第五回「本件における千田氏の問題点」

 本件におけるプロ棋士・千田翔太六段の問題点を検討していく。
 千田氏は研究にコンピュータ将棋を取り入れた棋士の第一人者とみなされており、タイトル挑戦経験もある有力棋士だ。
 しかし、批判されるべきことは批判されなければならない。

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★目次
1 問題点

1.1 初動の抗議はどうだったか?
1.2 2巡目の主張はどうだったか?
1.3 詫び文と論評
1.4 引き際の悪さ
1.5 三浦九段冤罪事件と同じ傾向の過ちを繰り返している
1.6 本件に関して千田氏の周囲の人に望むこと
1.7 千田氏の本件における動機は何だったのか?
1.8 C-bookにあった可能性
1.9 才能ある棋士であるのは確か

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1 問題点

1.1 初動の抗議はどうだったか?

 千田氏は「現代将棋新定跡」を手にし、自分の定跡ファイルである「C-book」と同一手順が出てくるということで抗議を行った。
 「現代将棋新定跡はC-bookのパクりである」という主張は現時点では退けられているが、知識のない初動時において千田氏にそこまで求めようとは思わない。
 何か疑問に思った時に出版社に問い合わせを行うことは、読者の権利であるとも思うからだ。

◆初動時の千田氏の行動を批判しようとは思わない。抗議やクレーム自体は読者の権利のひとつである。
◆参考:第一回①

1.2 2巡目の主張はどうだったか?

 パクりという主張が通らなかった千田氏は「参考文献と引用の問題」という2巡目の主張を行い、詫び文の掲載を強く迫った。
 これは私が不思議に思った行動だった。
 問題が「参考文献と引用」であるならば、重版時に問題個所を訂正することでうちうちに対応可能である。
 なぜそこまで強く謝罪を要求したのか? 疑問である。

◆2巡目の主張からの千田氏の行動には正当性がない。
◆棋書の未来や公共のことを一切考慮に入れていない。
◆有力棋士としての権力を濫用した。
◆参考:第二回①

1.3 詫び文と論評

 千田氏の2巡目の主張が正しいとすると、謝罪をするのは「参考文献の書き方が適切ではありませんでした」に対してだろう。しかし、実際の詫び文は「同一手順があり」「引用が多く」「差別化が行われていない」ことを謝っている。
 結局のところ、「現代将棋新定跡はC-bookのパクり本です」と認めさせ、謝らせたかっただけではないのか。

 千田氏の言論の自由を奪うつもりはない。千田氏が「現代将棋新定跡はC-bookのパクり本」で「差別化がはかれていない」と思ったのならば、ツイッターやブログでそう発信すればよかったのだ。その形式を取っていれば、論評・批評の範囲内に収まっていた。商品として市場に出た書籍が読者から徹底的に批評されるのは当然のことだからである。
 もちろん、千田氏がそのように発言すれば事実が精査され、反撃を受けることになっただろう。自分の言論の責任を取らされることになっただろう。それでも論評・批評の範囲内には収まっている。
 出版社のHP上にマイナスの論評を掲示させ、謝罪させるのは、明らかに論評・批評の範囲を逸脱している。

千田氏は「現代将棋新定跡」を批判をするなら、自分の責任でツイッターやブログその他で行えばよかった。有力棋士という立場を使って出版社のHPにマイナスの論評を詫び文として掲載させるべきではなかった。
◆参考:詫び文
◆参考:第一回②

1.4 引き際の悪さ

 千田氏自身、自分の主張に明確な根拠がないと気付いたのはツイッター上での説明を打ち切った8月25日頃ではなかったか。その時点で自分の誤りを認め、詫び文を取り下げさせるなどの行動に出ればよかったのである。
 私もsuimon氏も、プレイヤーとしての千田氏のことは尊敬している。言論において強く責めるようなことは考えていなかった。(もちろん、本件で何が問題となったかだけは広く周知させるつもりではあったが)
 
 千田氏は水面下では今もなお間違いを認めていないのではないか。なぜ詫び文の撤回を認めないのか。当然ながら今後も追及していくことになる。

◆間違いがあったとしても引くことができなかった。認めることができなかった。(というよりも現在進行形でできていない)

1.5 三浦九段冤罪事件と同じ傾向の過ちを繰り返している

 三浦九段冤罪事件における「一致率」は一見何かを語っているように見えたが、三浦九段がクロであると断定できる類の情報ではなかった。
 本件でも千田氏はかなり断定的な推論を行い、「現代将棋新定跡の手順はC-bookのパクりだ」と主張した。

・⑧⑨は普通にコンピュータに読ませたら本線として出てこないはずと強く主張。
・この手順は自身のオリジナルで、この手以外にも有力な手は複数あり、それらが掲載されずに⑧⑨のみが載っているのはおかしい。

が特にそうなのだが、これを断定的に言ってしまうのはコンピュータ将棋による研究の第一人者としても問題があるのではないか。
◆参考:第一回②

 三浦九段冤罪事件でもそうだったが、千田氏の断定的な主張によって相手が受けるダメージが大き過ぎるのである。
 千田氏の主張が通ったまま放置されていれば、suimon氏は今後将棋について何か語ることが難しくなっていたはずであるし、会社人としての生活にも支障をきたした可能性がある。(この1か月半の対応や詫び文の掲載によって十分大きなダメージを受けているわけなのだが)

 三浦九段冤罪事件に対して千田氏は何らの罰も受けていない。今回の件でも受けないのだろう。
 一歩間違えば相手を破滅に追いやる行動をとるには、コストと代償が小さ過ぎやしないだろうか?

