考文献として挙げた千田翔太六段が作成した定跡(「C-book_2017」など)の手順と同一の部分がありました。その他にも参考文献からの引用が多く、差別化が行われておらず、誠に申し訳ございませんでした。 
  
同一部分は以下のとおりです。   

「コンピュータ発!現代将棋新定跡」
第2章 角換わり▲4八金
第3節 ▲4八金・△6二金(▲2五歩型)
p.100~p102、p.106~p108の本手順  

将棋情報局/『「コンピュータ発!現代将棋新定跡」についてのお詫び』/魚拓


 20日(月)に掲載されるものと思っていたが、実際は一日遅れの21日(火)の掲載であった。
 また、この詫び文に関しては、メールにおいて「こういう詫び文を出します」とsuimon氏に事前に承諾をとった文面とわずかに異なっていた。

 suimon氏へのメールでは「参考文献との差別化が行われておらず、」と書かれていた部分が「その他にも参考文献からの引用が多く、差別化が行われておらず、」に変えられていたのだ。

 文面が一部変更されていたことを疑問に思ったsuimon氏は、マイナビ出版に問い合わせを行った。
 マイナビ出版側の答えは以下であった。

<マイナビ出版が詫び文の文面変更を行った理由>
・事後承諾で申し訳ない。
・千田翔太六段から当日(8月21日)追加の要望があったため文面変更を行った。

◆詫び文といった重要な情報を著者の承諾なしに文面変更することは許されるのか? 私は重大な瑕疵であると考える。
◆著者ではなくどこまでも千田氏の言い分が尊重されている。
◆マイナビ出版の本件を通しての行動・姿勢に関してはまた別の回で集中して書く。

1.4 その後の経過

 詫び文掲載後、下手にツイートを行うことでの炎上を避けるため、suimon氏と私は沈黙状態に入った。
 千田氏のツイート、まとめサイトでの取り上げ、第三者のツイートが行われていく中で、本件に関する議論の流れは変わっていくこととなる。
 詫び文公開以降の流れについては第三回でまとめたい。

→「②論点」へ


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