1.6 本件に関して千田氏の周囲の人に望むこと

 本件に関して千田氏がなんらかの罰を受けることは考えにくい。別に私も彼が罰を受けることを特に望んではいない。千田氏に対して何も期待していないからだ。
 私は千田氏の周囲の人に望む。
 千田氏が相手を強く傷付ける可能性がある行動や言論に出た時、疑いの目を持って対応すべきということだ。彼には三浦九段冤罪事件と本件での過ちという前科がある。

 suimon氏は自身の名誉回復を望んでいるだけである。私も本稿で厳しいことを言っているようだが、かなり甘い。相当控えめに書いている。
 しかし、千田氏が今後も同じ傾向の間違いを繰り返していった時、確実に「甘くない人達」とぶつかることになる。
 もし千田氏に本当の友人がいるのであれば、そうなる前に止めてやるべきだろう。

1.7 千田氏の本件における動機は何だったのか?

 当初の抗議は間違いではあっても動機はわかりやすかった。しかし、2巡目以降の抗議には主張の正当性が感じられなかった。本件の途中で引き際はあったし、うちうちでの和解など別の道をとることもできた。しかし、彼が最後までHP上での謝罪文掲載を強く求め続けたことは事実だ。一体なぜそこまでしてHP上での詫び文の掲載にこだわったのだろうか? 本当の理由は本人にしかわからないのだろうが、合理的な推測ぐらいは可能だろう。

 色々と仮説を立てようとしたが、動機として納得できるのはsuimon氏が気に食わなかったから――ぐらいしかない。流石に「C-bookの権利主張を通すことによって、C-bookによる将棋定跡の統一をはかる――」といったようなことではないだろう。(その目的を目指すには本件の行動は逆効果である)それとも自分のロジックをいまだに信じ切っているのだろうか。

1.8 C-bookにあった可能性

 私は、千田氏が行ったC-bookの一般公開自体は先進的な試みであったと評価している。使い勝手はまだ悪いとは思ったが、合う人には抜群に合う研究法ではある。
 私はコンピュータ将棋が膨大な棋譜や定跡を生成していく中で、何か基準・標準になるものがあってもいいと考えていた。
 プロ棋士の棋譜も候補のひとつではあるが、コンピュータの棋譜に比べて数が少ないという欠点がある。floodgateの棋譜も有力な候補であるが、公的な権威があるわけではない。
 「C-book」は膨大な棋譜数という基準をクリアし、現役の有力棋士が作成しているという権威の裏付けもある。有力なプログラマーの方々と組むことによって使い勝手を改善すれば、将棋定跡を語る上で「C-book」が基準・標準となる未来もあったはずだ。
(具体的な改善としては、局面検索機能の追加、手順の個所に名前を与えて指定できるようにするなど。※箇所の指定機能は参考文献としての言及の際に役立つ。※「C-book」を将棋定跡の共有地図にしようという構想)

 C-bookには大きな可能性があった。千田氏の一時の感情でその可能性が閉ざされたことは残念でならない。
(過剰な権利意識のもとでは上記の構想は実現不可能である。クレームリスクは思いのほか大きい)

 本件を冷静に見ている人達は、今回の抗議や行動は千田氏自身に何の得ももたらさず、損しかしていないと感じている。

1.9 才能ある棋士であるのは確か

 千田氏が才能ある棋士なのは確かだ。コンピュータ将棋をここまで信奉するプレイヤーというのも珍しく、キャラクターも立っている。
 千田氏は若くしてプロ棋士になり、タイトル挑戦を果たし、角換わり▲4八金型で升田賞を授賞している。私やsuimon氏から見ると眩いばかりの経歴である。
 三浦九段冤罪事件や本件で見せた、「強い思い込みによる暴走」さえなければ、全てにおいて素晴らしい棋士であると言ってよい。

 こんなことを私が言うのもあれだが、何か重要な判断(特に相手を強く傷付ける可能性があること)をする前に、社会性があり信頼できる人に相談するとよいのではないだろうか。そして、その人の言うことを真摯に聞いて受け止めるのである。そうした人は将棋界にたくさんいると思うし、他業界の人でも構わないと思う。(ネット上の匿名の人々ではなく、リアルの人々の意見や考えを大事にしよう)
 千田氏はその弱点さえ克服してしまえば、かなり幸福な人生が送れるように思う。コンピュータ将棋を通してできることも大きくなるだろうし、多くの人に信頼され、感謝されるはずだ。

 私自身、自分の人生の課題を克服できていない人間なので、この種の改善が難しいことは理解している。
 ただ、千田氏は自分が他の人々よりも多くのものを持っている人間であることを自覚して欲しい。
 一般の将棋ファンはあなたに優しい。あなたが間違いを認めたとしても決して離れていかない。(逆に人間的成長として評価されると思う)

(続く)


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